夜瑠（よる）と世界のファンタジア 〜太陽と月の姫〜

『あなたはだれですか？』

　あのミゼってひとが飛ばした火ひにビックリしたけど、ひぐれがツメで『しゅばっ』て消してくれた！

「ひぐれ！　あつくない？　ケガしてない？　だいじょうぶ？」
『僕はだいじょうぶ！　だけどよる、お願いだからこの場所をはなれて、魔人まじんのエリアのそとへ向かうんだ！　そうしたらきっとラナが守ってくれるから！』

　え？
　ひぐれとゴートさんとわんちゃんは？

「そうです、早くエリアのそとへ。よるさまが先にあんぜんな場所にいかないと、我われらが本気を出せません。なあに、きっとおいはらってやりましょう」
「で、でも……みんなでいっしょに、にげようよ！　あぶないよ！」

　何か、こわいの。よるがいないあいだにだれかケガしちゃう気がするの。

「ごちゃごちゃとうるっさいねえ。ほれほれ、わたしをたおせるものならたおしてみな。楽しませてみな」
『よる、ここは僕たちにまかせてはやく行くんだ！　風よ、僕に力を！　【風の魔法　疾風・暴爪しっぷう・ぼうそう！】【風の魔法　加速かそく！】ミゼ！　弱いものいじめしかできないお前になんか、負けない！』


　ギャリッ！
　ギィン！


「ちい！　ちょこまかと動きまわって、うっとうしい！　だけど、まったく動きが見えないわけじゃない、アタシは強くなったからねえ。それが限界かい？」
「まだまだ！　【加速！】【加速！】【加速ぅ！】」

　ツメをのばしたひぐれが、いなくなっちゃった！
　でもミゼさん、笑ってる。
　
　くやしい。

　何で、いじめようとしてるひとが笑ってるの？

　くやしい。
　
「ひぐれ、我われも手助てだすけするぞ！　重力じゅうりょくよ、ミゼにまとわりつけ！　【重力魔法　黒天使こくてんしの息吹いぶき！】
「あっはっは！　前は動けなくなったけど、今はたいしたことないねえ！」


　がああああ！


「おやおや、しもべの子オオカミも飛びかかってくるなんて、こわいこわい。でも、しもべの猫獣人じゅうじんのツメはだんだんとはっきり見えてきたし、もうそろそろ力をいただくとするかねえ」
『【加速！】……はあ、はあ……こいつ、強い！　でも、よるも子オオカミもゼッタイにまもりぬいてみせる！　【風の魔法　疾風・暴爪しっぷう・ぼうそうバースト！】』　
「くっ、ミゼめ……どれだけ力をふやしたというのか。全力ぜんりょくの重力魔法でも止められないとは！　だが、まだまだ！」


　オオオオオンッ！！

『子オオカミ！　あぶないから逃げろ！』
「あっは！　楽しくなってきたねえ！　ほらほらお前ら、もっと本気を出してきな！」
　
　くやしい。

　よるの夢で、何で？

　ひぐれもわんちゃんもゴートさんも、やさしくてカワイくて、いいひとなのに。

　何で、ミゼさんはそんなにかってなことをするの？

　くやしいよ、お母さん！

　おかあさ……



”　みんなでもっと元気を出したいときはね？　お父さんにナイショにしてくれたら、お母さんがおしえてあげる！　だいだいだーいピンチのときだけだよ？　こうして、胸むねに右手をあてて……　”



　！！

　今ピンチだし、夢の中だからできるかも！
　よるだって、みんなといっしょにがんばりたい！
　
　えっと、胸に右手をあてて、たしか……。



”　月よ、わたしたちにめぐみの力を！【月の光！！】



　あ、あれ？
　よるの手、ちょっと光った！
　
『え？　力がわいてくる、どうして？！』
「よ、よるさま！　支援しえん魔法をつかえるのですか！」



　がうっ？！
　ワオオオオオオオオン！！



　みんな、元気になったみたい！
　お母さんありがとう！

　なら、つぎはお父さんの魔法！

　たしか……グーをまえにつきだして……。



”　じつは、お父さんはこのゲームのキャラよりすっごい魔法がつかえるんだよね。お母さんにはナイショだよ？　だいだいだーいピンチのときだけ、にぎったこぶしをまえに出して……　”



「何だい？　いちばんよわっちそうな子どもが支援魔法だってかい？！　いや～なかんじだねえ。なら、アンタからさきに力をもらっとこうかい。ほれほれ、行きな。【炎ほのおの矢・連弾れんだん！！】
「きゃああああ！」

　また火がいっぱい飛んできた！

『よる、あぶない！　ぐああ！』
「よるさまっ！　がはあ！」


　きゃん！


　え？
　みんなの声？

「あーはっはあ！　みんなでかばうなんてねえ！」　
「ひぐれ！　ゴートさん！　わんちゃん！」
『ぐうう……よる、だいじょうぶだ！　今、僕の水魔法で火をけすし、よるがかけてくれた魔法のおかげで、たいしたことない……』



●



　よるの夢なのに……よるのせいで、何でみんながケガしなきゃならないの？
　何でよるは、何にもできないの？

　よるだって。

　よるだって……みんなといっしょに戦いたいのに！

　みんなをまもりたい……のにぃ！

　泣いてる場合じゃないの…………に…………ぐす、うう！





『あなたはだれですか？　なぜ泣いているのですか？』





　ぐすぐす…………え？

　また、女のひとの声？