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第六章 貴方が狩りゲーで重視するのはなんですか?
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しおりを挟む昇級試験開始まであと2日。
職員室では教師達が慌ただしくあっちへ来たりこっちへ来たりしていた。
モッチー先生に呼び出された僕はその様を見て、なんだか他人事のように思えず、まじまじと忙しなく動く教師達を見てしまう。
『この光景、風紀でも見たことあるなぁ』と。
そして気づく。
.....忙しい時の僕達じゃん。
うわぁ気づきたくなかった。
「一条~」
「モッチー先生、僕を待たせるなんていい度胸ですね」
仮眠室からゾンビのようによろよろ出てきたモッチー先生にそう言う。すると彼は色濃くしたクマ付きの目をしょぼんとさせ項垂れた。
「いや、ほんとすみま――.......なんで俺が謝ってんだよ」
ハッとしたようにツッコミをいれる先生にまだ元気だなと確認し、頭の中でどれだけ風紀の仕事を回すか計算する。
ざっと計算し100枚ほど書類を渡すことに決めた。昇級試験主導教師になったとしても風紀の仕事はサボらせない。死んでも仕事をさせる。
「なんか恐ろしいこと考えてねぇかお前?寒気がとまんねぇんだけど」
「それでなんのようでしょうか?」
「無視かよ」
「それでなんのようでしょうか?(2回目)」
僕がもう1度聞くと先生は顔を引き攣らせ、モジモジしだす。成人男性のそんな姿見ても気持ち悪いだけですよ先生?
そんなことを思ったが、それを先生に言うと絶対に面倒くさくなるから開きかけた口を噤む。
「怒んなよ?俺は頑張ったんだ。むしろ褒めて欲しいぐらいだ。そう、俺は頑張った..........これお前に」
渡された1枚の書類に目を通す。
えーっと、なになに......
【通知書】
1年Aクラス 一条 燈弥
貴殿は~~年〇月〇日の理事会にて風紀副委員長一時解任が決まりました。
また、同時に生徒会庶務に選任されたためこの本書にて通知いたします。
なお任期は体育祭が終わるまでとする。
「「........」」
「マジですか?」
「マジだ。俺も頑張ったんだが、一時解任までが限界だった」
いや、そこは別にいいんだけど。え?生徒会?なんで僕が庶務に??
つい先週舞台上で風紀副委員長発表したじゃん。それなのにもう解任で、庶務?
「先生これを知っているのは誰がいます?」
「今んとこ教師全員と生徒会だけだ」
「風紀のみんなには僕が言うので先生は黙っていてください。わかると思いますが、こんなの発表したら僕は生徒に殺されます。風紀の次は生徒会とかどんだけ尻軽なんだと言われるに決まってる」
「まぁ....な」
以前食堂で卵をぶつけられたことがあったけど、あれ以上のやっかみが待ち受けているに違いない。知られたら僕は死ぬ。
「ちなみにだが......俺の仕事は続けて請け負ってくれるんだよな?」
「はぁ?僕は風紀委員を解任されたんです。風紀の書類を扱えるわけないじゃないですか」
「............おれしぬ」
「死んだほうが睡眠必要なくなっていいんじゃないですか?いっぱい仕事できますよ」
「なんてこと言うんだお前」
「そんな話置いといて」
「置いとくなよ」
「僕は今から風紀のみんなにこの事話してきますね」
「......お前って淡々としてるよな。なんか風紀への執着とかねぇの?一緒に過ごした仲間とか、仕事とか、思い入れとかないのかよ」
「思い入れですか......風紀に入った理由はモッチー先生の脅しからですし、そこまで思い入れはないですかね。情はありますが」
「ならもっと拒否るとか.....」
「もう任命されてるのに今更拒否って何になるというのです。理事会が決めたんですよ?理事会が」
というか、理事会がどういう役割を持っているのか僕知らない。理事会ってなに何するの?何を決めてるの?
「まぁ一時解任なのでそこまで深く考えてないです」
「ふーん」
「先生も大変ですね。昇級試験間近だというのに」
話を変えるようにそう言うと、先生の目がキラリと光った。そして、まるで待ってましたとばかりの笑みで延々と愚痴を吐きだす。今この人の顔は笑っているのに滲み出す言葉は怒っていた。
「こちとら試験の調整で寝不足だっつぅのに面倒臭いことしやがって!だいたい理事長は五大家の人間に甘いんだよ!!ちょっとしたわがままもこっちの忙しさ関係なしで叶えるしよぉっ。理事会っつったけど絶対に理事長の独断だぜソレ!!あんのクソ爺!!昔から変わってねぇ!ああ....最近ゲームできてない!試験調整は苦痛に感じねぇがそれ以外がマジで煩わしい!!それに――」
あーはいはい、お疲れ様ですね。
僕は風紀に行かなきゃいけないので、ここでお暇いたします。
職員室を出た僕はため息をつく。
はてさて、みんなにどう説明するか。
さっきは考えない様にしてたけど、生徒会になると言った時に委員長がどういう行動に出るか予想がつかないから不安だ。
しばらく憂鬱な気分で歩き、見慣れた扉の前で一呼吸。そして風紀室というプレートを見上げる。
.......なんだか気が重い。
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