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第一章 始まり

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「見ていたなら止めてくださいよ」


振り向くとこの屋敷の主人である男ーー僕らを保護してくれた『お父さんの友人』が立っていた。
彼は興味深そうに倒れた弟と僕を交互に見つめ、首を傾げる。


「貴様は弟に容赦ないのだな?てっきり家族思いのいい子ちゃんだから話し合いで説得するんだと思っていたが.....まさか暴力で解決とは驚きだ」

「弟のことを思って決闘したんです。暴力と言わないでください。それに見ていたならわかってるでしょう?僕とチビの意思はずっと平行線で、交わることがないということを」

「......そうだな。貴様の弟の執着心は凄まじい。7歳にしてあそこまでいくと、10年後など考えるだけで怖気が走る。お前の離れるという判断は間違ってなかったな」

「えぇ。それにここならチビの能力も最大限に引き出すことができる。僕にとってはとても嬉しいことですよ」


さて、藤間とうまさんには悪いけど養子の件を早めて貰わなくちゃいけない。すぐには無理だと思うけど取り敢えず今はこの屋敷から姿を消さなければ.....。
弟に見つかったらまた繰り返すことになる。

ただ不安もある。

僕はチラリと倒れている弟を見た。
このまま僕が消えて弟は大丈夫だろうか?あの執着具合からして、危険なことをしそうな予感がする。.....後で藤間さんに相談しよう。


「なぁ、やはり逆にしないか?」

「?」


上から降ってきた低い声と翳る視界に僕は顔を真上に上げると、いつの間にかそばに来た彼が僕を真っ赤な瞳で見下ろしていた。その赤い瞳と視線が交わる。


「お前がここに残れ」

「......あはっ」


思わず失笑が漏れ出る。


「貴方は決まったことを蒸し返す様な人なんですか?それは、大人としてどうなんですかね~?藤間さんにチクりましょうか」

「......なまいきな。やはりどう見ても貴様は7歳には見えんなぁ。まだ弟の方が年相応だ」


彼は藤間さんに頭が上がらないというのを僕は知っている。会話から知ったわけじゃないけど、なんか二人の間に流れる空気が孫と祖父って感じなんだ。藤間さんの彼を見る瞳には温かさが宿っている。まさに可愛い孫を見守るおじいちゃんだ。

まぁ、可愛いと言うには邪悪すぎる気もするけど。


「失礼ですね。どこからどう見ても僕は7歳児でしょう?」

「ふん、言ってろ。蒸し返すつもりはないが....やはり惜しいな。貴様は弟よりも遥かに優秀だ。知能も戦闘力も教養も.....本当にβなのか?いや、調べでβと出ていることから間違いではないんだろう。しかしβにしては優秀すぎる。これが‪α‬やΩなら納得できるが......。あぁ、惜しい」


このギラギラした目は嫌だ。‪α‬は絶対的王者で、支配気質。この男はその性質が強いのだろう。
僕を見る目にまだ諦めの光がないことが分かる。
捕食者の瞳だ。
このままでは将来何かしら手を打ってくるに違いない。
何か彼を諦めさせるようなことを......


「.....今は僕が優秀かもしれませんが、それは今だけです」

「なに?」

「十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人って言うじゃないですか。僕はそれですよ」

「......」

「でも僕の弟は違う。.....だって彼は‪α‬だから」


この言葉に僕を見下ろす男の目が細まった。


「それは‪α‬である貴方がよくわかっていることでは無いですか?βの将来性と‪α‬の将来性.....賭けるならもちろん後者ですよね」

「......そうだな。その通りだ」


苦笑う彼にホッとする。
あぁ、これでもう大丈ぶーーー


「ぐっ!?」

「だがな」


男は手を伸ばし僕の首を掴み持ち上げた。僕が何も反応出来なかったほど素早く、それでいて自然な動きだった。
足が浮き、首を掴まれ上手く息が出来なくなる。

(く、くるしい!!なんで僕は首を!?ぐっ、ぁ)

訳の分からぬ男の行動に混乱しながらも、必死に抵抗を試みる。男の手に爪を立てたり、自由な足で蹴りを入れ.....届かない。
そんな僕の姿を見て目の前の男は鼻で笑い、口を開く。


「お前を保護したのは俺だ。つまりお前は俺のものなのだよ。そう、たとえどこぞの家に行こうとお前は俺から逃げられない。逃がしはしない。この家に必要なんだ.....お前の存在は」

「は、な......せっ」

「今は逃がしてやろう。あの時、この俺から一本取った褒美だ。まさか、こんな子供に言いくるめられるとは思わなかったぞ?褒めてやる。だが、今だけだ。お前は後悔するだろう.....この家に弟を置いていったことを」

「っ、っ~!」

「弥斗、お前は‪α‬の執着心を舐めすぎている」


嘲笑するようにそう言った男がパッと手を離し、僕は地面に倒れ込む。
息苦しさから解放されゴホゴホと咳き込みながらも必死に空気を吸い呼吸を整えようとするが、身体の震えが収まらなかった。

死にかけた。

この人は本気で僕を殺そうと.....いや、死をもって感じさせようとしたんだ。‪α‬というものを。

そう気づいた時、コツリと音を鳴らし上質な革靴が視界に入る。見上げるとどこか喜色を浮かべた男の顔が見え、肩がびくついた。


「ふん....お前の弟は連れて行く。お前はこのままこの部屋を使え」


コツ....コツ....コツ....コツ....


遠のく靴音にホッとする。


「ゴホッ....やっぱり邪悪すぎるな、あの人」


これだから‪α‬は嫌いだ
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