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開戦
49 雑魚が!ざこがざこが、ざこがざこがざこがざこがざこがざこが、ざこが、が、あああああああああ!!!!!!
しおりを挟む一方。
ダノンの町の海辺では、蓮次がのんびりと砂浜に胡坐をかいていた。
その膝の上を子狐姿の玉藻前が独占している。
のんびりと前方を見つめていた玉藻前の稲穂色の尻尾がふるり、ふるり、と揺れ始めた。
くぉん。
一声鳴き、黒々とした瞳で見上げてくるそのさまに、蓮次は頼もしい仲間を見るような顔つきでその頭を撫でる。
「お、敵さん動き出しそうかい。さすが姐さんだ」
その言葉と撫でられた頭に玉藻前は嬉しそうに目を細め、それとは逆に沖をずっと警戒していたダノン警備隊の部隊長達の顔に新たな緊張が走った。
「蓮次殿、この海辺以外にも均等に隊を割り振らなくてもよろしいのですか?いえ、『マツリバヤシ』のみなさまのお力は信じておりますが。それに先程の轟音は……?」
「心配しなくっとも、俺よりも強え奏、エル、京がいらあな。帝国とやら、おっ返してこっちに向かってんじゃねえのか?」
くぉん。
蓮次に反応するように、玉藻前が鳴いた。
「だ、そうだ」
「そ、そうですか。しかし僭越ながら、蓮次殿は『マツリバヤシ』の中で一番お強いとお三方からお伺いしましたが……」
「バカ言っちゃいけねえよ。神さんから貰った御力があっても、身につかなきゃどうしようもねえ。泣いて喚いて歯ぁ食いしばって必死に頑張ってきたあいつらと化身様がいなきゃあ何もねえ俺とじゃ、月とすっぽんさ。あいつらはすげえよ」
二の句が継げないガルディをよそに、嬉しそうに語る蓮次をじっと見上げていた玉藻前の耳が、ピクリと動いた。
ぽふんっ!
蓮次の膝で和服の少女姿になった玉藻前は、蓮次の胸板に嬉しそうに頬を擦りつけてから立ち上がり、海へと歩いていく。
「おっ、敵さんのお出ましけえ?」
蓮次の言葉に砂浜を歩く玉藻前は、こくり、と頷いたのみである。
そして、波打ち際に到達し、波の中をなおも進む。
すっ。
玉藻前の右手の人差し指が、目の前の海の斜め上を指し示した。
すすっ。
左手の指先は向かって左斜め前に。
そのままの姿勢で蓮次に振り向いた玉藻前は言葉を発した。
『れんじ、二匹。きょーがあれ、おいしーって言ってた。ちょーだい?たべたい。あそびたい。……れんじの敵。ゆるさない。かなで泣く。泣かせない。えるきずつく。やらせない。きょーあわてる。おもしろい、けどだめ。玉藻の好きにさわるな、ちかよるな、なかすな、きずつけるな、雑魚が、ざこがざこが、ざこがざこがざこがざこがざこがざこがざこがざこが、が、があああああああああっ!!!』
玉藻前が、絶叫した。
ギリギリ、と軋む大気。
引き波とは明らかに違う、玉藻前を中心に広がっていくさざなみ。
ふんわりとリラックスした顔で眺める蓮次をよそに、玉藻前の絶叫に震える警備隊の面々。ガルディが冷や汗をかきながら直立不動で辛うじて面目を保っている。
叫びと同時に顕現した稲穂色の九尾が意志を持つように揺らめく。
その瞳に渦巻き始めた、黒よりも深い闇の色。
叫びを止めた玉藻前が、口元を歪ませた。
『身のほどしらず……泣かしてやる』
●
と、そこで。
波がドヤ顔の玉藻前の足元を濡らし、引き波で砂をさらっていく。
『あ、きもちー。さらさら、さらさら☆あっ、ぎゃー』
ばっしゃあん!
玉藻前は見事、水の中へとダイブしたのであった。
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