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誰かの感情
《誰かの殺意》
しおりを挟む《誰かの殺意》
「ねぇ会長~来月の昇級試験さぁ。俺達って干渉できないの?」
萩野 メイルは不満そうに神崎 竜一に聞けば、彼は困ったように眉を寄せた。
「それは古参組である萩野自身がよく分かっているだろう?」
「ちぇ~.....」
「......急にどうしたの」
竜一の言葉にみながいっせいに振り向く。
その事に首を傾げる竜一だが、それもそのはず。
なぜなら――
「お前が他人に興味持つなんて珍しいな」
骨喰 恭弥が言った通り、竜一は良くも悪くも他人への興味が薄い人間だったからだ。
人格者と異名がついているがそれは自分から他人の悩みを聞きに行ったからついたものではなく、相談されていく内についたもの。
相談されれば向き合う。
ただし相談しないならば知らん顔。
神崎 竜一とはそういう人間だ。
だからみな驚いた。
いつもならメイルの質問を流し会話が終了するのに「急にどうしたの」と興味を持ったから。
「心外だな。僕だって興味くらい持つさ。それでなんで萩野はそんなこと聞いたの?」
「ん~教えない!!」
「.....まさかお前ちょっかいかける気じゃないだろうな?」
「憶測でものを言わないでよ副会長~」
「その反応は図星か」
「......副会長って本当に俺と相性悪いわ」
「悪くて結構」
「ふーん。萩野がちょっかいね……恭弥、相手は誰?」
険悪な雰囲気を漂わせ始めた2人の会話に、自身は関係ないとでもいう態度で竜一は割り込んだ。
恭弥は暫く無言になったが、竜一の視線に耐えきれなくなったのか渋々口を開きその名を発っする。
「風紀副委員長の一条 燈弥だ」
「......風紀副委員長?」
「風紀に興味持ったんですか?」
竜一は面白そうに笑みを浮かべ、咲谷 満は嘘ですよね?という顔で書類から顔を上げメイルを見つめた。
「風紀委員長は神崎様を目の敵にしているクズ野郎ですよ?そのクズ野郎の部下に興味を持ったと???殺しますよお前」
「何それ!?いやいやっ風紀委員長とイッチーは別で考えようよ!」
軽蔑するような視線に晒されてメイルは慌てて抗議する。傍から見ればメイルの慌てようは満の言葉を真に受けたように見えるだろう。
それも興味を持っただけで殺されるなんて馬鹿らしいことだと、言った人間が満でなければメイルも真に受けず笑っていた。
だが目の前のコイツは殺ると知っている。
風紀関係になると.....否、竜一関係には恐ろしく話が通じなくなるのだ。咲谷 満という男は。
「ほら、俺が会長の不利になるようなことするわけないじゃん。興味ぐらい許してよ」
「咲谷まぁ落ち着いて。僕は気にしないから」
「はい、落ち着きます」
「それで落ち着けるのか.....??」
「副会長しっ!!黙ってて」
「で、萩野はどうしたいの?」
それは肯定の言葉。
昇級試験に干渉してもいいという許可。
メイルは思う。
この男が人格者?どこからどう見ても人格者とは程遠い男だろう、と。
(だけどそれが面白い!!)
思わずニヤけてしまったが、それを隠すことはない。必要ない。
面白ければ笑う。それがメイルだから。
「チーム分けをちょっと弄るだけ。今回はアイツが居ないからどうせ簡単な試験になるでしょ?イッチーを観察できる良い機会なんだよねぇ」
「.....観察だけ?」
「うん」
「なんなら始末してもいいんだよ?」
「会長ってばイッチーに恨みでもあるの??」
「いや別にないけど……ただ風紀委員長が重宝してるって聞いた事があるから消そうかなって」
「神崎様がお望みならば私が始末します!!」
席を立ち上がり鼻息荒く高らかに叫んだ満だが、
「咲谷ハウス」
「わんっ」
竜一のその一言で素早く座り直した。
その光景をドン引きの表情で見ていた恭弥は生徒会辞めようかなと本気で考えながらも、竜一に苦言を呈す。
「一条は最早風紀の要だ。彼が風紀副委員長になってから驚く程理不尽に懲罰棟に放り込まれる生徒の数が減っている。そんな彼を消すなんて愚行だぞ」
「俺も副会長にさんせーい!イッチーは殺しちゃダメだよ?俺の獲物だから」
「へぇ.....2人がそこまで言うなんて珍しいね。ま、好きにしなよ。萩野のお願いは僕がやっておくから」
「神崎様のお顔に泥を塗る行為は私が許しませんよ?その時は覚悟しといてください萩野」
「おぉ怖いなぁ~」
ぎしりと背もたれに凭れたメイルは口では怖がっているが、頭の後ろに手を組むなど余裕の態度であった。
だが、その時――
「萩野伏せろっ!!」
ガラスが割れるような音と共に恭弥の焦ったような声が響く。
ガラスを突き破りメイル目掛けて飛ぶのは鈍く光るナイフ。恭弥の声で顔を向けたメイルの眼前にまで迫っていた。
そしてナイフはそのまま彼の眉間に.....
パキパキ――グサッ!
刺さらず突如発現した氷の壁によって阻まれる。
「冷たっ!?会長~早く解いて。俺の肩が壊死しちゃうっ」
「助けてあげたのに早く解けとは、萩野は恩知らずだね」
「処しますか?」
「うん.....あはは、冗談だよ萩野。そんな無表情で見つめないでくれ。咲谷も座ろうか」
竜一はいつの間にか始動し床に突き立てていた刀を抜くと、そこを初めとしメイルの肩まで続くように伸びた細い氷の道が溶け床の色を濃くした。
肩から伸びメイルの顔面スレスレに発現した氷の壁もパシャリと水となりメイルの服を濡らす。
「.....今日着替えるの何回目かなぁ。さっき着替えたばかりなのに、はぁ.......」
「命あるだけ喜ぶんだな」
「で、あれは誰の異能?恭弥」
「......あれは浪木 将翔の異能だろうな。なぜ萩野を殺そうとしたのか動機はわからんが」
「この愉快犯のことです。どこかで恨みでも買ったのでしょう」
「えぇ?もっと心配してよみんなぁー。俺殺されかけたんだよ?」
「貴様は一度死んでもいいくらいだ」
「そんなこと言って~、副会長が焦ったように伏せろ!って言ったんじゃん?素直じゃないなぁ」
「........チッ」
「舌打ち!?」
相変わらずな2人の様子を一瞥した竜一はいつの間にかナイフが消えていることに気づくも、慌てる素振りを見せなかった。
それは脅威になり得ない事柄に警戒する必要がないから。
なんなら今の竜一は浪木 将翔の攻撃より恭弥とメイルが注視する風紀副委員長について意識がいっていた。
(あの緋賀が重宝している生徒か......)
燈弥の知らないところで事態は進む。
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