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第二章 入学式
《side 兎道 湊都②》 覚悟を
しおりを挟む斬れないと言い切るのは間違いかもしれないけど、
前世の記憶のせいか俺はどうしても人を斬ることに躊躇いが出てしまう。肉を裂く感触に、血の匂い。
本当に無理だった。
カタラとだけ戦えばいいと思っていた俺はなんで人間と戦うのか分からなくて、父さんに食ってかかったことがある。
しかし父さんは「俺もカタラとだけ戦いたかったよ。あのな、湊都。特別な力っていうのは使うやつ次第で殺人の道具になるんだ。俺達は同じ力を持つものとしてそれを止める義務がある。わかるな?」と悲しそうに話した。
それを聞いた俺は理解せざるおえなかった。
そりゃそうだ。この世界の全ての人間が犯罪を犯さない良い人であるわけではないのだから。
父さんと話して異世界転生で浮かれていた俺はこの世界と向き合う覚悟を決めた。その後は父さんとの特訓でなんとか人を傷つけることへの耐性をつけることができたが.....まだ殺す覚悟は出来なかった。
(地獄の日々だったな....)
あの特訓の日々を思い出すと胃がギュルギュルと鳴る。いや、別にお腹が減ってるわけじゃねぇから、気持ち悪さで鳴るんだよ。と、誰かに言い訳をしている俺はこの状況に現実逃避してるのだろう。
「最初誰がするんだよ?」
「やっぱ連れて来た俺でしょ」
坊主頭の言葉に優顔が下卑た笑みを浮かべた。
現実逃避とかしてる場合じゃないなとゴクリと唾を飲み、俺は腰に吊るしていた魂写棒を抜き四人に向ける。
「ねぇ、彼やるつもりみたいだよ~?」
「頭が悪いんでしょ。それか僕達を舐めてるか」
「前者に千円で」
「じゃあ俺は後者に五百円だ!」
「やっす~wwもっと冒険しろよw」
ゲラゲラと笑い合うコイツらは今俺を舐めている。一人だから、弱そうだから.....震えているから。だけどその侮りが俺の唯一の勝機!
ここがどこか分からないが、どこかの校舎裏っぽい。なら誰か人がいるはずだ!だからコイツらの隙をついて校舎内に入るか、取り敢えず人がいそうな所へ走る.....。
俺は未だに笑っている四人に向かって魂写棒を構え始動させた。
「始動『揺蕩う刃』!!」
魂写棒は光り輝き俺の身長に合った片手剣へと姿を変える。漫画で見るような無骨な剣。
これで隙を作るぞ!と息巻くが、あの四人組を見て俺は息を飲んだ。
「おい、始動したぞ」
「始動したねぇ~.....」
「始動したね」
「あちゃ~折角連れてきたのになぁ」
全員の目が据わっていた。さっきまで笑っていたとは思えない程の変わりようだった。
「なぁ、君。ここで始動するってことは殺されてもOKという意味なんだが....あぁ、教えてなかったな」
優顔は小さく「始動」と言い、その手に影子でできた弓を握る。あとの三人もそれぞれ始動させ異能を発現させた。金髪は槍、坊主頭はメリケンサック、眼鏡は長い棒.....棒?
優顔以外は全員ザントのようだ。俺は魂写棒がメリケンサックになるなんて思わなかったので少し驚いたが、そんな場合じゃない。
ヤバい、なんか知らんがコイツらのスイッチを押してしまったらしい。
「俺は快楽殺人鬼と違って人を殺すのが好きなわけじゃないからなぁ....面倒くさ」
「いいからやっちまおうぜ!コイツ殺して次の獲物を探さねぇと」
「新入生は僕達のいいカモだからね」
こういうヤツらが居るから父さんは俺に戦うすべを教えてくれたんだな。殺しでもしないと反省しない奴、また何度も同じことをやる奴。
(でも、俺は殺さない。コイツらを無力化させて被害者をなくすんだ!逃げるプランはやめだやめ!!俺は死んでもやってやる!っていうかコイツらうぜぇ!!)
そんな俺の覚悟を感じ取ったのか、四人は俺を囲むように位置をとった。神経を研ぎ澄ませて、どこから攻撃が来ても対処できるように俺は息を吐く。
次の瞬間、うなじにぞわりと鳥肌が立ち振り向くように揺蕩う刃を水平に振るった。
ガキンッ!と何かを弾いた音と、固い手応えに思わず「どらぁ!!」と叫ぶ。視線の先には驚愕に顔を歪める優顔の姿が。
「テメェらを無力化する!!」
俺に矢を弾かれたのが屈辱だったのか優顔は怒りに顔を染め、何かを言おうとした。
だが、優顔の言葉が吐かれる前にパチパチと場違いな拍手が響き渡る。
「誰だっ!?」
焦ったように優顔がそう叫び、拍手音の発生源と思しき木に矢を番えた。
「すげぇ啖呵を切ったなチビ」
「チ!?」
チビって俺の事か!?これでも毎日牛乳飲んで努力してんだよ!って言うか誰だいきなり......!
しかし文句を言おうとして固まった。
木の裏から出てきたのはそれはもう傲慢が服を着たような男で、息を飲むほどかっこよかったからだ。
俺達とは違う踝まであるスカートタイプの軍服を着ており、見るからに鍛えているであろう分厚い身体。そして何より圧倒的支配者のオーラ。
(こいつαだ)
俺は漂ってきたなんとも言えない匂いにクラりと目眩がした。しかし、周りの反応は劇的だった。
「クソッ!緋賀だ!!逃げるぞお前ら!!」
矢を番えていた優顔は男を見るやいなや、異能を解き一目散に逃げようとした。
「常習犯を逃がすわけねぇだろ馬鹿が....」
男はそう呟くと、いつの間にか手に持っていた拳銃をデタラメな方向に四発続けて放った。どこに撃ってんだよ....と首を傾げていると四人が走り去ったそれぞれの方向から悲鳴が聞こえた。
「な、何をしたんだ!?」
「よし、お前も手伝え。アイツらを一箇所に集めんぞ」
「お、おう?」
俺の質問には答えず男はスタスタと優顔が消えた方へ姿を消す。俺は暫く男が消えた方向をボーッと眺めていたが、手伝えという言葉を思い出し急いで眼鏡が消えた方へ走った。
どうやらそう遠く逃げれなかったようで、眼鏡はすぐに見つけることができた。
この時俺はあの男がコイツらを無力化したんだと思っていて、つまりこの眼鏡は気絶しているだけだと思っていた。
「は?」
だけど、うつ伏せで倒れる眼鏡からは気絶にしては多すぎる血が流れていることに気づき、背筋が凍る。
「おい、眼鏡....おいってば!!」
身体をひっくり返し揺すっても眼鏡は反応しない。
......それもそうだ。
だってコイツ....頭を撃ち抜かれている。
「なんで死んでんだよぉ.....」
俺は眼鏡の恐怖に歪んだ顔をぼんやりと見つめた。
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