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第五章 面倒事はいつも突然やってくる
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しおりを挟む次の日の授業後、
僕は風紀室で委員長と正面切って対峙していた。
腕を組み、仁王立ちする委員長の威圧感が凄い。
「申し開きはあるか?」
「昨日のは委員長が頑なに休みをくれなかったせいです。よって僕は悪くない!!」
そう言うと周りから「おぉ!」と感嘆するような声が上がった。なんか命知らずの野郎を見るかのような眼差しを向けられている気がしているけど、君ら覚えとけよ?顔は覚えたからね?
「はぁ.....わかった」
「!!」
委員長がわかったって言った!!
どういうつもりでわかったなんて言ったのか気になるけど!
もう今回のことは許すという方向でお願いします。本当に。
「なら今から寝るぞ」
「!?!?」
「光栄に思え。この俺様が添い寝してやる」
「!?!?!?」
え、なんて?添い寝??
もしや僕の聞き間違いかと思い、周りを見てみると全員口をあんぐり開けていた。
.......つまり聞き間違いじゃないと。
「な、な、何故そんな話になってるんですか?」
吃った。
「お前はいっつも俺様を先に寝かしてるよな?その後ちゃんと寝てると思っていたが、その様子じゃ違ぇ。どうせ風紀の仕事を隠れてやってんだろ?だからお前が寝るまで俺様が見ててやるよ」
委員長の衝撃的な発言に風紀委員達がざわめく。
もうダメだ。僕の学園ライフはここで終わる。
「ぇ?い、いいい委員長と副委員長ってそういう関係!?」
「嘘だろ、嘘だよな?嘘だろぉ!?」
「委員長にそういう感情あんの!?」
「それを言ったら副委員長の方がなさそうに思えますが?」
「確かに」
「で、でででも!副委員長と委員長は出会ってまだ半年も経ってないでしょ!?」
「これは.....どっちが先に手を出したのか」
「恐ろしく手が早いですね.....」
上から順に
赤鼠
茶牛
黄犀
紫蛇
黄犀
赤鼠
黄犀
紫蛇
風紀有名4人組だ。
よし、君らには戦闘狂の担当になってもらおうか。全員先輩だが、関係ない。そういうのは本人に聞こえないように言わないと。
特におしゃべりな黄犀と見た目インテリメガネなのに馬鹿な紫蛇。言うけどどっちも手を出してないし、出されてもないからね?変なこと言わないで欲しい。
あぁ、でもこういう話はすぐに広まっちゃうんだろうなぁ。これから歩く度にそういう目で見られるんだ。嫌だなぁ。
「ほら寝るぞ」
委員長は周りのひそひそ話なんてなんのそので、僕を引きずって仮眠室へ足を向けた。
抵抗?
.......もう疲れたよ僕。
ケーキ君のとこで元気になったのに、この時間のやり取りですっごい疲れた。
「や、やややっぱりお2人はっ.....」
「できてる。できてるな」
「やっぱ副委員長がネコか?」
「どうせ寝るとか言いながらヤるんでしょう?覗きましょうか。どっちがタチネコかはそこで分かりますよ」
貴様ら本当に覚えとけよ?
そして仮眠室に引きずり込まれた僕はベットの上で委員長に羽交い締めにされ寝転んでいた。
いや、羽交い締めじゃなくてバックハグか。
でもそんなロマンチックな名前(?)を使うのは僕の心情的によろしくないから羽交い締めと言わせてもらおう。
え、羽交い締めとバックハグは全然違う?
