狂った世界に中指を立てて笑う

キセイ

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第一章 始まり

8

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「弥斗君、ここわかんないんだけど教えて?」

「弥斗~遊ぼうぜ!!」

「弥斗君僕これわかんないっ」

「ねぇねぇ、今日一緒にご飯食べよ?」


充実した日常だ。友達もいっぱいできて、毎日が楽しい。

弟とヒナちゃんとで競争をして幾日経ったが、今のところ僕の言った通り弟は近づいてこなかった。
最初は言ったこと無視されたらどうしよう?と不安に思っていたのだが、どうやらその思いは杞憂だったようで今のところ充実している。

やっぱり接近禁止令を出してよかった。僕にも友達が作れるし、今頃もしかしたら弟にも友達ができている......かもしれない。いや、できていて欲しい。


「や、弥斗.....!」


囲まれている僕に話しかける大きな声が耳に届いた。この声はヒナちゃんだ。
周りのみんなにまた後でねと言い、少し離れた場所にいるヒナちゃんの所へ行くと彼はまた一生懸命に口をハクハク動かす。


「きょ、きょうも....いぃか?」


「えっと.......僕のカタラ狩りについて行ってもいいかってことだよね?うん、いいよ。それにしても見るだけでいいの?一緒に狩らない?」


ヒナちゃんは何故か僕と一緒に狩ってくれない。この頃森に行くときは必ずヒナちゃんがついてくるようになったが、彼は僕の後を追うだけで一度も異能を始動していないのだ。今のところ彼の異能を僕は見たことがない。

本当は少し気になる。
彼がどんな異能なのか。


「い、や....いい。み、見るだ、だけで.....」


誘ってもいつもこう言うのだ。
無理やりはいけないことだから僕は「そっか」と言うことしか出来ない。まぁ、すっごい残念そうに表情を作って返事を覆そうとしてみたりするのだが.....しかしヒナちゃんには効かないんだよなぁ。
というのも彼は僕の顔を見ない。それはもう驚く程に。僕と話す時はモジモジと下を向くか、明後日の方を見て話すのが多い。

一度それは何故か聞いたことがあるが、その時ヒナちゃんは「はっ、ははは恥ずかし....い、だ.....ぅ」と顔を赤くしていた。
ヒナちゃんはシャイな子だったのだ。もうその時のヒナちゃんが可愛くて可愛くて撫でくりまわしたい気持ちでいっぱいになったけど、僕は何とか耐えた。
誰かあの時の僕を褒めて欲しい.....。


そして今目の前にいるヒナちゃんを見てふと思った。目を合わせたらどうなるんだろう?って。ぶっちゃけ僕はヒナちゃんの目を真っ直ぐ見た事ない。視線を合わせようとしても秒で逸らされるのだ。ちょっと凹む.....。

ただ目を合わせるだけ。
そう....ほんの出来心だったんです。


「ぶっ!?...........」

「ひっ、ヒナちゃん!?」


まさか鼻血吹いて倒れるなんて思わなかったんですよ....。




※※※※※※※※※※※※※※※



あの後ヒナちゃんは家のお迎いによって帰っていき、放課後のカタラ狩りも不参加となった。
僕もなんだか罪悪感で胸がいっぱいになり放課後のカタラ狩りを止めて、大人しく家に帰ることに。


(今日はピアノでも弾こうかな?いや、バイオリンにしようかな?......ぐーたらしよ)


そう決めちょうど角の道を曲がった瞬間、

ドンッ

何かにぶつかった。いや、なにかではない....人だ。


「す、すみません!」


内心驚きながらも慌てて頭を下げ謝罪する。
僕は角を曲がる際にちゃんと空気中に漂う影子の動きに何の変化もなかったことを確認して足を進めた.....なのにぶつかるなんて。
影子の扱いはサナート(遠距離異能者)が最も優れているが、だからといってザントである僕が影子を扱えないという訳では無く、僕は影子の歪みで周辺にいる人・物の察知ができる。

それなのに.....どういことなんだろう?

疑問を胸に顔をあげると、黒い学ランが視界に入る。目の前の人は全部のボタンを外し前をだらしなく開け、ズボンに手を突っ込んでいた。どうやら僕がぶつかったのは高校生のようだ。体格が中学生のそれを優に超えており、顔は見上げなければ見えないほど高い位置にある。

しかし顔を更に上げてその人と目が合った瞬間、ゾワリと肌が粟立ち思わず後ずさった。

(怖い)

今すぐにでも背を見せ逃げ出したいほどの恐怖を感じたが、僕は蛇に睨まれた蛙になったようにその場から動けなかった。

僕が固まっていると、彼はその見開いていた赤い瞳を三日月状に歪め背を丸めた。
顔が近くなる。

(ひぃっ)

近くなったぶん下がろうとしたが、後ろに行きたい気持ちと足の動きが連動せずその場で尻もちをついてしまう。

それでも目の前の青年はニヤニヤしたまま僕に近づきしゃがみこんだ。近いせいで彼の顔がはっきり見えてしまい、目を逸らしたくなった。
威圧的な三白眼のせいで人相が悪く見えるが、顔のパーツは整っており適当に切られた黒髪も相まってかっこいい分類に入るだろう。
だが瞳に人としての温かみがないように見える。

多分この人は......冷酷な性格だ。


「あー!!すっげぇ痛てぇなぁ」


しゃがみこんだと思ったらいきなり大声でそう言い出した。
僕はいきなりの事に顔を顰めるが、なんとか申し訳なさそうな顔を作る。


「あ、そのごめんなさい......」


この人は痛いと言っているが、僕は走っていた訳では無いのでそんなに衝撃はないはずだ。それにタッパある彼が僕と衝突したくらいでどこかを痛めるなど失笑ものだろう。僕なら鼻で笑ってしまう。

でもここは謝ってやり過ごす。助けを呼ぼうにもなんの偶然かこの辺りに人っ子一人居ない状態で、僕は明らかにヤバい人であるこの人と2人っきりなのだ。


「ごめんで済んだら救急車はいらねぇよ。ってことで来い」

「っあ、あの!?」


高校生のお兄さんは自身のことを『シュウ』と名乗り、そして暫くスマホをいじったとおもったら「弥斗っていうのか.....いい名前だな」とボソリと呟いた。

(なんで僕の名前っ......やっぱりヤバい人だ。なんとか逃げて....にげて.......ぁ)

ふと気づいてしまった。僕の名前を調べたということは僕の家も調べている可能性があるということに。つまり逃げても.....捕まる。

(いや、考えすぎだ。このシュウって人が僕にそこまでする理由はないだろうし.....うん、考えすぎ)

逸る鼓動を感じながら僕はシュウさんにがしりと手を繋がれ、引きずられるように腕を引っ張られた。



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