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第四章 雨はお好きですか?
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しおりを挟む僕が風紀委員になって一週間が経とうとしていた。そして風紀委員に、しかも副委員長になって一つ変わったことがある。
それは――
「あぁ~.......なんだよ寂しいなぁ。まだ一ヶ月しか経ってねぇのにもう部屋移動かよ~」
「しょうがないです。恨み言なら委員長に言ってください」
そう副委員長になったことで僕は一人部屋へと移動になったのだ。なんでも風紀の書類を一般生徒に見られないようにするためだとか......。
別に部屋にまで仕事を持って帰ってやるつもりはないんだけどね。
僕は自室に仕事を持ち込みたくないタイプだから。
「燈弥が居なくなってから湊都は部屋では常に寂しそうな顔してっし......」
隣でブツブツ文句を垂れているはケーキ君は学校指定の黒いジャージを着ている。ただいま異能訓練の授業中だ。
異能訓練なのに2人組になって組手をしているのだが、担当教師が望月先生なため今こうしてサボっている。
「お前がいねぇ分、清継の眉間のシワが増えてらァ。俺も湊都が居るからって部屋に遊びに来る芙幸の暴走を止めらんねぇし……どういう訳か湊都と芙幸が遊んだ後はすげぇ散らかってんだよ。子供か?って思うくらいに」
宮野君と兎君
瀧ちゃんと文ちゃんでそれぞれ組んでいるようだ。今日の合同がCクラスでよかった。
特に瀧ちゃんは嬉しいだろうなぁ。宮野君と兎君と組まなくて済むから。
今日は何故か合同だが、普段だと僕と兎君ペアで宮野君と瀧ちゃんペアでやっている。
それで僕は風紀副委員長なんてものをやってるから呼び出されることが多い。そう、僕が抜けるということは瀧ちゃんが宮野君と兎君の面倒を見なくちゃいけなくなるということだ。
あの時は同情したなぁ。瀧ちゃんがぐったりと机に突っ伏してる姿は疲労がありありと感じ取れた。
それであの2人の面倒を見るのが結構トラウマらしく、実習の授業前や最中に僕がスマホを見ると瀧ちゃんは目を向けてくる。
その視線がまるで『まさか呼び出しじゃないよな?』という、なんだかこっちまで悲しくなる悲痛な思いが感じられるんだよね……。
だから風紀の皆にはこの時間帯だけはなるべく委員長に連絡して欲しいとお願いした。
座学?
座学の授業は心配してない。座学の授業はなぜかあの2人大人しくなるんだよね.......。
「......無視すんなよ」
僕の話を聞いていないような態度にいじけたようにケーキ君はそっぽをむいた。
その姿に苦笑いをする。
「無視してませんよ。ただ、ケーキ君の話を聞いても僕にはどうすることも出来ない内容でしたから。返す言葉がないんです」
「無責任なやつだなぁ。お前が湊都の世話をあれこれ焼いていたから湊都は寂しがってんだぞ?責任もって最後まで世話しろよ」
「兎君はペットか何かですか??.......僕ってそんなに兎君の世話焼いてました?」
「無自覚かよ.....母親かよって思うくらいには口煩かったぞ」
そんな.....。まだ出会って1ヶ月くらいなのにそんな風に言われるほど世話を焼いていたなんて。
でもなぁ、どうしてか一緒の空間にいると兎君のことをほっとけなくなるんだよね......不思議だ。
そして兎君をなんとなしに見つめていると彼は宮野君と別れ、グラウンド隅にある大木に寄りかかっている生徒に駆け寄って行った。
......なんか嫌な予感
「ちょっと兎君が心配なので見てきます」
「そういうとこだぞ。俺も行く.....暇だし」
そして駆け足気味にその場へ行けば何やら揉めている様な雰囲気が......
「あっち行けよ!!」
「な、なんだよっ!俺はただ心配して話しかけただけなのに」
「うるさい!お前に心配される筋合いはない!!どっか行け!!俺に近寄るな!」
「だけど、そんな聖域外に出ちまいそうなとこにいるのは危ねぇし.....」
「っ!!なんだよ..... 俺が異能使えないからってバカにしてんのか!?」
「はぁ!?」
「カタラに負けるほど弱くねぇよ!」
「別にそんなこと言ってないだろ!?」
兎君と言い争っているのは、短く切った茶髪に強い光を宿したエメラルド色の瞳を持つ生徒だった。
(.....あぁ、なにか違和感があると思ったら彼、右腕がないんだ)
黒いジャージの右袖が風に靡いている。
「それになぁ!俺にはっ――」
身長は160後半ありそうだが、威嚇するようにキャンキャン吠えるその様は虚勢を張る小型犬のようで、なんとも可愛らしい。
.......なんだか昔のチビちゃんを思い出す。懐いてない時のチビちゃんはまさにこんな感じだった。
懐かしい――
「燈弥とめねぇの?」
「おっと、そうでした。兎君!!どうかしましたか??」
声を張り上げ2人に近づけば、一人はパァっと笑顔を、もう一人は威嚇するように睨んできた。
「なんだよお前達は!!」
「僕は風紀副委員長の一条 燈弥といいます。何やらトラブルが起こったのかと声をかけたのですが......どうしたんですか?」
僕がそう聞くと、兎君がことのあらましを話し始める。
簡単に言えば、授業に参加せずポツンと一人立っている彼を心配して兎君は声をかけただけだそうで、特に何もしていないと。
「そうですか。説明ありがとうございます兎君。では君は――」
「ねぇ、僕の幹登に何か用?」
僕の言葉を遮ったのは真っ赤な瞳に殺意を宿した顔立ち整った生徒だった。
これはまたすごい美形だ。それにαのオーラをビンビンに感じる。
「君は誰ですか?」
「僕は葉谷 真澄。幹登の番だ」
......目の前の彼がΩで番持ちだったとはね。
文ちゃんといい、目の前の彼といい....番を持つの早くない?この世界では普通なのかな。
「それで、僕の幹登に何か用?寄ってたかって虐めてるように見えるんだけど?」
「虐められてない!!」
「そうだったの?ごめんね幹登!.....勘違いしてた」
「ただ.....俺が一人でここに居たことを色々言われただけだ」
「えっと、彼が一人で聖域外近くに居ることを心配した兎君が話しかけただけです。なので幹――」
「根岸」
「......根岸君に危害は加えていません」
流石α。名前すら呼ばせてくれないとは。
内心αの番への独占欲に苦笑いながら根岸君へ向き合う。
「.....根岸君はどうか彼を邪険にしないであげてください。彼はただ君を心配してただけのようなので」
「うっ.........俺が悪かった」
「!――いや全然!!大丈夫ならいいんだ!」
「......俺は根岸 幹登。お前は?」
「俺は兎道 湊都!湊都でいいぜ」
なんか仲良くなりそうな雰囲気だね。
僕は葉谷 真澄君に睨まれてるっていうのに。
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