上 下
15 / 18

【ひぐれの気持ち】僕はきっと、このときのために。

しおりを挟む
 何だ?!
 あの赤い髪毛の女……魔人ミゼって言ったか?

 空気がビリビリってふるえてる!
 あいつ、ゼッタイにヤバい!

 それに……。

『ゴート! 魔人って、こいつのことか! こいつをたおせばいいのか!』
「おやおや、せっかちだねえ~そこの猫獣人じゅうじんは。でも、なかなか強そうだ。お前もアタシにいっぱいちからをくれそうだね」

 力?
 力をうばうのか?

「ひぐれ、きけ! 魔人は、もともとはファルガス帝国の人間だ! 月の女神さまと勇者がわれらの国を守るためにはってくれた結界けっかいを見つけ、攻撃をするために生みだしたあらたな種族しゅぞくだ! 魔人は、たおした相手や弱い相手から、力や魔力をうばいとる!」
『何だって?! でも、うばった力をつかえるのって、いっしゅんだけじゃないのか?』

 その魔法は聞いたことあるけど、そんな感じじゃなかったっけ?

「魔人のじゅつはちがう! うばわれたものは、魂がぬかれたように眠ってしまう! 魔人にうばわれつづける! 我らのミリ姫さまも眠ったまま……しあわせになった国は今はもう……魔人ども! ファルガス帝国よ! 我らがそれほどにくいか! だが、我らもお前たちをゆるさん!」

 魔人のやつら、何てことを!

「あらあら、ぜ~んぶ説明してくれてありがとう♪ゴート。アンタは強いから倒せなかったんだけど、よわっちいものから力と魔力をもらってアタシも強くなったのさ。アンタと戦う前にその神のしもべの子オオカミから力をもらっておきたかったんだけどねえ。うまく逃げやがった」



 ぐるる!!



 子オオカミ、コイツに追いかけられてたのか!
 めちゃめちゃこの子、おこってる。
 
 でも。

 僕も腹がたっている。

「何でそんなひどいこと、するんですか!!」
「おやおや、小石なんて投げてあぶないねえ。何てことするんだい、この子は」

 よるっ?!

 ニヤニヤと笑っているミゼに、よるが泣きながら小石を投げている。ダメだよ! 危ないよ!

 ゴートといっしょに、子オオカミを抱っこしたよるを背中にかばう。
 
「よるさま! おさがりください!」
「よる、ダメだ! そんなことをして魔人を怒らせたら、よるもあぶないよ!」

 ふりかえって、よるの目を見た。

 ああ、ダメだ。
 この目は、カズキやファルルとそっくりだ。

 ホンキで言いたいことがあるときのよるは、止められないんだ。

「け、ケガしてる! 弱ってる! こんな……こんなちっちゃいわんちゃんを何でいじめるの?! 強くなくったって、子供だって、イヤなものはイヤ! 言いたい事だって、大切なモノだって、まもりたい大事なモノだっていっぱいある! ……させない! させない! この子はよるがゼッタイまもる!」
「あらあら、元気がいいね。なら、お前もその子オオカミも、ゴートも猫獣人も、み~んな力をもらっておこうかねえ。あははは! アタシが魔人のなかで最強になっちゃうかもねえ!」
「よる、足はやいもん! ランドセルしょっても、すっごいはやいんだから!」
「な~んか、めんどくさい子だねえ。ちゃ~んとまもりな? 行きな、【ほのおの矢】」

 ヤバい!
 ミゼが魔法をつかった!

「きゃああああ!」

 させるかよ!





 よる。

 僕の大好きな、よる。

 カズキとファルルが日本にいくときに、僕もなんとなくついていった。いろいろなことをしながらのんびりとしてたっけ。

 そして、キミが生まれた。幸せそうな顔で眠り、笑い、泣くキミを見て、とても幸せだった。

 でも、赤ちゃんのそばに猫の僕がいるといけないってパソコンでしらべたら出てきたから、僕はおひっこしをした。でも、カズキとファルルがいっしょうけんめい僕にブラッシングして、毛がぬけないようにして、しょっちゅうキミと会わせてくれたっけ。やっぱりうれしかったなあ。


 

” だあだー、うや! ”

” にゃーにゃ! ”

” ひぐえ! ”

” ひぐれ、かあいかあい♡ ”

” カツオブシ、持ってきたの! えへへ ”

” ひぐれ! テストで100点取ったのー! ”

” おともだちとけんかしちゃった。どうしようひぐれ……ぐすっ、うえええ ”

” ひぐれ、来てくれたんだね。ありがとう ”

” ひぐれ ”

” ひぐれ! ”



 
 すっごくすっごく大事にしてくれた。
 僕に幸せをいっぱいくれた。

 よるのそばにいれて、ほんとうに幸せだった。




 もしかしたら、僕はこのときのためにこの日本に来たのかもしれない。このときのために生きてきたのかもしれない。

 きっとそうだ。大好きなカズキとファルルの、そしてふたりの大切な、僕の大好きなよるをまもるために、僕はここにいるんだ。



 だから。

 だから。

 





 バシュッ!!


「あっ?! ひぐれ!」
「おや? ツメでアタシの炎の矢を消すなんて、いがいとやるねえ。アンタ、名前は?」
『もと月の女神、ファルルの『疾風しっぷうのしもべ』ヒース……ひぐれだ! そして僕はよるの騎士ナイト! よるには、ゆびいっぽんふれさせないぞ!』







 いのちをかけて、よるをまもりぬいてみせる!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

知ったかぶりのヤマネコと森の落としもの

あしたてレナ
児童書・童話
ある日、森で見つけた落としもの。 動物たちはそれがだれの落としものなのか話し合います。 さまざまな意見が出ましたが、きっとそれはお星さまの落としもの。 知ったかぶりのヤマネコとこわがりのネズミ、食いしんぼうのイノシシが、困難に立ち向かいながら星の元へと落としものをとどける旅に出ます。 全9話。 ※初めての児童文学となりますゆえ、温かく見守っていただけましたら幸いです。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...