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魔人(まじん)ミゼの登場

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 森を出て、ついていく私たちの前で首をかしげるゴートさん。

「おかしい。私が森に来たときより、魔人まじんのエリアがひろがっている……」
『なあ、ゴート。さっきも言ってたけど、魔人って何なんだ? 魔族とは違うのか?』
「……魔人は、もとは人間だ。魔族ではない。われら魔族を、海の向こうの西の大陸たいりくから追いだした国のことは、知っているな?」
『ああ、カズキから聞いた。魔族が大っキライな国、ファルガス王国だったっけ。で、魔力が強いけど数が少ない魔族は力で追いだされた』

 和樹?
 お父さんと名前がいっしょ!

 あ、夢のなかだからかあ。
 お父さん、お母さんといっしょに早く出てこないかなあ!

 でも、またむずかしいお話をしてる。
 わんちゃん、よるといっしょに今は、なるべくお口にチャックしてようね。


 わふ。


 あはは、ちいさな声でお返事してくれた!
 きみ、言葉わかるんだねきっと!

 いいこいいこ。

「そうだ。そして我らは人間が敵にしか見えなくなり、我らのあたらしい国を作るために戦いを始めた。すまないことをした」
『あー……頭なんかげないでいいよ。たしかにさ、何もわるくない人たちをいっぱいキズつけようとしたことはゆるされない。ゆるすつもりはない。ほかの人やいのち不幸ふしあわせにしないと手にいれられないしあわせなんて、僕らはゼッタイにみとめない』

 何かゴートさん、かなしそうな顔をしてる。でも、ひぐれはマジメな顔で、あったかい表情だからだいじょうぶな気がする。ひぐれ、やさしいもんね! よるがかなしいとき、ひぐれはいっつも近くに来てくれてたもんね。

 よるはむずかしいことわかんないけど、ひぐれがよるの肩に手を置いてるから大事なお話を聞いてもいいみたい。うれしい! ちゃんとマジメに聞かないと。

「……」
『でもさ、カズキもファルルも言ってただろ? ” おたがいが幸せになれる道があるなら、手を取りあってその幸せな未来をめざさないなんて、目をそらすなんて悲しい ” って』
「……ああ。勇者ゆうしゃとファルルさまはそうおっしゃられていた」
『カズキとファルルはこの国、ムーンディアとグランディアをまわって、魔族の国を作ることをみんなに認めてもらった。だからその話はもうオシマイでいいだろ?』 
「ありがとうヒース。いや、今はひぐれか。だが……今の我らの国ゼクセルと、このムーンディアについて、言っておかねばならないことがある」
「いいさ。ん、何だ?」

 またすこし、かなしそうな顔のゴートさんにひぐれは首をかしげてる。



 ぐるるるっ!!



『だれだっ!』
「きさまは、魔人!」



 え?
 わんちゃんがうなりはじめた!

 ひぐれとゴートさんも、おんなじところ見てる!
 赤いかみの毛の、ドレスの女のひとがいる。


「あーはっはあ! そこからはこの、” 炎の魔人ミゼ ” がおもしろい話を聞かせてやろうか!」

 うにゃー。
 何かこわそうな顔してる。

 わんちゃん、よしよし。こわいよね。
 でも、よるがついてるからね?
 よるが守ってあげる。

 
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