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第一章 始まり
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「弥斗!!」
大きな音と共に自分を呼ぶ声が聞こえたため読んでいた本を閉じ、顔を向ける。
ドアの前に息を切らしながらも僕を睨むように顔を怒りに染めた弟が立っていた。彼は息を整える時間も取らず、ズカズカと目の前にやってくる。
「どうしたのチビ?」
「なんでっ!!なんでなんだ!?」
「.....何が?」
「このままここに保護されればいいじゃねぇか!なんで離れ離れにならなきゃいけねぇんだっ!」
僕達は昨日お父さんの友人に保護された。今僕達が居るのはその人の屋敷。
そして昨日の内に僕は今後のことについて話し合いたいと頼み込んだんだ。僕のその願いを彼は面白そうに嗤い快く了承してくれて、話し合いの結果弟だけそのままここに引き取られ、僕は違う家に行くことになった。
彼には弟に言わないで欲しいと言ったのに、弟が知っているということは.....藤間さんか。
藤間さんは僕達の部屋や食事を用意してくれた世話係の人だ。確かに彼には口止めしたが藤間さんには言ってなかった。
これは僕の落ち度かな......あぁ、でも結局言わなきゃいけなかったから結果オーライだ。
さて、なんて説得しようか?
「.....僕はβでチビはα。βの僕はここに必要ないんだ」
「っ!嘘つくなよ!!そんな理由で離れ離れになるなんて馬鹿げてる!.....もしかして、あのいけ好かない野郎になんか言われたのか?」
「いけ好かない野郎って....どこでそんな汚い言葉を知ったの?チビ....」
「もう俺はチビじゃねぇ!!!それにはぐらかすなっ」
僕にとっては可愛いチビちゃんのままなんだけどなぁ。でも考えてみれば双子の兄にチビって呼ばれるのは嫌か。身長も同じくらいだし。
それでも僕はチビって呼ぶけどね.....なんでだろう?怒ってる弟を前にしてもただ可愛いとしか思えない。膨大な記憶のせいかな?
「聞いてんのか弥斗!!」
「あぁ、ごめんね?えっと、僕とチビが離れ離れになるのはチビの為でもあるんだよ」
両親が死んだことについて聞いたときを思い出すと今でも身震いしてしまう。あの時の弟は心底どうでもいいというような態度で自身の両親を切り捨て、ただ僕が居ればいいと言った。
このままではダメだと思った。
それは僕にとっても弟にとっても.......そう漠然とした不安を感じた。
だから離れる。......きっと僕達は近すぎたんだ。
「僕がそばにいたらチビの可能性を潰してしまう。そんなの僕は嫌だよ」
「~~っ!.....それでも俺は離れたくねぇ!嫌だ、嫌だ、嫌だっ!!弥斗と一緒に行く!俺は弥斗と一緒なら落ちぶれたっていい!」
.....本当にそんな言葉どこで覚えてきたのかな?
チビも僕と同じように記憶を持っているんじゃないのかと疑ってしまう。
でも今はそんなことどうでもいい。
双子なのに自分と似ていない弟を真っ直ぐ見つめ、僕は立ち上がる。
彼の瞳はどこか危うい色を宿しているように感じた。
だから僕は......
「考えは変えないみたいだね。....あぁ残念だ。でも仕方ないよね?間違った道に行く弟を正すのも兄の役目なんだし......本当に残念だ」
僕は小さく「魂写棒」と囁く。
すると右手に長さ30cm程の白い棒が現れた。
両親のように常に顕現させることが出来ない僕は一時的に魂写棒を呼び出すので精一杯だ。
これは早く決着をつける必要があるなと思いながら、魂写棒を両手で持ち弟に向ける。
「弥斗....」
「チビ、魂写棒を呼び出して構えて。もう話し合いでチビを納得させるのは無理だ。だから僕は君を倒してここを出ていくよ」
「!!!」
弟は顔を顰めながらも魂写棒を僕と同じように呼び出した。そして構えると、瞳を鋭くさせ僕を真っ直ぐ見つめ返し口を開く。
「俺は、俺はっ、俺から弥斗を奪うやつを許さねぇ!!あのクソ男も、藤間のじじいも、たとえ弥斗自身でも!!お前を殺して俺はずっと弥斗と一緒に居るんだっ」
殺すときたか.....。
僕の弟はいつから僕にこんな執着心を持ってしまったんだろう?
