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第四章 雨はお好きですか?
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「一条君!!」
エレベーターを使い8階まで上がり、葉谷君の部屋に向かっていると葉谷君その人が部屋前で待っていた。
僕の姿を見て駆け寄る彼は腕の中の根岸君を見ると顔色をサッと青くし、奪い取るように僕の腕から根岸君を攫った。
「み、みきと.....大丈夫、大丈夫だよ幹登。僕がいるから、僕がそばに居るから。ほら耳を塞いで、深呼吸だ。雨音なんて聞こえない。聞こえるのは心臓の音だけ......ほら僕の心臓の鼓動すごい早いでしょ?雨なんて降ってないよ。雨の匂いなんてしないよ。雨の音なんて聞こえないよ。君を役立たずなんていう人はいないよ。君を嫌うやつなんて誰もいないよ。だって最初から.....」
「葉谷君!!」
明らかに正気じゃない様子の葉谷君を揺さぶる。急に饒舌に話し出す彼に面を食らったが、今は根岸君を部屋に入れるのが先だろう。
「今は根岸君が優先です」
「ぁ.....そ、そんなのわかってる!!」
本当に?
震える手で部屋のロックを開けた葉谷君に眉を寄せる。まぁ自分の番が弱っている姿を見るのは僕が思うより相当キツイのかもしれない。αはΩをガラス細工のように大事にするって聞いたことあるし。
そう考えながら部屋に入る葉谷君に続こうとした、その時――
ガチャンッ!
「っ、危な!?」
僕の鼻スレスレでドアを閉められた。
突然の暴挙に反射的にドアを蹴りつけそうになるがグッと耐える。
もしかしたら葉谷君は根岸君のことで頭がいっぱいで、僕の存在を忘れちゃたのかもしれない。
もしかして数秒前会話したのに忘れるような鳥頭なのかもしれない。
もしかして深夜徘徊していた根岸君を連れてきた僕に対してお礼を言えないほど心が狭いのかもしれない。
そう''もしかして''を考えることで自身を落ち着かせる。別に怒ってなんかない。
.......うん、怒ってないよ?
「ふぅ.....」
なんだか帰りたくなったが、根岸君について伝えなければならないことがあるため帰るにも帰れない。
仕方なく風紀副委員長権限ということで葉谷君のドアロックを生徒手帳で開ける。
「お邪魔します.....葉谷く――」
「ひぁっ、あっ、あっ、んむ~!ます、み――ますみっ、きもひぃよ!ぁ''が、イくイ''ぃ~~!」
「はっ、幹登幹登幹登幹登みきとみきとっ」
「失礼しました!!」
足を踏み入れたが、僕は直ぐに逃げ出すように部屋を飛び出た。
な、なんで.....なんでおっぱじめてるのかな!?
根岸君は気分悪いっていってんのになんでセックス!?病人に鞭打つなよ....!
しかも玄関まで聞こえるってどんだけ――
「あ~......もう知らない。寝よ」
これ以上考えると精神に異常をきたしそうだ。
僕はドアに背を向け自室へと足を向けた。
だがこの後、何故か起きていた委員長に暫く問い詰められることになるのだが....それはまた別の話
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