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第四章 雨はお好きですか?

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「君は今有名な風紀の副委員長だよね?」

「有名かは知りませんが、僕は風紀の副委員長ですね。それがなにか?」

「別に.....」


そっぽを向き根岸君を見つめる彼に僕はある疑問をぶつけることにした。


「ふむ......彼――根岸君の右腕はどうしたのですか?」

「教える義理はないよね」



どうやら僕は根岸君によく思われていないらしいから葉谷君に聞いた方がまだ答えてくれるはず....と思って僕なりに勇気出したんだけど。
葉谷君にも嫌われてるねこれ。なんで?

ぶっちゃけ「そうですよねぇ」と言ってこの場から離れたい。......のだが、そうもいかない理由があるため僕は仕方なく食い下がる。



「まぁそうなんですけど。.......葉谷君は新入生ではないのでわかってると思いますが、この学園で欠損は珍しいんですよ。ちぎれた部位があれば治りますからね。治せないというなら、カタラに喰われたか.....それとも奪われたか。その二択ぐらいしかないんです。それで――根岸君はどちらですか?」

「......」

「風紀にある名簿に根岸君の名前はなかったのですが?」


僕が風紀になって知ったこと。
それは名簿に書かれたカタラによる欠損者の羅列と異名持ち達の詳細。
それは大いに僕の頭を悩ませた。

中でも『蒐集家』という異名持ち。誰かは判明しておらず、その存在と被害だけが書類に記されていた。なんでも、被害者は自分を被害者だと思っていないらしく捜査が難航しているらしい。

と、話が逸れたが風紀に置いてあるカタラによる欠損者名簿には根岸君の名前はなかった。ということは......彼は蒐集家の被害者なのではないだろうか?

初の自覚ある被害者なのだろうか?


「.....幹登は覚えてないんだ。自分の腕がカタラに喰われたのか、他の人間によって奪われたのか」


やはり簡単に事は進まないか。
それに自覚あったら風紀に来るよねぇ普通。


「.....そうですか。因みにいつ頃か聞いても?」

「中2の秋くらいかな」

「は?」



中2の秋??
もう1年以上経ってるじゃん。
ついでに聞いた質問の答えが予想以上のもので自分の口端がひくりと引き攣る。

(片腕、異能なしで1年以上??根岸君は自殺志願者なの?今までよく生き残ってこれたね)

僕は楽しそうに喋っている兎君と根岸君の間に割り込み、根岸君と目を合わせた。急な僕の行動に根岸君は敵意を兎君は困惑の表情を見せたが、今は気に止める暇はない。



「根岸君はずっとその腕のまま過ごしてきたんですか?」


その腕と言って彼の右肩に視線を向ける。すると根岸君は僕の瓶底メガネ越しの視線を感じたのかキッと睨んできた。


「お前も笑うのか?足でまといって、この学園から消えろって」

「.....そうですね。そこまで強く言うつもりはないですけど、生きる気がないならこの学園で早く死ぬか自害した方がいいのでは??」

「燈弥それは矛盾してね?」


ケーキ君は黙ってて。



「おい燈弥!!何言ってんだよ!?幹登にそんな酷いことをっ」

「兎君。文ちゃんのことをどう思いますか?僕は彼をとても強い人だと思っています。腕を失っても義手で生活している......彼はこの学園で生き残るために最善を尽くしているんです」


兎君はグッと黙る。
彼も交流会で身をもって知っただろう。片手でこの学園を生き抜くのは難しいと。戦闘狂に出会って片手で戦って無事でいられるとは思わないでしょ?


「根岸君。僕は心配して言っているのです。君のように地味にプライドが高い人は他人のお荷物になるのが嫌でしょう?このまま番である葉谷君にずっと守ってもらって生きていくのですか?」


最初の兎君との言い合いから気が強く、何気にプライドが高いことが窺えた。そういうタイプは案外僕の言ったように今の状況を表には出さないが凄く気にしていると思っている。

僕の考えが外れていたら外れていたでいい。

僕の狙いは――

と、そこへ表情を侮蔑と怒りで染めた葉谷君が口を挟んできた。


「もうやめてくれない?僕の幹登を虐めないでよ。幹登はこのままでいいんだ。腕がなくても足がなくても幹登のことはずっと僕が守る。口出ししないで」

「君がそうやって甘やかすから――はぁ~.....僕は根岸君に聞いているんです。根岸君、君がこのままでいいと思っているなら僕はもうなにも言いません。もう一度聞きます。このままでいいんですか?」

「お前っいい加減に!!」

「ぐすっ.....」

「「「え」」」

「っ、――~うぅ、うわーーーーんっ、俺だってどうすればいいのかわかんないんだよぉ!!右腕もないし、異能もない!!周りからは悪口言われてなんかもう情緒がおかしくなるし!自分でもどうしたらいいのかっ.....」

「ああっ泣かないで幹登.....大丈夫、僕が居るから。僕が全部やるから.....だから泣かないで」

「ううっ、うぇっ.....ずび.....」

「よしよし....」


あー.....やっぱり葉谷君が悪いな。
そうやって甘やかすから根岸君が無防備になるんだよ。僕が全部やるからじゃなくて、一緒に解決しようとか言わなきゃダメなんじゃないの?


「.....つまり何とかしたいと根岸君は思っているのですね?」

「う''ん''」

「なら、明日の放課後風紀室に来てください。力になります」

「うぅっ、わがった....ぐすっ」

「僕も着いていきます」

「葉谷君は来ないでください。これは根岸君一人でやらなきゃダメです。甘える存在が近くにいるのは根岸君の成長を妨げるので」

「真澄.....俺は大丈夫だ」

「!――幹登がそう言うなら.....部屋で待ってるね」



これでよし。



「では、また明日の放課後に」


そうして根岸君、葉谷君、何故かその場に残った兎君と別れて僕は元いた場所に戻る。
しかしその道中で着いてきていたケーキ君がやっと口を開いた。


「なぁ燈弥」

「ああ、そういえば居たんですねケーキ君」

「ははっ酷でぇww」

「それでなんですか?」

「お前って結構人様の事情に首を突っ込むんだな。なんか、自分さえ良ければいいみたいな性格だと思ってたぜ」

「自分さえ良ければいい性格ですよ?ですが僕は風紀です。困ってる人を助けるのが仕事なんです」

「困ってるって言わせたようなもんじゃねぇか。あのキツイ言い方.....狙ってたな?」

「素直に助けてと言えない人もいるんですよケーキ君」

「ふーん。......本当にそれだけか?」

「それだけです」

「嘘だろ。それは嘘だ。おい、本当のこと教えろよ」


尚も疑うような視線を向けてくるケーキ君に「はぁ」とため息を吐き、降参のポーズを見せる。


「ただ――根岸君がΩで葉谷君の番であると聞いて知りたくなったんです」

「.....なにを?」

「彼らはちゃんと思い合って番になっているのか。それとも葉谷君が無理矢理彼を番にしたのか」

「それは考えすぎだろ」

「わかりませんよ?αの支配に怯えて愛し合っているフリをしているのかもしれないですし」

「......燈弥はαが嫌いなのか?」

「ええ嫌いですね、心底。.....ですが心配しないでください。だからといってその人物が嫌いという訳では無いですから」


いきなり顔を強ばらせたケーキ君の誤解を解くと、彼は安心したように口端を上げた。
そんなあからさまに表情を変えなくても.......。

僕は――


「.....αという性が嫌いなだけです」



そう、ただそれだけのこと。














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