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開戦
52 『もっかい、ころんできてー』
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遠くに見えていた二つの点が、大きくなっていく。
ゆっくりと羽ばたいては、滑るように近づいてくる。
「さて、おいでなすった。俺が殿で済まねえが、ちぃと奴らに物云いがあるんでな。ま、姐さんの口上で気合い入ったぜ。流石、姐さんだ」
子狐姿のまま蓮次の膝でのんびりと寝そべる玉藻前はその言葉に、すっかり乾いた稲穂色の尻尾をふるりふるり!と揺らした。
奏やエルにフワフワのタオルで拭き拭きされ、同じく濡れねずみだった京に機嫌を直し、蓮次にご褒美の甘味を貰った結果である。
『れんじ。はやくはなびみたい。おいしーの、たべたい』
「んだな。ひと仕事終わったらみんなで腹いっぺえ食って飲んで、玉屋鍵屋と行こうじゃねえか」
『たまもやー。えへー』
「いいねえ、玉藻屋。ご機嫌だな姐さん」
おどけた玉藻前をひと撫でした蓮次が立ち上がった。
「京、姐さん頼めるけえ?」
「あ、はーい。玉藻前様、僕で大丈夫ですか?」
『わーい。きょー、もっかいころんできてー』
「僕、着替えたばっかりなのに?!」
京の腕の中で喜ぶ玉藻前を見て微笑んだ蓮次。
すると。
蓮次の傍の空間の揺らめきの中から、黒髪の竜眼の青年、燃えるような赤い髪の少年、白い顎髭を胸まで蓄えた翁の三人が降り立った。
竜眼の青年が、蓮次に微笑む。
『我等も手伝いましょう。玉藻前にばかり美味しい所を持っていかれるのは癪ですからね。白虎と麒麟は奏から貰った酒を八岐大蛇と痛飲して不参加ですが』
肩を竦めた青龍に、蓮次は破願した。
「うめえ酒はいいな。ま、馬鹿のおツムに血が昇りゃあ、何やらかすか知れねえ。こちとら、この町の人間には毛ほどの傷もつけたくねえ。頼まあ」
そう言って頭を下げた蓮次と、そして聴いている三人は知っている。人間は逆上すれば獣と何ら変わらない、という事をである。
蓮次は自分の過去から、また青龍、朱雀、玄武は永い時の中で生き物達を見続けてきたのだから。
と、その時。
陸へと近付いた二匹の竜が、大地を揺るがす程の咆哮を上げた。
ゆっくりと羽ばたいては、滑るように近づいてくる。
「さて、おいでなすった。俺が殿で済まねえが、ちぃと奴らに物云いがあるんでな。ま、姐さんの口上で気合い入ったぜ。流石、姐さんだ」
子狐姿のまま蓮次の膝でのんびりと寝そべる玉藻前はその言葉に、すっかり乾いた稲穂色の尻尾をふるりふるり!と揺らした。
奏やエルにフワフワのタオルで拭き拭きされ、同じく濡れねずみだった京に機嫌を直し、蓮次にご褒美の甘味を貰った結果である。
『れんじ。はやくはなびみたい。おいしーの、たべたい』
「んだな。ひと仕事終わったらみんなで腹いっぺえ食って飲んで、玉屋鍵屋と行こうじゃねえか」
『たまもやー。えへー』
「いいねえ、玉藻屋。ご機嫌だな姐さん」
おどけた玉藻前をひと撫でした蓮次が立ち上がった。
「京、姐さん頼めるけえ?」
「あ、はーい。玉藻前様、僕で大丈夫ですか?」
『わーい。きょー、もっかいころんできてー』
「僕、着替えたばっかりなのに?!」
京の腕の中で喜ぶ玉藻前を見て微笑んだ蓮次。
すると。
蓮次の傍の空間の揺らめきの中から、黒髪の竜眼の青年、燃えるような赤い髪の少年、白い顎髭を胸まで蓄えた翁の三人が降り立った。
竜眼の青年が、蓮次に微笑む。
『我等も手伝いましょう。玉藻前にばかり美味しい所を持っていかれるのは癪ですからね。白虎と麒麟は奏から貰った酒を八岐大蛇と痛飲して不参加ですが』
肩を竦めた青龍に、蓮次は破願した。
「うめえ酒はいいな。ま、馬鹿のおツムに血が昇りゃあ、何やらかすか知れねえ。こちとら、この町の人間には毛ほどの傷もつけたくねえ。頼まあ」
そう言って頭を下げた蓮次と、そして聴いている三人は知っている。人間は逆上すれば獣と何ら変わらない、という事をである。
蓮次は自分の過去から、また青龍、朱雀、玄武は永い時の中で生き物達を見続けてきたのだから。
と、その時。
陸へと近付いた二匹の竜が、大地を揺るがす程の咆哮を上げた。
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