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第六章 貴方が狩りゲーで重視するのはなんですか?

《no side》

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小さくなる燈弥の背中に紗里斗は舌打ちをした。

あの人は風紀をめちゃくちゃにするだけして、去って行った。人の心の隙間にスルりと入って懐かせたと思ったら、なんの未練もなくポイ捨てする。

なんてタチの悪い男だろうか?
だから嫌いなんですよ。

紗里斗は内心そう吐き捨てる。


風紀室内に再び足を踏み入れると燈弥にポイ捨てされた哀れな委員達が情けない顔で紗里斗を見ていた。その姿がまるで母親に置いてかれた子供のようで.....感心する。まさか数ヶ月でここまで委員達の心を掴むなんて――やはりタチが悪い。


「なんですかその顔は。一条さんが居なくなったからなんだというのです?ただ前に戻っただけですよ」


燈弥が来る前の風紀は規律厳しい軍隊のようなものだった。上司の命令は絶対。上司の機嫌を損ねる者には罰を。規律を守れぬ者にも罰を。

彼らは思考に蓋をし機械的に動いていた。なぜなら思考は感情を呼び、感情は判断を鈍らせるから。
燈弥に馬鹿と言われている黄犀と紫蛇ですら思考に蓋をし行動していた。今では馬鹿と呼ばれているが、その昔は逆で、風紀の中でも一、二を争うほどの優秀さだった。

永利が高校に上がり、数日で調教した結果が彼らである。

これだけで緋賀の特異性、異質さがわかるというものだ。



「哀嶋副委員長.....でも、いつもこの時間帯にお菓子が配られるんです」

「書類が増えてるぅ(泣)」

「黄犀がいません!どうしましょう?」

「こっちは紫蛇がいないですぅ」

「お菓子食べたい」


紗里斗はため息をついた。
昔はこんなに口ごたえすることなかったのに、と。
たとえ同僚が行方不明になっても顔色変えず淡々と業務をこなしていたのに、随分と人間らしくなったものだ。


ガ ッ シ ャ ァ ァ ァ ァ ッ ン!!!!


その時、風紀委員長室から大きな音が聞こえた。


「......私は見回りに行ってきます」


そそくさと風紀室を出る紗里斗だが、委員達が一斉にその細腰へと抱きついた。


「ちょっと!?私に抱きついていいのは雅臣だけなんですが!?」

「あんな状態の委員長を置いて見回りに行くなんて酷いですっ」

「今日に限って登坂君と兎道君が非番なんですよ!?頼れるのは哀嶋副委員長しかいません!」

「怖いですぅぅぅぅぅぅ」

「えぇぇい!うるさいですね!?赤鼠はどこにいます!?一条さんから委員長の対処法聞いてないか問いただして――」

「赤鼠なら我先へと茶牛を引連れて窓から逃げました!」

「......はぁ、恨むなら委員長をあそこまで変えた一条さんを恨んでください。私は雅――ゴホン!戦闘狂を捕縛するという使命がありますので」


非情にもまとわりつく委員達を蹴散らし、紗里斗は廊下を歩いていった。蹴散らされた委員達はというと、燈弥を恋しがりながらも渋々各自の席につき仕事に――


「クソがァァァァァァァァァっ!!!!!」


仕事に取り組まず、地獄の怨嗟のような声に一目散に風紀室から逃げ出した。

もぬけの殻となった風紀室。赤鼠達が逃げ出した窓から一陣の風が入り込み書類を散らす。

だが、風紀室のその奥にある風紀委員長室では書類だけではなく色々なものが破壊され地面に散らばっていた。


残骸の中央にひとり立つ緋賀 永利は怒りに顔を歪め、デスクを蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたデスクは壁にぶつかり轟音を轟かせ倒れた。

それでも永利の怒りは収まらない。


「死ねっ、死ねっ、死ねぇぇぇぇぇぇぇ!あのクソ野郎っ!!死ねっ!あいつをあの時殺さなかった俺も死ね!」


憎悪溢れる言葉に悔恨の呪詛。
口に出せばだすほど憎しみと恨みが募った。
その激情のまま壁を殴りつけば壁は凹み永利の手からは血が滲む。それでもなお殴り続けた。

自分を傷つけるように。


「あの時っ、あいつを見捨てて帰れば.....!」


そうすれば、自分の元から去る背中を見ずに済んだのに――


『今君の前に居るのは一条 燈弥です』


頭をよぎる記憶に壁を殴る手がピタリと止まる。


「俺は.....俺はなんでこんな苛立ってんだ?」


夢から覚めたように呆然と呟く。
わからない。
永利は自分の感情がわからなかった。

全校集会のとき、自身に背を向けた燈弥を引き止めたのはなぜだったか。

――それはアイツの去る光景に重なって見えたからだ

だから裾を掴んだんだと。そう答えをだした。



全校集会で永利はやっとわかったのだ。
燈弥にどうしてここまで執着するのか、束縛するのか。
燈弥と永利が思うアイツはとても似ている。だから無意識に甘えていたし、そばに置いときたかったし、離れたくなかった。

でも燈弥はアイツではない。

燈弥は言った『今君の前に居るのは一条 燈弥です』と。自分は決して貴方が恋焦がれるアイツにはなれないと、そう言っているように永利は聞こえた。

つまり、燈弥は燈弥でしかないのだ。

あの全校集会でそのことに気づいた永利は燈弥を求めることを止める。


――アイツの代わりはいらねぇ。アイツ以外必要ねぇんだから一条も必要ない


燈弥への感情を切り捨て距離も置いた。
これで燈弥が来る前の緋賀 永利に戻れる。いや、戻った。戻ったのだ。昔の永利に。

なのに、
なのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのにっ――


「じゃあっ、俺はなんで!?一条にあのクソ野郎と会って欲しくないって思うんだ?なんで生徒会に行って欲しくないと思うんだ!?」


切り捨てた感情が暴れ回るように、永利の視界を怒りに染めた。
だが、その理解できない怒りを抑えるように思い切り頭を壁に叩き付ける。


ゴッ.....!


鈍い音が鳴る。皮膚が切れたのか額から鮮血が流れ落ち軍服を汚した。


「.....これでいい。これでまた....また元通りだ」


永利は自身に言い聞かせるように何度も呟く。









――彼は気づかない。言い聞かせてる時点でもう元には戻れないということに。










《side  end》


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