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第一章 始まり
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しおりを挟む「誰か助けて!!!!!」
大きな声で精一杯そう叫ぶ。
これで大丈夫、これで家に帰れる、これでこの人から離れられる、これで........
(あれ?)
周りを見て呆然と立ち尽くす。
(なんで?なんで誰もこっちを見ないの?)
まるで誰も僕達を認識できていないように日常を過ごしていた。
僕の横をくたびれたサラリーマンがすれ違う。
僕の横を子連れの人がすれ違う。
僕の横を笑い合う高校生達がすれ違う。
僕の横を赤子を抱いた人がすれ違う。
僕の横を買い物袋を持った主夫がすれ違う。
誰も僕らを見ない。認識してくれない。
......じわりと背筋に汗が滲む。
「誰か助けてください!!誰か助けてください!!誰か助けて!!!誰かっ!!!」
(なんで僕を見ない!!まさかっ)
ハッとしてシュウさんを見る。僕の中である疑問が浮かんだのだ。異能を始動したのではないか?という疑問が。
魂写棒を帯刀ならぬ帯棒していないためザントではないだろう。それにたとえザントだとしても魂写棒を始動せずに異能を扱う事は不可能だ。まぁ例外はあるが、シュウさんは僕と出会ってから一度も魂写棒を顕現していないため当てはまらない。
一番可能性が高いのはヴァイスだ。
ヴァイスの異能は特殊なものも多く、他人に認識されなくなるというのもあるかもしれない。
(だけどシュウさんが寄り添うモノを始動した素振りはなかった。それに始動する時は必ず影子に動きがあるんだ。それを僕が見落とすわけない)
結局何もわからなかった。いくら考えてもどれも確証を得ないし、ありえない事ばかり。
視線を合わせれば目の前の人は、思考を巡らせ焦っている僕を嘲笑うかのようにただただ眺めているだけだった。
「.....なんで僕らは認識されないんですか」
もう、逃げられない。助けも来ない。でも、この状況を打破できるなにか糸口があれば.....そういう願いもあって僕はシュウさんに恐る恐る聞く。
.......少し声が掠れた。
すると彼は出会った時みたいに僕と目を合わせるようにしゃがみこむと、僕の頭に手を置いた。
「認識はしてるぜ。ただ無視してるだけだ。なんたってここに居るやつらは俺が用意した人間だからな」
「え?」
用意した人間?
頭に手を乗せられたまま、また通りに目を向ける。
幸せそうなカップル
杖をつく老人
くたびれたサラリーマン
無言で歩く中学生
イヤホンをして走る学生
楽しそうに笑い合う高校生達
........よく見ればさっき僕の横を通った人が来た道を戻って来ていることに気づいた。
見た顔がまた僕の横を通る。
つまりシュウさんが言ったようにこの場にいる人達はシュウさんの関係者なんだ。
.......あのファミリーレストランもきっとそうなんだろう。
「クックック.....普段使わねぇ金と権力もたまには役に立つじゃねぇか」
「.....僕はどうなるんですか。このまま帰してくれないんでしょう?」
「あ?そんな不安な顔しなくても大丈夫だ、ちゃーんと家に帰してやるよ」
ワシワシと頭を撫でられたが、それで安心できるほど僕はおめでたい頭をしていない。
一体何を考えているのか.......。
その時、シュウさんが突然左手を横に出した。そしてちょうどシュウさんの横を通ったサラリーマンの人がその手にスマホを置き、そのまま通り過ぎていく。
「これ持っとけ」
僕が受け取ったのはそのスマホ。何の変哲もない普通のスマホに見えるが、きっと違うのだろう。
「肌身離さず持っとけよ?そこには俺の番号しか登録されてない。だからコールが鳴ったら直ぐに取れ。あ、メールもだ。無視したらお前の家に突撃しに行くからそのつもりでな」
スマホを手に固まる。
シュウさんの言葉はこれからも会うということを示しているように聞こえたからだ。
まさか、そんな、と思うが手に持つスマホが嘘ではないと僕を現実に引きずり戻す。
「おいお前ら!撤収しろ」
彼の言葉でこの場は一瞬で僕とシュウさんの二人っきりになった。空気中の影子を感じてみても僕ら以外人っ子一人いないのがわかり、膝が震えそうになるが何とか耐える。
(本当に誰もいない.....どうしよう)
僕は人のいなくなった通りをぼーっと眺めた。
「送る」
もう拒絶する気も起きない。
シュウさんは大人しい僕を行きと同じように片手で抱っこし、歩き始めた。
長い脚で悠然と歩む姿は行きと変わらない。だが一つだけ行きと変わったことがあるとすれば.....
「前に一度ダチから漫画押し付けられて読んだことがあったんだよ。でな?その漫画がクソくだらねぇのなんの......その漫画でさっきみたいなシーンがあったんだ。漫画のヒロインが悪役に攫われるシーンで、悪役が言うわけだ。『抵抗したらこの街の人間を殺す』ってな。実際にその悪役にはそれを成しうる力があったし本気で実行出来る性格のやつだった。それでそのヒロインは言うんだ。『わかった。大人しくするから街の人には手を出さないでくれ』って。......な?クソつまんねぇ」
軽蔑すように、見下すように、唾棄するように彼は饒舌にそう話した。
「やっぱり漫画は救いがあっから面白くねぇ。現実はもっと救いがなくて、惨めなもんなのによ」
日が沈み、あたりはもう既に薄暗くなってきていた。学校が終わった頃はまだ明るくて、家に帰ったらぐーたらしようと考えていたのに.....。
「弥斗は賢い選択をした。自分が助かるために他者を切り捨てるなんて普通だ普通。あそこで助けを呼ばず、大人しく従うやつは本物のいい子ちゃんか偽善者だな。俺が嫌いな奴らだ」
このまま警察に見つかったら補導されちゃうな。
......うん、補導された方がいいや。通りすがりの警察いないかな?
「だからお前が叫んでくれてよかった。お前が俺の嫌いな奴だったらあの場で殺してたわ.......」
もう、本当に嫌だ.......早く家に着いてくれ。
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