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開戦
51 京も大人気。そして竜、動く。
しおりを挟む「京。姐さんが用があるってよ」
「へ?」
ぽひゅ!
ぽひゅ!ぽひゅ!
見ると、玉藻前が手をくい!くい!と差し出している。
「何なんですか?!……ああもう、ハイタッチですね!」
『京、仲間ー♪』
「ええー」
玉藻前の嬉しそうな念話が『祭囃子』の四人に届いたその時。
「お?来るぜ」
蓮次が声を発すると共に、海を見やった。
一斉に海を見た面々が、緊張感に顔を引き締めた。
黒い二つの点が、ゆっくりと大きくなっている。
「さて、すまねえが。また力を貸して貰えねえかい?この町の人間に手出しさせる訳にはいかねえからよ。兄さん、姐さん方頼んだぜ?そんかし締めは期待してくんな。さ、みなで派手に行こうぜ」
周りへはからりと微笑み、くっ、と空間の揺らめきに向かって頭を下げた蓮次に、蓮次と苦楽を共にした仲間と警備隊が呼応した。
「蓮さん!やりましょ「ギッタンギッタンにして、とっととお祭りの準備だからね!」ぎゃああ!奏ちゃん僕にも言わせてよ!」
「うふふ。いつもどおりね」
「「「「「マツリバヤシの皆様と共に!」」」」」
グ、オオオオオオオオオオッ!!!
蓮次の傍の揺らめきでも、様々な雄叫びが上がった。
『あと五年……すぴー』
だが。
玉藻前だけは京とのハイタッチ後、満足げに眠りについていた。
●
その頃、グレブの旗艦では。
「術師に逆らっていた竜二匹の制御、ようやく取れました!」
「くそっ!召喚してやったのに手間取らせやがって!竜の強さってのは只の伝説か?!い、行け!行け!俺様の為に働けや!ダノンに入ったらありったけの食糧と金と女積んで、王都シーレーンまで一気だ!」
皇帝ファルナスの怒りとも焦りとも区別できない怒号が絶え間なく続いていた。
召喚術師に歯向かっても目指すダノンに向かおうとしない竜二匹。
その意味を考える事無く。
グレブ帝国希代の軍師と呼ばれたマルイエの言にも耳を貸さず。
皇帝ファルナスは怒鳴り散らしていた。
「早く竜を向かわせろ!いう事を聞かねえ奴は竜だろうと誰だろうと俺様が容赦しねえぞ!……そうだ。術師に言え!言う事を聞かなきゃあ、てめえの片割れがどうなるか、ってなあ!」
これはいい手だな!とほくそ笑むファルナスに、マルイエは警戒した。
もはや、目の前のダノンやレンダ公国云々ではなく尋常な判断力を持ってはいないのか、と。
竜を押さえきれずに暴れ出したら、船団がどんな規模だろうと人間が何人いようと、為す術はない。
物理的な防御力。
魔法に対する防御力。
竜のブレスや羽ばたき、そして竜の呟き。
ファルナスの大言、魔王と並び立つ存在というのは別にしても、竜は古から恐るべき存在であるのだから。
だが。
マルイエの懸念を払しょくするかのように二匹の竜は暴れ出すことなく、お互いを背中に守るようにして、ふわり、と飛び立っていった。
「よっしゃあ!やっと言う事を聞きやがって!竜如きがあ、はーっはっはっはっは!行け!獲ってこい!」
マルイエは召喚術師達に、竜の動きに注意を促すように命じると同時に、もしもの時にファルナスの逃走経路を確保するように麾下に命じた。
相手は、竜が警戒する相手である。
どんな奴らが、あの海辺の町にいるのか。
そればかりが、マルイエの血を騒がせるのであった。
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