ははっ、そんなの知ってるよ。
「メガネ外さねぇのか?」
耳元に掠れた声が注がれる。密かに鳥肌を立たせながら僕は「このままで大丈夫です」と伝えると、背後から困惑の雰囲気を感じた。
「危ねぇから外しとけ」
「......僕、自分の顔にコンプレックスがあるんです。だから顔が見えにくいよう前髪を長くしてこんなメガネをかけてます。人がいる場では絶対に外しません」
メイクしてないし。
「うるせぇ。お前のコンプレックスなんざ風紀の仕事の前には塵芥にすぎねぇよ。いいからメガネとってはよ寝ろ」
「塵芥.....シンプルに酷いですね。なら条件を飲んでくでさい。メガネ外して寝ますからここにケーキ君、えーっと浪木君を呼んで見張らせて欲しいです。委員長の代わりに」
そう言うと背後で委員長がむくりと起き上がったのを感じ取り僕も身体を起こす。
委員長と向かい合った僕は彼の表情が納得いかないものであることに気づき、これまたひと悶着ありそうだなと内心独りごちる。
「なんで浪木は良くて俺様はダメなんだよ。お前のコンプレックスなんて俺様は気にしねぇぞ」
「コンプレックスは僕の問題ですから委員長が気にしようが気にしまいが関係ないです。なぜケーキ君かと言うと......たんにたまたま見られたから。それだけの理由です。なので委員長よりケーキ君を信頼してるとかじゃないですよ。この学園に来てまだ数ヶ月ですが委員長のことは誰よりも信頼してます」
委員長をちゃんと信頼してますアピールをして、機嫌をとる。そうすればケーキ君のことから気を逸らすことが出来る。現に委員長は僕の言葉に気を取られ、恥ずかしいのか片手で顔を覆っていた。
その間に僕はスマホを取り出しケーキ君に連絡。
「あ、ケーキ君ですか?すいませんが君の助けがどうしても必要なんです。すぐに風紀室に来てください。待ってますね?」
一方的に話して切る。
その時、強い力にスマホを持つ手を握られた。
「なんですか?そんな怖い顔をして」
「なに勝手に話を進めてんだよ。俺様は了承してねぇぞ」
正気に戻っちゃったか......
「委員長にとって大切なのは僕の働きでしょう?貴方の望み通り今から寝て疲れを癒し、明日からいつも通り働きます。......なんの不満が?」
「それは俺様がお前を――」
「別に委員長が見張らなくてもちゃんと寝ますよ。それに風紀の長が副委員長と一緒にお昼寝だなんて普通有り得ません。必ずどちらかが風紀室で指示を出さなければいけないんですから」
「.....」
それでも尚、不満を露わにする委員長が何か言おうと口を開く。
ガチャ.....
しかしそこへちょうど仮眠室のドアが開き、委員長に負けずに劣らずの不満顔でケーキ君が入ってきた。
早いね.....もしかして近くに居たのかな?
「よく来てくれましたケーキ君」
「.......こんなとこに呼び出すんじゃねぇよ。で?なんのようだ」
おや?随分刺々しい態度だ。
急に呼び出したことにイラついてる?いや、『こんなとこ』と言っているから風紀室.....風紀が嫌いなのかな?
「簡単に言えば、この仮眠室で僕はメガネをとって寝なきゃいけないんです。それで僕がちゃんと寝るのか委員長の代わりに見張って欲しいということなんですが.....いいですか?嫌なら断っても構いませんよ」
その場合、僕は委員長とまた交渉を繰り広げなきゃいけなくなるけど。.....めっちゃ面倒臭い。
「代わりにねぇ.....」
するとケーキ君は委員長に顔を向け――
「いいぜ。代わりに見張っといてやるよ」
そう言い放った。
ケーキ君が了承してくれたことに感謝しながら、僕は委員長の背中を押して仮眠室から追い出す。
その時の委員長がなんだか怖く感じたけど、ここで躊躇っていても何も変わらないため頑張った。もう、委員長とケーキ君の空気が重いのよ.....つらい。
パタンとドアが閉まった部屋にケーキ君と二人きり。やっと肩の力が抜けると思いながらトスンとベッドに腰を下ろせばケーキ君の何か言いたげな表情に気づく。
「なにか?」
「お前って緋賀のなんだ?」
「.......」
何を言い出すのかと思えばそんなこと.....
「僕は委員長の部下であり、友人ですよ。それ以上もそれ以下もないです」
「へぇ.....」
「ケーキ君はどうなんですか?委員長となにやらただならぬ雰囲気を出し合っていましたが……」
「あ?......俺はただ五大家の人間が嫌いなだけだ。あっちがなんで俺に''あんな目''を向けてきたのかは知らねぇ」
あんな目?よくわかんないけど、ケーキ君は五大家が嫌いなんだ。
ああ!そういえば風紀に連行されても担当は僕だけしか認めないと言っていたあれはガチだったんだね。この様子だと冗談で言ったわけではなさそうだし。
「さて、僕は委員長との約束通り眠ることにします。もし誰かがこの仮眠室に入ろうとしたり覗こうとしていたら追い払っといてくださいね」
「あぁ、了解だ」
「ではおやすみなさい」
「.......おやすみ燈弥」
応援ありがとうございます!
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