瞳を見ればわかる。弟は本気で言っている、本気で僕を殺そうとしている。
......悲しいなぁ
「始動!!」
弟が吠えるようにそう言った瞬間、彼の魂写棒が淡い光を纏った。それをブンブンと右手で振り、棒の先端を僕に向ける。
僕の脳内ではあれは当たったら骨折くらいはいくだろうなぁ、痛いのはやだなぁとくだらないことが思い浮かぶ。
そしてそんな僕の脱力感を感じ取ったのか、彼は地面を蹴り一瞬で僕の目の前に移動した。
顔を歪めながらも魂写棒を振り下ろそうとする彼の姿が視界に入る。
弟よ、始動がナンセンスだ。
「ダメだよチビ。始動はちゃんと名前まで言わなきゃ.....こんなふうに、始動『切り裂く刃』」
「なっ!?」
弟の一撃を避け、僕も始動する。
両手で持っていた魂写棒が光り輝き変化した。
手には二振りの剣が
刃渡り約20cmと今の僕に合わせた長さの双剣だ。
柄は白く、刀身はただただ黒い。
シンプルでまさに僕好みの剣.....結構気に入いってる。
「さぁ、歯を食いしばってね?」
両手に持った切り裂く刃を互いにぶつけ合わせた。
キンッ!
鋭い音が鳴る。
次の瞬間弟は転げるようにその場から飛び退いた。
「クソっ!?」
飛び退いた弟はその場で膝を着き腿に手を置く。よく見ると彼の左太腿を抑える左手から血が滴っている。
どうやら避けきれず僕の攻撃が当たっていたらしい。
その姿に胸を痛めるが、それでも僕はやらなければいけない。
「やっぱり対人戦は向かないな.....ごめんねチビ。もう終わらせる」
「ま、まだだ!!」
よろりと立ち上がる弟。依然として腿からは血が流れている。
それでもその瞳は死んでない。
「俺だって.....弥斗を殺すんだ!」
「......そう」
僕はもう一度刃どうしを打ち付け音を鳴らす。
そして駆ける。
「こんなのっ、クソがっ!!!.....どうだ避けたぞっ」
「わざとだよチビちゃん」
「!?」
僕は弟が避けることを予想し無防備になる避けた後を狙った。今の弟には僕の攻撃を避けるのが精一杯だろう。だから、避けた後は無防備になる。
現に今、目の前に僕と変わらない大きさの背中が.....
「じゃあね、チビ.....」
その隙だらけな弟の頭目掛けて柄を思いっきり打ち付けた。
「~っが!?!?」
呻き、崩れ落ちる僕の弟。
「君は優秀なαなんだ。僕なんかでダメになったら....お父さんとお母さんが悲しむよ」
弟が手に持つ魂写棒と僕の切り裂く刃が消える。
倒れたままの弟の姿に自分の中の張り詰めた何かが消えたような感覚がし息を大きく吐いた。
そして僕は弟に背を向ける。
大きな音と共に自分を呼ぶ声が聞こえたため読んでいた本を閉じ、顔を向ける。
ドアの前に息を切らしながらも僕を睨むように顔を怒りに染めた弟が立っていた。彼は息を整える時間も取らず、ズカズカと目の前にやってくる。
「どうしたのチビ?」
「なんでっ!!なんでなんだ!?」
「.....何が?」
「このままここに保護されればいいじゃねぇか!なんで離れ離れにならなきゃいけねぇんだっ!」
僕達は昨日お父さんの友人に保護された。今僕達が居るのはその人の屋敷。
そして昨日の内に僕は今後のことについて話し合いたいと頼み込んだんだ。僕のその願いを彼は面白そうに嗤い快く了承してくれて、話し合いの結果弟だけそのままここに引き取られ、僕は違う家に行くことになった。
彼には弟に言わないで欲しいと言ったのに、弟が知っているということは.....藤間さんか。
藤間さんは僕達の部屋や食事を用意してくれた世話係の人だ。確かに彼には口止めしたが藤間さんには言ってなかった。
これは僕の落ち度かな......あぁ、でも結局言わなきゃいけなかったから結果オーライだ。
さて、なんて説得しようか?
「.....僕はβでチビはα。βの僕はここに必要ないんだ」
「っ!嘘つくなよ!!そんな理由で離れ離れになるなんて馬鹿げてる!.....もしかして、あのいけ好かない野郎になんか言われたのか?」
「いけ好かない野郎って....どこでそんな汚い言葉を知ったの?チビ....」
「もう俺はチビじゃねぇ!!!それにはぐらかすなっ」
僕にとっては可愛いチビちゃんのままなんだけどなぁ。でも考えてみれば双子の兄にチビって呼ばれるのは嫌か。身長も同じくらいだし。
それでも僕はチビって呼ぶけどね.....なんでだろう?怒ってる弟を前にしてもただ可愛いとしか思えない。膨大な記憶のせいかな?
