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第五章 面倒事はいつも突然やってくる
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しおりを挟む骨喰君の声にみなが口を閉じ、どこかピリついた雰囲気が流れる。それはさっき僕が感じていた空気の重さが序の口のように思える程のもの。
うーちゃんをチラリ見ると、眠そうな目を骨喰君に向けていた。.....生徒会の話聞きそびれたなぁ。
「今回の議題は――」
その後は特に問題もなく会議は進んだ。
僕はてっきり会長と委員長がド派手に、それもバチバチにいがみ合うのだと思っていたけど全然そんなことなかった。
骨喰君が進行役として話し、ほかの委員が気になったことを聞いていくというスタンス。
これなら早く終わりそうだ。
会長はにこやかだし、委員長は目をつぶっていて話を聞いてるのか寝てるのかわかんないし。
.....うん、このまま終われば――
「では最後に次週の全校集会について」
『全校集会』という言葉に目をつぶっていた委員長の瞼が開かれ、鋭く骨喰君を睨んだ。
そしてそれに呼応するかのように今まで黙っていた会長が小さく手を挙げ、骨喰君を黙らせる。
「ここからは僕が話そう」
会議室内の空気の重さがヤバい。もう息苦しすぎて呼吸困難に陥りそう。周りに目を向ければ冷や汗を流している者が少数みられる。....それでも少数なのだから、やはりこの学園の委員長を務めるだけあってまともでは無いのだろう。
因みにうーちゃんは欠伸してた。心臓鋼かな?
僕なんて隣に座ってる人から漂う殺気のせいで今すぐにでも逃げだしたいくらいだ。
「本来この会議で全校集会の話なんてしないんだけど、先週の全校集会で誰かさんの監督不行きのせいで予定が狂っちゃってね」
「おい、その誰かさんっつうのは俺様のことか?」
「いやいや、そんなこと一言も言ってないよ僕は。でも、思い当たる節があって君がそう発言したのなら君なのかもね」
「あ''ぁ''!?第一、テメェの組むスケジュールがわりぃんだろうが!こちとら首吊り事件の後処理に追われてるっつうのに畳み掛けるように書類よこしやがって!!しかも期限切れ間近!!そりゃウチの副委員長も倒れるだろうよ!!」
あ、やっぱり僕の話だった。
哀嶋君は自分が参加すれば交流会のことで何か言われると言っていたけど、僕も全校集会をすっぽかした罪があるから.....こうなるのは避けて通れなかったみたいだ。
こうなるなら哀嶋君に押し付ければよかったなぁ。少し後悔。
「君は部下の管理もできないのかな?どうせ無茶な采配をしたんだろう?そんな君の無能さを棚にあげられても....ねぇ?」
「俺様が無能?おいおいおいおい.....」
お二人さん.....議題からズレまくってるよ。
僕は骨喰君に助けを求めようとしたが、彼のげっそりとした顔に気の毒さが勝ってしまい開きかけた口を閉じる。
周りも周りで傍観姿勢だし.....僕がやるしかないのかな?
「無能っつったらテメェだろうが。捨てられた分際で――」
「はい、ここまでです」
ゴッ!!!
「がはっ!?!?」
言い合いに夢中になっていた委員長の後頭部を頼れる相棒で殴りつける。
....ちょっと勢いつけて殴ったせいか委員長は眼前の机に手をつき頭を下げる――所謂謝罪体勢になってしまった。
というか凄い音聞こえたけど額割れてないよね?
.....まぁ、今の僕にとっては都合のいい体勢だからいいか。
「お話の邪魔をしてすみません会長。うちの委員長もこの通り謝っているので許していただけませんか?」
僕が苦笑い気味にそう言うと会長は驚いたように僕を見つめ、そして吹き出した。
「ふっ、ふはっ.....!~あっはっはっはっはっは!!君面白いね!いいよ、話を続けようか」
どうやら許して貰えたらしい。
「次週の全校集会で君の風紀副委員長任命式を行う。今度はちゃんと出席するようにね?」
「はい」
「ああ、それと任命式の前にいくつかの部活動の表彰があるそうだから……放送委員長よろしく」
「はいにゃ~」
「これで今回の定例会議は終了だよ。じゃあ解散」
会長の言葉に各々退席する。
僕は未だに机に突っ伏している委員長を一瞥した後、うーちゃんを見送った。うーちゃんは去り際に目をキラキラさせ「燈弥ちゃんは大物だにゃ~」と言葉を残して会議室を出ていった。
そのキラキラの瞳に嫌な色を見たが、それも一瞬だったため気のせいかなと思い直し、委員長を見下ろす。
「委員長、僕達も帰りま――」
「一条!」
「....骨喰君どうしたんですか?」
僕もうーちゃんに続いて退席しようとしたら骨喰君に呼び止められた。なんの用かと不思議に思っていると彼は手に持った紙袋を僕に差し出してきた。
「例の軍服....遅くなって済まない」
「....あぁ、ありがとうございます」
萩野君に破られた軍服。すっかり忘れてたよ。
これを言うと骨喰君に申し訳ないから言わないけど。
「元通りになっていると思うが、なにか違和感があったら言ってくれ」
「大丈夫ですよ。僕は骨喰君の腕を信頼しているので。きっちり直してくれたんでしょう?」
「う....ま、まぁな」
照れてる骨喰君を無性に撫で回したくなった。
なんだその顔は。くっ、お兄ちゃん属性の僕には大ダメージだ。
密かにダメージを負っていると、そこへ会長がやって来た。
「話してるとこ悪いね恭弥。ちょっと挨拶したくて.....一条 燈弥君で間違ってないかな?」
差し出された右手を握り返しながら僕は答える。
「はい。お好きなように呼んでください。.....先週の全校集会ではご迷惑をおかけしてすみません」
「あはは、あれはあいつを煽っただけだからそんな気にしなくていいよ。でもそうだね....少しでも申し訳ないと思ってるなら、これからは燈弥君が生徒会室に資料届けに来てよ」
生徒会と風紀はよく書類のやり取りを行う。例を挙げるなら器物破損の報告書。風紀に器物破損の届けが出され、風紀はそれを報告書としてまとめ記録する。そして今度はその報告書を生徒会に届けに行くのだ。備品などの発注は生徒会の仕事だから。
その際、生徒会に向かうのはあの4人組(赤鼠・紫蛇・黄犀・茶牛)の誰かが行っている。
会長はそれを僕にやれと言っているようだ。
「君とは仲良くしたいからさ」
彼のにこやかに笑う顔は本当に僕と仲良くしたいんだと思わせる。だけど無意識なのか、そうじゃないのか分からないが未だに握られた僕の右手が骨を軋ませているのはどうしてだろうか?
痛い、潰されそうだ。
冷や汗をかく。この背筋をゾワゾワさせるこの感情はなんだろうか?
痛みか、恐怖か、それとも.....
「.......まぁ、時間に余裕があれば僕が――」
「行くぞ」
「ぇ?ちょっ!?委員長!?!?」
いつの間に復活したのか、委員長にいきなり首根っこを掴まれ引きずられる。突然の暴挙に戸惑うが、するりと離された右手にこのまま退席できるならいいかと思い直し、ゲーム機と軍服が入った紙袋を手に委員長に身を委ねた。
「......またね。燈弥君」
「一条またな」
.......出来れば程々に仲良くしたいなぁ。
――会長に握られた右手がジンジンする。
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