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第二章 入学式

《side 兎道 湊都⑤》 終わり

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「なぁ燈弥。お前ってこの学園のことどれくらい知ってるんだ?」


壇上で話すお偉いさんの話などまともに聞くだけ無駄だ。なぜなら俺はそれで一度爆睡した経験があるから。だから寝ないように俺は隣の燈弥にこそりと話しかけた。

すると燈弥は苦笑い気味に「詳しくは知らないんです」と言い、俺に顔を寄せてきた。
どうやら燈弥も暇だったらしい。


「でも、ここでは人が簡単に死ぬっていうのは知ってます」


人が簡単に死ぬ。その言葉にドキリと胸が跳ねた。
しかし脳裏に浮かんだのは俺を嵌めた優顔ではなく、金髪でもなく、坊主頭でもなく、運んだ眼鏡でもなく.......あのαだった。


「?......兎君??なんで赤くなってるんですか?」

「!?いやっ......ちょっと暑いだけだ」


思わず大きな声を出しそうになったが、周りから向けられた不審な目にハッとして声を落とす。


「大丈夫ならいいんですけど.....」

「大丈夫だいじょーぶ」


俺もなんで赤くなるのかよくわかんねぇし.....。


『では次に生徒会及び風紀委員会の紹介です』


そして進行役のその言葉に会場内は一斉にザワザワとしだした。燈弥も俺もそのざわつきように周りをキョロキョロと見渡し耳を澄ます。
明らかに何かをまちわびている雰囲気だ。

(どんな奴らなんだ?)

周りの雰囲気に当てられたのか、俺もなんかワクワクしてきた。


『では生徒会からお願いします』


気づけば壇上に4人のカーキ色の軍服を着た人達が並んでいた。俺が着ているような学ランみたいなシンプルなものではなくて、オシャレな軍服。
腿下ぐらいまで長さがある上着に膝下までのブーツみたいな軍靴で、俺が森で会ったあの傲慢男とはまた違ったかっこよさがある。

その四人の中の一人、サングラス?眼鏡?をかけた男がマイクを受け取った。


『皆さんご入学おめでとうございます。といっても、僕も皆さんと同じで今日この観式学園に上がった身なんですが.....まぁそこは置いときましょう。さて、この学園にエスカレーター式で上がってきた人達はもうわかっているでしょうが初めて足を踏み入れる人たちのために忠告します。ここは弱肉強食の世界です。自分が弱い存在だと思う人は群れてください。強者に媚びてください。常に考えて行動してください。でなければ貴方は簡単に死んでしまいます。あぁ、脅している訳では無いんですよ?ただ心配しているだけで......もしなにか悩みがあるなら遠慮なく生徒会室までお越し下さい。生徒会会長である僕....神崎 竜一かんざき りゅういちが相談に乗りますので。......長くなってしまいましたね。僕からは以上です』


会長が話終わると会場が拍手で包まれる。中には雄叫びをあげているやつもいて、会長にどれだけ人気があるのかよく分かった。


「凄い人気ですね。でもこの学園をまとめる立場にある人がマトモそうなのは喜ばしいことです」

「う~ん、人気があるのはわかったけどよ~。なーんか違和感覚えちゃうんだよなぁ、あの会長」


胡散臭さそうな見た目であのマトモさ。周りは高説な演説を聞いたっていう反応だが、俺はあまり心に響かなかった。どうも見た目と中身のチグハグさをに気持ち悪さを感じてしまい、素直に言葉を受け取れない。

(ま、会長のことをよく知らない俺が何言ってんだって話だけど)


「なるほど。兎君は会長にそう感じたんですね」

「いや、別に俺はーー」


燈弥の言葉に俺はなにか返そうとしたがそれは凛とした声にさえぎられた。


『俺は副会長を務める骨喰 恭弥ほねばみ きょうやだ。先程会長がなんでも相談しに来い的なことを言ったがそれを訂正する。各地に目安箱を設置したので何か悩み事などあればそちらに投稿して欲しい。これでも我々はやることが多い立場にあるため直接会って話す時間が取りずらいということを理解して貰えるとありがたい。俺からは以上だ』

『はーい、次は俺ね。俺は会計やってる萩野はぎの メイルって言いまーす!こんなナリしてるけど怖がらずどんどん話しかけてね。あぁ、でも楽しいことじゃないなら気分によっては.....ま、よろしく~』

『最後に.....私は書記を務めさせていただく咲谷 満さきたに みちるといいます。神崎様のお手を煩わせる者は排除致しますので悪しからず』


うわぁ......。会長と副会長はまともそうだけど、残りの二人はなんかヤバそうなやつだな。
いかにもお硬そうな見た目な副会長に
遠目でも分かるツギハギが会計、
水色の長髪をした会長至上主義っぽいのが書記か。


「なんか個性が濃そうな方々ですね」

「どういう基準で選んでんだろうな?全員俺達と同い年だろ?」

「そういうのもここで過ごしていけばわかるんじゃないですかね。.....次は風紀ですか」



『最後に風紀です』


司会の先生がそう言った。その風紀が終わったらもう入学式は終わりだ。確かこの後はクラス発表を見て教室に行くんだっけ。

燈弥と同じクラスがいいなぁ。

そんな風に俺の中ではこの式がもう終わったものとしていた。だから俺はーー


『風紀委員長の緋賀 永利ひが ながとしだ。この学園では俺様がルールなのを忘れるな』


聞き覚えある声に心臓を跳ねさせた。なんなら身体も少し浮いた。

(嘘....あいつ風紀委員長だったのか)

でも風紀の長があんなすぐ人を殺すような奴なのはどうなんだ?
やっぱもう一度俺があいつにガツンと言ってやった方が.....って俺は何考えてんだ!?今日会った俺に言われてどうこうするような奴じゃねぇだろ!


「うわー.....緋賀様かっこいい」

「ね!あのちょっと強引なところがいいよね」

「うんうん。意外と優し所あるし」

「ホントそれ!独裁者って言われてる割には優しいよね!」


悶々と考えていた俺の耳にそんな会話が聞こえた。
ああ確かにかっこいい。
あれは強引なんて言葉で片付けられねぇよ。
優しいとこ?まぁ俺を助けてくれたから優しいと言えるか....?
独裁者っていうのは納得しちまうな。

はっ!?俺は何を考えて.....?
何共感したりしてんだよ!?
あ~っ!クソ!なんか落ち着かねぇ!


「兎君....兎君!」


肩を揺さぶられ顔を向けると、呆れたように口元を歪める燈弥が俺を見ていた。


「なんだ、どうしたんだ?」

「どうしたんだ?じゃないですよ。もう入学式終わったんで移動しないと」

「は!?もう終わったのか!?」

「えぇ。早くクラスの振り分けを見てクラスへ行きましょう」


マジか....途中から聞いてなかったわ。
やっぱ緋賀 永利のせいだな。アイツのせいで俺は....俺は?

ダメだ。混乱してきた。

そして俺は燈弥に手を引かれながら会場を後にした。






《side   end》



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