「聞いてんのか弥斗!!」
「あぁ、ごめんね?えっと、僕とチビが離れ離れになるのはチビの為でもあるんだよ」
両親が死んだことについて聞いたときを思い出すと今でも身震いしてしまう。あの時の弟は心底どうでもいいというような態度で自身の両親を切り捨て、ただ僕が居ればいいと言った。
このままではダメだと思った。
それは僕にとっても弟にとっても.......そう漠然とした不安を感じた。
だから離れる。......きっと僕達は近すぎたんだ。
「僕がそばにいたらチビの可能性を潰してしまう。そんなの僕は嫌だよ」
「~~っ!.....それでも俺は離れたくねぇ!嫌だ、嫌だ、嫌だっ!!弥斗と一緒に行く!俺は弥斗と一緒なら落ちぶれたっていい!」
.....本当にそんな言葉どこで覚えてきたのかな?
チビも僕と同じように記憶を持っているんじゃないのかと疑ってしまう。
でも今はそんなことどうでもいい。
双子なのに自分と似ていない弟を真っ直ぐ見つめ、僕は立ち上がる。
彼の瞳はどこか危うい色を宿しているように感じた。
だから僕は......
「考えは変えないみたいだね。....あぁ残念だ。でも仕方ないよね?間違った道に行く弟を正すのも兄の役目なんだし......本当に残念だ」
僕は小さく「魂写棒」と囁く。
すると右手に長さ30cm程の白い棒が現れた。
両親のように常に顕現させることが出来ない僕は一時的に魂写棒を呼び出すので精一杯だ。
これは早く決着をつける必要があるなと思いながら、魂写棒を両手で持ち弟に向ける。
「弥斗....」
「チビ、魂写棒を呼び出して構えて。もう話し合いでチビを納得させるのは無理だ。だから僕は君を倒してここを出ていくよ」
「!!!」
弟は顔を顰めながらも魂写棒を僕と同じように呼び出した。そして構えると、瞳を鋭くさせ僕を真っ直ぐ見つめ返し口を開く。
「俺は、俺はっ、俺から弥斗を奪うやつを許さねぇ!!あのクソ男も、藤間のじじいも、たとえ弥斗自身でも!!お前を殺して俺はずっと弥斗と一緒に居るんだっ」
殺すときたか.....。
僕の弟はいつから僕にこんな執着心を持ってしまったんだろう?
瞳を見ればわかる。弟は本気で言っている、本気で僕を殺そうとしている。
......悲しいなぁ
「始動!!」
弟が吠えるようにそう言った瞬間、彼の魂写棒が淡い光を纏った。それをブンブンと右手で振り、棒の先端を僕に向ける。
僕の脳内ではあれは当たったら骨折くらいはいくだろうなぁ、痛いのはやだなぁとくだらないことが思い浮かぶ。
そしてそんな僕の脱力感を感じ取ったのか、彼は地面を蹴り一瞬で僕の目の前に移動した。
顔を歪めながらも魂写棒を振り下ろそうとする彼の姿が視界に入る。
弟よ、始動がナンセンスだ。
「ダメだよチビ。始動はちゃんと名前まで言わなきゃ.....こんなふうに、始動『切り裂く刃』」
「なっ!?」
弟の一撃を避け、僕も始動する。
両手で持っていた魂写棒が光り輝き変化した。
手には二振りの剣が
刃渡り約20cmと今の僕に合わせた長さの双剣だ。
柄は白く、刀身はただただ黒い。
シンプルでまさに僕好みの剣.....結構気に入いってる。
「さぁ、歯を食いしばってね?」
両手に持った切り裂く刃を互いにぶつけ合わせた。
キンッ!
鋭い音が鳴る。
次の瞬間弟は転げるようにその場から飛び退いた。
「クソっ!?」
飛び退いた弟はその場で膝を着き腿に手を置く。よく見ると彼の左太腿を抑える左手から血が滴っている。
どうやら避けきれず僕の攻撃が当たっていたらしい。
その姿に胸を痛めるが、それでも僕はやらなければいけない。
「やっぱり対人戦は向かないな.....ごめんねチビ。もう終わらせる」
「ま、まだだ!!」
よろりと立ち上がる弟。依然として腿からは血が流れている。
それでもその瞳は死んでない。
「俺だって.....弥斗を殺すんだ!」
「......そう」
僕はもう一度刃どうしを打ち付け音を鳴らす。
そして駆ける。
「こんなのっ、クソがっ!!!.....どうだ避けたぞっ」
「わざとだよチビちゃん」
「!?」
僕は弟が避けることを予想し無防備になる避けた後を狙った。今の弟には僕の攻撃を避けるのが精一杯だろう。だから、避けた後は無防備になる。
現に今、目の前に僕と変わらない大きさの背中が.....
「じゃあね、チビ.....」
その隙だらけな弟の頭目掛けて柄を思いっきり打ち付けた。
「~っが!?!?」
呻き、崩れ落ちる僕の弟。
「君は優秀なαなんだ。僕なんかでダメになったら....お父さんとお母さんが悲しむよ」
弟が手に持つ魂写棒と僕の切り裂く刃が消える。
倒れたままの弟の姿に自分の中の張り詰めた何かが消えたような感覚がし息を大きく吐いた。
そして僕は弟に背を向ける。
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