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第五章 面倒事はいつも突然やってくる
《side ある生徒Z》②
しおりを挟む「いってぇなっ、おい!」
声を潜めて友人に抗議すれば、こいつは顔を引きつらせて舞台を見ていた。心做しか目が潤んでいるような.....
「どうし――」
気づく。この異様な静けさに。いつもは多少ザワザワしているのに、俺の声が潜めた小さなものでも大きく聞こえるほどだ。
そして舞台上を見て、俺もこいつと同じように顔を引きつらせる。
白い狂気の片割れが立っていた。
表情は遠くて分からないが、あの身もすくむオーラと体格.....髪色が戦闘狂その人だと俺に確信させる。
鎖真那 雅臣――イカれた狂人
どうしてこんなに静かなのかすぐ分かった。皆あいつを刺激しないよう固まっているんだ。いや、動けないんだ。
いきなり異能をぶっぱなしてくるかもしれない
その恐怖が体育館内を満たしている。
は?みんながみんなそう思ってないって?
.....馬鹿が、戦闘狂を前に恐怖しねぇやつはいねぇよ。普通は。
俺はその普通から外れている頼みの綱に視線を動かす。
生徒会は――会長と副会長は警戒しているようだが、会計はなんか楽しそう。書記はわからん。
教師陣は動く気なさそうだし。
風紀委員長は.....ダメだ。まだ足元見てる。
は?これやばくね?
どう考えても戦闘狂の行動で俺達詰むじゃん。
会長と副会長2人で俺らを守れるとは思えねぇし、自衛しなきゃ俺死ぬ?
あ、でも異能始動しようとして戦闘狂を刺激したらどうしよう。
プチ、プチ、プチ.........バサッ!!
「は.....???」
戦闘狂の突然の行動に目を見開く。
奴の手から投げられた軍服は宙を舞い静かな体育館に音を立て落ちた。
な、んで?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでっ!?
なんであのイカれ野郎は軍服を脱いでんだ!?
「っ!?っ!?」
わからねぇ!戦闘狂の行動が理解出来ねぇ!考えが理解出来ねぇ!意味が分からねぇ!
だけど、何よりっ――戦闘狂の一挙一動から目が離せない俺が理解できねぇ.....!!
カチャカチャとベルトが外され地に落ちる。
プチプチと黒いインナーのボタンが外される
ゴクリ......
喉のなる音。それは俺からか、周りからか?
あぁ目が離せない。魅入る。魅入られる。
黒いインナーが脱ぎ捨てられ下から覗くは遠くからでも分かる鍛え上げられた肉体。
割れた腹筋に盛り上がった上腕三頭筋。
男らしい身体。
そして――息を飲む。
戦闘狂の身体には刺青がしてあったのだ。
左肩から墨を垂らしたような黒い線が何本も這うように描かれていて、それは獅子をかたどっているように思えた。
異様ながらもどこか美しい。
上半身の『美』に感嘆の吐息を漏らすが、戦闘狂の次の行動にギョッとする。
なんと奴はズボンに手をかけたのだ。
ジッパーを下ろす音が俺の耳に聞こえたような気がした。そんなのありえないのに。こんな離れているのだから聞こえるはずないのに。
――まさかだろ?本当にやるのか?
焦りと少しの期待で心臓がバクバクする。
そんな俺の心情などなんのそので前が寛がれるズボン
おいおいおいおいおい.....!!マジかっ!?
奴はズボンとパンツに手をかけ――
「はい、ここまでです。それ以上は捕縛ではなく逮捕ものの行動ですよ」
凛とした声。その声に夢から覚めたようにハッとする。
気づけば舞台上、戦闘狂の腕を掴むようにもっさり頭に変なメガネをかけた生徒がいつの間にか立っていた。
「生徒の皆さん。目が覚めましたか?......あら、まだ結構な数が夢見心地そうですね。まぁ起きてる人だけでも紹介させてもらいます。ゴホン.....この度風紀副委員長に任命された一条 燈弥です。以後お見知りおきを」
ピンと伸びた姿勢から頭を下げられ、俺も咄嗟に頭を下げてしまう。だが再び舞台上に目を向けたらそこに戦闘狂は居なかった。まるで幻のように消え失せていたのだ。脱ぎ捨てられた軍服も黒いインナーも、ベルトも全てない。
狐につままれたような気分に陥りながら、声を絞り出すように友人に話しかけた。
「.....ヤバかったな」
「ど、どうしよう。僕戦闘狂なんて大っ嫌いだったのに、今無性に抱かれたい」
「いや、そこまで思わねぇけど」
「はぁ!?だっって見ただろ!あのエロい身体っ!!あんなのに抱かれたらと思うと僕っ、僕っ.....!」
「ばかっ!声でけぇよ!」
「勃った!!」
「てめぇ!公共の場でなんてこと叫んでやがる!?」
焦って周りを見渡すがみながみんな思い思いに騒いでいるようだった。耳を澄ませば『戦闘狂』やら『エロい身体』という単語が耳に入る。
異様な熱気が体育館内を包んでいるようだ。
「これにて全校集会を終わります。生徒は速やかに教室へ戻ってください」
放送委員の声を聞いても誰一人席を立とうとする生徒がいない。
周りを見れば隣の友人のようにまだ夢見心地でうっとりしていたり、興奮でベラベラと話していたりと放送委員の声が聞こえていないようだった。
この空気感で最初に立つ勇気は俺にはねぇぞ....
暫く成り行き見るか。そう決めた俺はふと副委員長のことを思い出す。
本当にもっさりで変なメガネかけてたな.....。
まだ体育館内にいるのか?
暫くキョロキョロして――見つけた。
あの委員長の元に副委員長は居たのだ。
「ヴぉ!?!!」
2人の姿をなんとなしに見つめていたら、委員長の急な行動に変な声で叫びそうになって慌てて手で口を抑える。
うわーーーっ、なんだアレ!?
委員長が副委員長の軍服の端を握っていたのだ。
しかもなんか縋るような弱々しい腕の出し方で!
ああっ!委員長が顔を赤くして腕引っ込めた!
ぅわ~~.....!
なんだよソレ??委員長あんたっ!なんて顔で副委員長の背中に手を伸ばしてっ.....!!
うヴぉ!?
ふ、副委員長!?何言ったか聞こえないけど副委員長の言葉に委員長が、委員長が!!
委員長の顔が――
「ぶへっ!?!?」
「おい!?何鼻血出してんのっ!!?」
「お、俺――初めて萌と尊いを感じた気がする!!」
委員長と副委員長のせいで嵐のように荒れ狂った心情を吐き出す。この友人が『萌え!』やら『尊っ!』っていう気持ちがよくわかった。あれは尊い。あれはずっと見ていたい。
.....委員長と副委員長を見守る会でも作ろうかな?
《side end》
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