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第四章 雨はお好きですか?
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しおりを挟む何を見せられてんだと思いながら僕はその光景を眺める。すると僕の視線(瓶底メガネで見えないが)に気づいたのか骨喰君が恥ずかしそうに頬を染め咳払いをした。
「何頬染めてんの?キッショ」
「一発じゃ足りないようだな」
「うわーん!助けてイッチー!!」
「わっ....イッチーって僕のことですか」
抱きつかれるように突進されふらつく。が、抱きつかれたことよりイッチーというあだ名が気になった。イッチーというのが僕の事を言っているのか聞くと、僕の背後に回り骨喰君を威嚇していた萩野君はパァっと笑顔を見せ頷いた。
「一条でイッチー!!ね?いい名付けでしょ~?」
うーん、少し新鮮な気持ち。
あだ名とか僕がだいたい付ける側だったから、こう.....なんか変な感じ。
それにあだ名をつけられたのは初めてかもしれない。
......うん、嬉しいかも。
しかしそんな喜びを僕に与えてくれた彼だが、一気にその気持ちを地に落とすのもまた彼だった。
「......それにしても、イッチーいい身体してるねぇ」
「ひっ」
''ブチブチっ''という音と共にひんやりとした何かが素肌に触れ声を上げる。
「なにを!?」
後ろから拘束するように抱きしめられ、顔を下に向ければ縫い目だらけの手が服の下に突っ込まれているのが見えた。
(この人っ、軍服とその下に着ているワイシャツごと引きちぎって手を突っ込んできた!!)
「ん~思ったより筋肉ついてる.....腹筋も割れてるじゃん」
「やめっ――!!」
「着痩せするタイプかなぁ?......顔はあれだけど身体はちょータイプ!」
脇腹をスーッとなぞる様に指を這わされ変な声が出そうになる。それを何とか耐えようと唇を噛み締めたがカチャカチャと、気づけば魂写棒を吊るすベルトを外されていた。
「あ~♡なんか愉しくなってきた……」
耳元で囁かれたねっとりした声と下半身へと侵入してきた手に全身が硬直し、頭が真っ白になる。
だけど、視界に入った呆然とこちらを見る骨喰君の姿を見て口は自然とその名前を発した。
「く、骨喰君!!」
「......は!?ぁ、~~っやめろ!!」
「ぶへっ!?」
綺麗な回し蹴りが萩野君に決まり、
これまた綺麗に萩野君が吹っ飛んだ。
「だ、だだいじょうぶか!?すまんっ、助けるのが遅くなった!」
「い、いえ....助かりました」
助かった。助かったんだけど.....服がヤバいことになっている。今の僕の姿はまるで強姦されましたと言っているような酷いものだった。
ボタンが引きちぎられたワイシャツに軍服.....これで外を歩くのは恥ずかしい。
「弁償する!そうだっ俺の上着を着てくれ。その姿のままは恥ずかしいだろう?なに、俺は下の方は無事だから上の服がないくらいどうってことない」
「ありがとうございます......だけど骨喰君から借りるわけにはいけません」
そう、骨喰君は悪くないんだから。こういうのは加害者が....ね?
ということで吹っ飛ばされた萩野君のそばに行く。すると丁度彼は横腹を抑え起き上がっているところだった。
それを足で押し返し、また倒す。
「は?......えっ?なになに~!?イッチーってばそういう趣味があるの!?」
人をからかう様な笑みを浮かべ騒ぐ萩野君を無視し、僕もしゃがんでその生徒会専用の軍服に手をかけ......プチプチとボタンを外す。
僕の行動に何故か驚いたような顔をし、固まる萩野君。
急に静かになった彼だが、僕にはどうでもよくただただ早く済ませたかった。
最後にベルトを外してそのまま軍服を引っ張り彼から脱がす。
「......デカイですね」
自分の破れたものを脱ぎ捨て着てみたが.....デカい。まぁ仕方ないのはわかっている。見た感じ、萩野君の身長が180以上あるのは予想できていたから。
「さて、僕はもう行きますね」
「.......あっ!待ってくれ!」
この姿で美術室へ行く気分になれないから帰ろう。そう決めた僕は自分の脱ぎ捨てた軍服を片手に自室へ戻ろうとする。だが、どこか焦ったように骨喰君が僕を引き止めた。
「その軍服をくれないか!?」
「ぇ.....(ドン引き)」
「ち、違う!?そういう意味じゃない!いやどういう意味だ!?俺はっ、ただそれを直してお前に返そうとっ.......!」
見事な1人ツッコミだった。
僕は心の中で骨喰君に拍手を送る。
だけどこのままテンパっている骨喰君を放置するのは可哀想なので、僕はスマホを取り出しちょいちょいと彼に手招きした。
「なんだ....?」
「連絡先交換しましょう」
骨喰君とは仲良くなりたいし。
「!!わかった」
「それと、この軍服は捨てるのでいいですよ。そんな事しなくても」
「いや!それは俺の気が済まない!!直させてくれっ、頼む」
「.......そこまで言うならお願いします」
「必ず元通りに直してみせる」
気持ちが重いよ骨喰君......別にいいのに。
そして僕は破れた軍服片手に未だに固まっている萩野君を引き摺る骨喰君を見送った。
.......萩野君は骨喰君より背丈あるのにすごいなぁ。
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