上 下
137 / 378
第六章 貴方が狩りゲーで重視するのはなんですか?

4

しおりを挟む



チクタクチクタク……
時計の音がやけに響いて聞こえる。

これが僕の時間。

一人の時間。

寂しさはどうだろう?
......うん、少し感じる。でもしょうがない事だ。今までそばに人がいたんだから。


委員長、大丈夫かな?


最近の彼は酷く冷たい。雰囲気が、表情が。
風紀の皆は僕と委員長をチラチラ見ては、どこか心配そうな顔を見せる。
部下にそんな顔をさせるだなんて、上司失格だよ委員長。いや、僕もか。いつも通り振舞ってるはずだけど、やっぱり違和感あるのかな?


ピンポーン!


「.....委員長?」


足早に玄関へ向かい、ドアを開ける。
しかし、そこにはくすんだ金髪の不機嫌顔はなかった。


「......こんばんわ。会長」


そこに居たのは艶やかな黒髪を七三に分け後ろに撫でつけた色男。色つき丸眼鏡を掛けたその奥の瞳は窺えず、浮かべられたその笑みにゾクリと背筋が震える。


「誰かと間違えたのかな?誰が訪ねてきたのか確認もせず開けるなんて」

「まさか。ちゃんと確認して開けましたよ。それで、なんの用で?こんな時間に」


消灯時間はとっくに過ぎている。


「お話でもどうかな?僕はもっと燈弥君と仲良くなりたいのに、君はなかなか生徒会室に来てくれないから。なんでも先日、萩野と食事したそうじゃない」

「僕と仲良くしてもメリットないと思いますよ?」

「仲良くなりたい気持ちにメリットとか関係ないよ。それより部屋に上げてくれないかな?」


この人、やはり押しが強い。
僕は頬をひきつらせながら、しぶしぶ会長を部屋にあげた。

なんだかなぁ.....。委員長ともこんなやり取りした気がする。
嗚呼、懐かしい。

キッチンでカチャカチャと飲み物の用意をしながら昔を思い出す。まぁ昔と言ってもほんの数ヶ月前だけど。


「はい、オレンジジュースです」

「......」


さて、お話でもどうかな?と言われたけど何を話せばいいのか。
会長は何か話したいことがあるのかな?
そう思い、彼を見てみれば口を半開きにしてオレンジジュースを凝視していた。

.....あっ、無意識に出しちゃったよ。と、とりあえず誤魔化そう。


「すいません、オレンジジュース嫌いでしたか?」

「.....いや、嫌いじゃないよ」


そう言うわりには苦々しい表情だった。
――知らん顔しよーっと。


「そうですかそれは良かった。それで、何についてお話します?」

「じゃあ、好きな飲み物は?」


なにその質問。


「紅茶です」

「なら、キッチンに置いてあるりんごジュースは?」

「りんごジュースも好きなんですよ。僕、コーヒー以外全部好きなんです」

「.....へぇ」


探られてるような感じに些か焦る。
会長を前にするとどうしても気が抜けない。本当は気を抜いて喋りたいんだけど、それができない。


「じゃあ今度は燈弥君が僕に質問してよ」

「......なら、恋人はいますか?」

「え、恋人?」


小さく「なにその質問....」と呆然とした呟きが聞こえたような気がした。だけど、彼と目が合った時にはニコニコ笑顔だったからやっぱり聞き間違いだったのかもしれない。


「いないよ、そんなもの」

「作る気はないのですか?あ、もしかして運命の番探し中とか?」

「残念ながら片思い中なんだよね、僕。.....この話はここまでにしようか。今度はこっちが聞く番」


片思い中とは.....
青春だねぇ。思わず暖かい目で見てしまう。僕にはもう友愛はあっても恋愛の感情はないから、こういう恋する青年の顔を見てしまうと微笑ましく思う。

なんて優しい笑みを見せるんだ君は、本当に

でも、それが擬態ではなく本心からの笑みだと僕は嬉しいな。


「燈弥君はさ、緋賀と喧嘩中なの?」

「喧嘩中ではないですね。僕、友人とは1度も喧嘩をしたことがないので」

「へぇ、奇遇だね。僕も友人とは1度も喧嘩したことがないんだ」

「え、会長って友達居るんですか?」


ちなみに委員長には居なかった。
会長に友達が居るとなると、委員長は人としてちょっと負けたことになるぞ。


「........................................いるよ」


その間はなんだ。本当にいる???
ねぇ、嘘言ってない?
もしかしたら深く突っ込んだらいけない問題だった?

よし、話を変えよう。


「そ、そうですか。あ~.....そうだ!ゲームでもしません!?面白いゲームがあるんですよ!」


モッチー先生から貰ったゲームカセットだけど、やってみたら結構楽しかった。狩りゲーではなく、ほのぼのとした牧場ゲーム。

デフォルメされた牛や羊はとても可愛いかった。日々の疲れが癒えるようで、荒んだ心も穏やかになる。


「どうぞどうぞ。ほら、こちらに座って」

「何かなコレ?......牧場ゲーム??」

「会長はゲームの経験ってどれくらいあります?」

「やったことない」

「このゲームは――」


操作方法を教えて、しばらく放置。
会長がピコピコしているのを向かい側から見守り、お茶を啜る。
あ、眉が寄った.......あははは、可愛いなぁ。


「「.......」」



チクタクチクタク......

カチカチカチカチ


時計の秒針とゲーム機を操作する音が聞こえる。
それ以外はなんにも聞こえない。




――うん、こういのもいいね。



僕はしばらく会長を見守った。







しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜

蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。 魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。 それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。 当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。 八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む! 地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕! Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

処理中です...