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第二章 入学式
《side 兎道 湊都③》 啖呵を切る
しおりを挟む「おい、遅せぇぞ。テメェがちんたらしてっから俺様が三体運ぶ羽目になったじゃねぇか」
「.....」
乱雑に積み上げられた三人の死体に吐きそうになりながらも横抱きにしていた眼鏡の死体を隣に寝かす。
「あ?テメェ新入生だろ?そんな風に持ったら軍服が汚れんぞ。入学式を血で汚れた軍服で出るっつうのは.....うん?前もあったなそういうの」
「.......んで」
「あ''?」
「なんで殺したんだ!!!」
俺は感情が爆発したように男に吠えた。
なんでそんな平然としているんだ!?それに地面をよく見れば何かを引き摺った跡があったから、きっと、いや絶対に死体を引きずってきたんだ。この男は。
「なんでそんなふにっ....!!」
「あー、うるせぇうるせぇ。コイツらは自分達より実力のない一年生を狙っては強姦・暴行・拷問をやってきた奴らだ。この学園の害なんだよ」
「だからって殺すことねぇじゃねぇか!!風紀とか先生に引き渡して、然るべき罰を受けさせるとかさぁ!!」
「テメェはコイツらが反省するようなやつだと思ってんのか?こういうヤツらは死なねぇと治らねぇんだよ」
「でもっ....!」
「なら俺様が殺す前にテメェがアイツらをどうにかすりゃ良かったんだよ。言うがこちとら助けた身だからな?もっと感謝しろチビ」
「チビ!?」
「いや、ちんちくりんか」
「お前っ、自分が背ぇ高いからって調子乗んなよ!?」
「うるせぇなぁ....俺様は忙しいんだ。お前は早く入学式会場へ行け。ここを真っ直ぐ行けば人に出会えるはずだ」
「......」
俺は入学式へ行かなければならない。
でも、行っていいんだろうか?という躊躇いが湧き出て足が動かなかった。なんだかここでこの男に背を向けたらダメな気がした。
「なんだよ。そんな死体を見つめても動かねーぞ。.......はぁ、今は人殺しに忌避感があるだろうがこの学園で過ごせばんなもんなくならァ。だから深く考えんな」
男の言葉を無視して俺は死体に目を向け続ける。
虚ろな瞳に血で汚れた顔。きっともう冷たくなっているだろうその死体達に申し訳なく思ってしまう。
(俺だって本当はわかってる。コイツらが死んだのは俺に力がなかったせいだ。この男が現れる前に俺が無力化させていればこんなことにはならなかった。ちくしょう.....!!)
それに、男が居なければ俺は殺されていた。それに......。
って、そうじゃない!!
俺はバシッと自分の頬を張る。
(うがーーっ!!!くよくよすんのやめ!!こんなの俺らしくない!俺のモットーはとにかく思うがままに動くことだ!悩んでもどうしようもねぇ!それに俺、馬鹿だし!)
いきなりの行動に驚いたのか男は顔を引きつらせていたが、そんなの気にせず俺はビシッと指を指す。
「俺はお前みたいに殺して解決するような奴にはならねぇ!!今回は俺の力不足で招いたことだが、次はぜってぇに無力化する。俺の目の前で人殺しはさせねぇ!!」
「は?」
ふんぬーと鼻息荒く俺は言い切り、男に背を向けた。そして、一目散にダッシュ!!!
「道教えてくれてありがとな!えーと、ばーかばーか!!」
勿論、道を教えてくれた感謝とちんちくりん呼びした仕返しを添えて。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「なんだアイツ.....?」
走り去っていく小さな背中に男はそう呟き、地面に置かれた死体達に目を向ける。
男のその顔はただただ面倒くさいという感情を貼り付けており、イラついているようだった。
「あ''ーっ、仕事増やしちまった」
実は、男が湊都を助けたのは偶然だ。散歩という名のサボりをしていた男はなんの不運か一対四の今にも襲われそうな湊都を見つけてしまう。
見つけたからには知らん顔はできない。そう、意外にも男はそういう性格だったのだ。
ことの成り行きを影から見ていれば四人組の方は違反の常習犯とも言える者達で、ここで消せるとは幸運だと男は思っていた。消すための理由は男の目の前で行われたやりとりで十分。そのためゲラゲラと笑っている阿呆共に弾丸をお見舞してやろうとしたとき、湊都が始動してしまった。
(始動した......つまり自分でやるってことか)
男は湊都の行動にそう判断し、手の中の拳銃を消す。しかし、湊都は人を殺せない。それを知らない男は攻撃を仕掛けない湊都に首を傾げたが、湊都の身体が震えている事に納得した。
(あのチビ人を斬ったことねぇのか。つーことは殺す方もダメだろうな)
常習犯共が本気になり、湊都を囲うように位置取る光景を怠そうに眺めていた男は湊都が死んだら常習犯共を殺すと決めた。
(チビには悪いが、始動したなら最後まで戦って貰わねぇと。死体の片付けは面倒いから下っ端にやらせっか.....)
男は完全に湊都を見捨てるつもりでいた。泣き喚こうが、命乞いをしていようが、無視するつもりだった。
しかしーー
『テメェらを無力化する!!』
そう啖呵を切った小さな背中になんとも言えない感情が沸き上がり、思わず拍手をしていたのだ。
(俺らしくなかったな。途中で割り込むなんて.....)
一人残された男は自分の行動を振り返り顔を顰める。いつもなら有り得ないことだと。
(だが、あの場面で自分の意思を押し通そうとした姿は気に入った。それは確かだ)
それに、
『道教えてくれてありがとな!えーと、ばーかばーか!!』
「ハッ!結構面白ぇ奴だったな」
男はそうニヤリと笑った。
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