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幕間
《side 望月 俊樹》
しおりを挟むそいつは見た目と性格が恐ろしく乖離した生徒だった。
重そうな黒髪に『それどこで買ったんだよ?』と言いたくなる瓶底メガネ。身長はまぁまぁ高いがどこかひょろっとしたイメージを抱かせる雰囲気。どこからどう見ても陰キャだ。控えめに笑う口元とか気弱さを更に掻き立たせている。
だが話してみるとどうだ。
見た目とはあわないハキハキとした喋りで、物事をはっきり言う奴だった。
しかも案外腹黒いし、驚く程優秀、そしてちょ~怖い。
全然陰キャじゃねーじゃん。お前は陽キャだよ。その中でもクラス委員長とか任される皆から頼られる存在だろ。なんでそんな格好してるんだ。
訳ありか?
....まぁこの学園では訳ありじゃない生徒の方が少ないからコイツが訳ありでもおかしくはないが。
「へぇ~モッチー先生って人見知りだったんですね」
「おう」
「僕と話しているのを見る限り全然そんなふうに思えませんけど」
「なんかお前は話しやすんだよな~」
話していてストレス感じねぇし、むしろ楽しくすら感じる。人見知りする俺が気軽に声を掛けやすいなんて思うほどだ。
ただ欠点があるとすれば――
「モッチー先生のざぁこ、ざぁこ♡」
「ぐぎぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
この生意気さ!!!!
俺はお前より歳上だぞ!?もっと敬えや!
しかも俺の何千時間つぎ込んだゲームで勝つってどういうことだっ!!!
悔しい、悔しいっ!
なんかクズの友人に負けた時より悔しい....!
ザコ呼びなんかしやがって!
去っていく後ろ姿から目が離せなかった。
「このままで終わらせられねぇな」
俺の数千時間のためにも、
一条 燈弥にぎゃふんと言わせなければ
スマホの電話帳をスクロールする。
ん?スクロールするほど友人が多いのかって?
.....人見知りだがある程度の友人はいる。友人というよりビジネスで登録してる奴の方が多いけどな。
今から電話するのは唯一のゲーム友達でありクズと名高い男だ。
「お、もしもし?」
『――――』
「まぁそんなこと言うなよ。ちょっと頼みたいことがあってよ」
『―――?』
「もうすぐ昇級試験だろ?そこで少し、すこ~しやりたい事があってな」
『―――』
「端的に言う。お前の家の力を借りたい。実験体くれねーか?昇級試験で放つ」
俺がそう言うとスマホの向こう側でくつくつと笑う声が聞こえた。この様子だと乗ってくれそうだ。
『――――』
「急にどうしたかったて?――俺も遊びたいお年頃なんだよ。まぁそのせいで生徒に消えない傷を負わせることになるかもしれねぇが」
『―――!!!――!?!?』
「うるさっ!?」
いきなりなキレだした友人に慌ててスマホを遠ざける。今こいつがそばにいなくて良かったと心底思う。そばにいたら俺はきっと半殺しにされていただろうな。
ったく、こいつと話すのは神経使うから疲れんだよ。今の会話でどこにキレる要素があったんだ?
わけわかんねぇ。
「落ち着いたら資料送ってくれ。頼むな?」
返事も聞かずブチリと通話を切った。ちなみにこの行為も相手がそばにいないからできることだ。
......近くにいたら通話もクソもねぇけど。
「さて、と」
昇級試験の資料をまとめて上に提出しねぇと。
はぁ.....いつもの俺なら他の教師にこんなもの放り投げていたのに。一条と出会う前の俺に見せてやりたいぜ。こんな働く俺を。
適当、ものぐさ、人任せの俺が
時間に追われて仕事をするなんて
「ぷはっwwww」
ああ笑える。
なんでこんな嫌いだった仕事が楽しいのか。
『ざぁこ♡』
「ぷくくwそういうことか。なんで嫌いな仕事がこんな楽しいかわかった」
一条 燈弥のせいだ。
「ゲームで俺を嘲笑うように『ざこ』と言ったあいつの顔が忘れられねぇんだ。あの顔を悔しみで歪めさせたくてしょうがねぇんだ」
だから楽しいんだ。
どういうルールで昇級試験を進めるのか、どういう配置にするのか、どう上を説得するのか。
全部、全部全部!
一条の悔しみに歪んだ顔を見られると思うとクソみたいに面倒臭いことも全然面倒臭くねぇ!
「お前と俺は生徒と教師であり、ゲーム仲間であり、友人だ。出会って数ヶ月.....まだ付き合いが短いから俺の事を理解してないのはしょうがねぇことだと思う」
そう、しょうがないことだ。
「悪いな一条。俺はゲームに関してはプライド高ぇし、負けず嫌いなんだよ」
『ざぁこ♡』
頭の中でリピートされるその言葉に頬が吊り上がる。
「だから......もう1戦といこうや。お前が狩るか、狩られるか」
舞台は昇級試験
「お前のためのゲームだ....」
ちょいとばかし命懸けになるが許せ
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