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【そのころ、ひぐれは……】月の女神のしもべと魔族

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 猫のまま、木の上に登ったり走ったり、鳴いたり。一生懸命探しても、よるが見つからない。

 ケガしてないよね?! よるはけっこうさびしん坊でこわがりだから、どこかで泣いてるかも。

 待ってて!
 すぐ行くから!

 そうだ。
 ラナに話を聞かないと!

「ラナ! ラナ! 何があったんだ!」

” キール! その森から早く逃げて! 黒い影がいっぱい近づいてる! ”

 キール?
 しもべ?

 ラナのしもべって、フォルカじゃなかったっけ。新しいしもべなのか?

「ラナ、答えて! キールって誰!」

” フォルカ、早く! 誰か! あの子を! ”

 ダメだ。
 ラナに僕の言葉が届いてない。

 月の女神なのに、あわてすぎだよ。

 ラナがこんなに叫んでるのに……フォルカのやつは一体、どこにいるんだ?

 ぎんのオオカミの姿はまわりに見えない。まったくもう、たよりにならないやつだ。

 フォルカに会えれば何かわかるのかもしれないけど、それどころじゃない!

 よる、よる!
 どこにいるの?!
 無事でいて!

 よるとはぐれてしまうなんて、マズすぎる。ここは僕らのいた世界の『エルフの庭』に間違いないと思うけど……よくない気配けはいがする。

 エルフたちがいないし、大地の空気がしょんぼりとしすぎてる。魔族まぞくが力を取り戻してるのか?

 でも、だ。

 ラナのお願いも聞いてあげたいけど、先によるを見つけないと!

 そもそも、あんなハプニングが起きるからいけないんだ!カツオブシの袋が飛んでいくから、体が反応してジャンプしちゃったじゃないか!

 いや、アレは魔族たちの作戦だったのかも。
 きっとそうだ。
 まちがいない、うん。

(日本ではずっと猫として生きてた僕なんだぞ! おいしいカツオブシがどっか行っちゃいそうになったら、ぴょーん、って飛んじゃうに決まってるじゃないか!)

 魔族め、なんてひきょうな手を使うんだ。
 許さん!

 見かけたら、ケチョンケチョンに泣かしてやる!

” 誰かあの子を助けてください! 『エルフの庭』の森にいる銀色のオオカミの子どもです! 魔人のエリアでは、私の力が届かないのです! ”

(庭の森……あれかな? うわ、黒い魔力まりょくが濃くてイヤな感じしかしない。のエリア……たぶんあの中に入ったら、戦いになる。キールって子を助けてあげたいけど……ん? 待てよ? 僕は、『あの子を助けて!』っていう声が聞こえて、ここにいる)

 ってことは……よるも森の近くか、森の中にいる可能性があるじゃないか!

 魔族のやつら!
 カツオブシの袋のワナは作戦のひとつだったのか!

 きっとそうだ!
 本当にひきょうな……!
 
 こうしちゃいられない、森に入ろう!

 もう、カツオブシの袋大作戦には引っかからないからな! 魔族め、覚悟しろ!

 たとえマタタビとかチュールが飛んで行っても、もうダマサれないぞ!

 ピクリって動いちゃうかもしれないけど!

 にゃあ! って鳴いちゃうかもだけど!

 月の女神だったファルルのしもべ、この『ヒース=グレイス』を甘く見るなよ!

 食べ物につられたりしないんだからな!

 

 
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