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第四章 雨はお好きですか?

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「あぁ......やっぱり気づいてたんだ」

「以前発見された中庭の遺体。犯行可能な生徒を探すために消灯時間を過ぎても部屋に帰っていない生徒を調べたのですが、葉谷君以外概ね怪しい人はいなかったんです。しかしこの世界には異能という便利なものがあるため一概に葉谷君が犯人だと決めつけることが出来ませんでした。だから頭の片隅において、まずは葉谷君をよく知る根岸君から話を聞こうと思ってたのですが、まさかこんなにことになるとは.....」


燈弥は一呼吸置き、メガネの下で目を細める。


「葉谷君が犯人だと確信したのは根岸君のおかげですね。あんな彼の姿を見れば一目瞭然です。彼があんな顔をして僕を呼び出したんだ。根岸君がそんなことするのはただ一人のためだけです。ねぇ?吊るす男葉谷君

「......流石は副委員長様。優秀だ」

「一年前以上から続く首吊り事件の犯人.....貴方を捕縛します」

「捕縛ぅ???あっはははははは!!」


燈弥の言葉にさも可笑しそうにケラケラ笑う真澄。見れば瞳に涙を滲ませているではないか。

だが、真澄が笑うのはそれ然り。

なぜなら捕縛と言いながら燈弥は真澄の麻痺毒で行動不能、ただ一人動ける湊都は見るからに真澄と幹登に魂写棒を向けるのを躊躇っている。


「あ~笑った......。じゃあ絞め殺そうか」

「真澄っ、湊都....湊都だけは!アイツは何も知らない!」

「......ごめんね幹登。証拠は残せない。緋賀にバレるのだけは避けたいから」

「~~っ、ごめん......ごめん湊都っ!ごめん一条っ!!俺達のために死んでくれっっ!!」

「なんでっ、なんでそうなるんだよ!?!?」

「俺は真澄が居なきゃ生きていけない!真澄が捕まったら俺は生きていけない!真澄がそばに居ないと、居ないと......俺は誰にも必要とされなくなるっ」


燈弥は悲痛な声を耳にしながら真澄に目を向け、そして改めて知る。


(あぁ、本当にαはクソだな)


目に映るは恍惚とした顔で幹登を見つめる真澄の姿。それは掛った獲物を前に舌なめずりする狩人のようで、或いは手に堕ちた愛しき小鳥を愛でる飼い主のようで........


燈弥の神経を酷く逆撫でた。


「どうせ、どうせ根岸君をこうしたのは君の仕業なんでしょう?αの執着は相手の気持ちを考慮しない、αは自分の為なら相手を壊すことも厭わない、αは自分の気持ちを押し付け.......ますからね」

「あは......君は本当に凄いね。まるで全部見てきたみたいだ」

「.......どうして根岸君をああしたのかお聞かせ願いますか?」


そう燈弥が聞けば、気分がいいのか真澄はチラリと幹登が正気を失っているのを確認し、そして饒舌に話し出した。


「雨が降るあの日に幹登の腕をアイツに奪われたのは不幸だった。そのせいで幹登は異能も失くし、雨の日には腕を失ったトラウマで怯え震える日々を過ごすことになったから。でも.....幹登にとっては不幸でも僕にとっては幸運だったんだよね。幹登は本来ガキ大将気質で気が強く率先して前を行く人間で、周りに人がいっぱい居た。だけど腕と異能を失くしたせいで前に出ることも出来なくなって周りからは哀れみの目を向けられるようになってさ。幹登にはそれが耐えられなかった。その目を直視出来なくて、向き合うことが出来なくて........幹登は僕を頼るようになったんだ。その居心地の良さを知ったらもう戻れない!!だから僕はずーっと幹登の耳元で囁き続けた。彼が1人になるように、彼が誰も信じれないように....」


うっとりした表情で語っていた真澄はそこで言葉を切り、悲しみに表情を歪める。


「だけどそう誘導した僕でも堪えたんだよね。雨に発狂する幹登の姿は」

「ああ。首を吊るしていたのは.....てるてる坊主ですか」

「よくわかったね!!悲しむ幹登を見たくないのに、どうする事もできない自分の無力さ。それを痛感してた時に教えて貰ったんだ。『雨が嫌いなら首を吊ればいい。そうすれば明日はきっと快晴だ』ってね。目からウロコだったよ!!それで実際晴れだったこともあったしね!!」


(αの矛盾と歪みは純粋だからタチが悪い)

密かに舌を打つ燈弥。


「だけどね、幹登は変わっちゃったんだ。幹登が前に進んだ日。風紀に入った日。幹登が周りに目を向け、他人に受け入れられた日。僕以外を頼って、僕以外と楽しそうに笑って、僕以外と2人っきりになって.......腸が煮えくり返る思いだったよ。何でも一人でやるようになって、放課後ギリギリまで残るようになって、風紀のメンバーと楽しくお菓子とかも食べたりして.......。以前の幹登ならしなかったことだ!!」


聞き覚えのある言葉があった。
燈弥は昔、同じような言葉を聞いたなと既視感を覚える。


「だから僕はこうせざる負えなかった。雨を願い逆さに吊るすしかっ!!雨が降れば幹登は僕を求めてくれる。そうすれば幹登は僕を見てくれる。そうすれば幹登は僕と2人っきりで居てくれる!」


(.......根岸君のあの自虐的な言葉はこいつのせい。自己中心的な気持ちを押しつけられて心を壊し、いつの間にか不安と孤独で葉谷君の傍を離れられなくなって搦めとられた。こうして出来上がったのが今の根岸君。雨の日に蹲りコイツが居なければ心が保てない.......)


憐れ
哀れ


「.....でもやっぱりいきなり吊るし方を変えたのはダメだったね。まさか殺しきれてなかったとは。いつもは首を吊れば勝手に死んでくれるから知らなかったよ。自分の手で絞め殺すのは存外難しいんだね」


ペラペラと何もかも話す真澄を前に遂に燈弥は――


見切りをつけた。






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