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第六章 貴方が狩りゲーで重視するのはなんですか?
《side 財前 仁美》
しおりを挟む昇級試験メンバーを見た時、俺は絶望に打ちひしがれた。俺はきっと平凡チームだろと思っていたのに、そこにあったのは鎖真那と萩野の文字だったからだ。
――神は死んだ。そして俺もきっと死ぬ。
せっかく生きる楽しみを見つけたというのにこの仕打ちは酷いだろう神様。
「ドンマイ....来世に期待しろ」
友人から向けられる憐憫と同情の眼差しに涙が流れそうだった。いや、ぶっちゃけ泣きたかった。だけど男としての矜恃が俺を踏み留まらせる。畜生。
「って、あれ?お前あの副委員長と一緒じゃないか」
その友人の言葉に俺は復活。
なんなら神に感謝した。手のひら返し?なんとでも言え!
「俺っ、生きててよかった……」
「大袈裟な」
うるせぇ!俺にとって副委員長は重要人物なんだよ!そんな人とお近づきになれるチャンスがあるのを感謝して何が悪い。
そして昇級試験当日。
俺は生副委員長とついに言葉を交わした。
「えっと、酷いチームメンバーかもしれませんが一緒に頑張りましょう」
めっちゃ優しい。戦闘狂と役持ちに懐かれてる姿から、どんな狂人なんだとビクビクしていたのが馬鹿らしいほどマトモそうな人だった。
俺は確信した。このチームなら無事に試験をクリアできると。もし戦闘狂と会計だけのチームなら自主退学してでも逃げたが、一条さんがいるなら話は別だ。
「懐かれてるかは置いといて.....君にちょっかいかけないよう注意しときますね」
手網を持つ人間がいれば俺安全!!
その安全性さえ確認できたなら俺は俺の成すことに集中できる。
ということで.....
「あざっす!――ところで風紀委員長と.....」
『昇級試験始めんぞーーーーー!!!』
ちっ、タイミングの悪い。せっかく風紀委員長と一条さんの関係を聞こうと思ったのに。あのクソ教師め。
そしてなんやかんやあって試験スタート。
俺達は宛もなく森を突き進む。
途中双剣を拾ったが、それ以外にもチラホラと武器が落ちているのを発見した。
武器落とすってなんだよ.....落とした奴は命を捨てるつもりなのか?
「なかなか接敵しませんね。.....ちょっと休憩しません?」
一条さんの言葉に休憩することになった。
今は7月ということもあり蒸し蒸しとした暑さがある。気温が高いだけならまだそこまで苦ではないのだが、俺達は軍服を纏っているため超暑い。
俺なんか汗だーだーだ。
なのに....
チラリと一条さんを見る。
きっちり軍服を着込んでいるにも関わらず、汗ひとつない肌に、涼し気な口元。もっさい髪型してる割に汗をかいている様子がないとかどういうこと??
会計なんか軍服をそこら辺に脱ぎ捨てインナー1枚で過ごしているし、戦闘狂なんかは半裸だ。
全校集会で見せた肉体美を惜しげも無く晒している。
「お2人とも、自ら防御力を下げるのはどうかと思うのですけど?」
一条さんが2人の格好を見かねたのか苦言を呈す。
だけど2人はどこ吹く風で言い返した。
「大丈夫大丈夫~、カタラごときに遅れは取らないから」
「同意」
「――サマ臣君は身体を一番大事にしなきゃいけないんじゃないですか」
その言葉に俺は内心首を傾げるが、戦闘狂は見るのもはばかられるほどゾッとする笑みを浮かべた。
「やっぱわかるよなぁ!かっかっか!――なぁ、オレはお前のために全てを晒したんだ。その健気な思いにちょっとは応えてくれよ」
睦言のように囁き、男は彼を抱き寄せる。
なんだかいけないものを見ているような気分になり目を逸らすが、耳はしっかりと彼らの会話を聞かんとしていた。
うわぁ~っ、なんかエロいんだが!?
ドギマギしながらも、そばだてた耳は鼻で笑う声を拾う。
「はっ、あははは。何をおっしゃっているのやら。あれは貴方が勝手にやったことでしょう?僕は頼んでいません。それに僕は勝者で貴方は敗者.....それをお忘れなく」
「~~っ、いひひひ!敗者に求める資格はねぇってか!ほんっとうにお前は最高だな!!」
ぎゃーーーっ!!一条さんに頬ずりするんじゃねぇこの野郎!!
一条さんには風紀委員長がいんだよっ、離れろ馬鹿野郎!!委員長×一条さんしか認めねぇぞ俺は!!
内心ではそう叫びながらも、言葉に出せず2人のやり取りを凝視する。くそっ、目が離せない!
「あぁ~.....なるほど。雅っちは完全にイッチーに落ちてるんだ。あーはいはい。――やっぱりイッチーは面白いなぁ」
ぐぅ、会計の不穏な言葉に突っ込むことも、戦闘狂に面と向かってやめろとも言えないチキンな俺を許してくれ一条さん。
だがっ!!これだけは言える!
「い、いいい一条さん!もう休憩終わりにしねぇか!?」
「.....そうですね。そろそろ行きましょうか」
よし、ナイス俺。頑張った俺。
「ほら、くっついてないで行きますよ。暑苦しい」
「つれねぇこと言うなよ。もっと仲良くしようぜ?」
「む.....なら貴方の弱点教えてください。そうしたら仲良くしてあげますよ」
「えっ、それ俺も気になる~!」
「気分がいいからいいぜ。オレは見ての通り身体が一番大事だ。少しでも体調が悪くなると異能の調子がイマイチになるからな。……弱点といえばそれくらいだ」
「へぇー!なら媚薬とか毒薬とか痺れ薬とかどうなの?」
「ダメだ。だから食事には1番気をつけている」
「食堂では普通に食べてなかったですか?」
「あれは事前に食堂で食うことを伝えて、鎖真那家専属の料理人に作らせてる」
「徹底してるねぇ~」
お、俺が聞いてもいい話なのかこれ?
あとから戦闘狂に消されない?大丈夫?
「これで仲良くしてくれるか?」
「もちろんです」
お互い笑みを向け合う彼らを見ていると、こう....背筋がゾワゾワするのはなんでだろうか。友達ってこういう感じか?
なーんか心穏やかに過ごせねぇなぁこのチーム。
いやまぁ期待はしてなかったけど。
《side end》
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