上 下
49 / 61
開戦

49 雑魚が!ざこがざこが、ざこがざこがざこがざこがざこがざこが、ざこが、が、あああああああああ!!!!!!

しおりを挟む


 一方。

 ダノンの町の海辺では、蓮次がのんびりと砂浜に胡坐をかいていた。
 その膝の上を子狐姿の玉藻前が独占している。

 のんびりと前方を見つめていた玉藻前の稲穂色の尻尾がふるり、ふるり、と揺れ始めた。

 くぉん。

 一声鳴き、黒々とした瞳で見上げてくるそのさまに、蓮次は頼もしい仲間を見るような顔つきでその頭を撫でる。

「お、敵さん動き出しそうかい。さすが姐さんだ」

 その言葉と撫でられた頭に玉藻前は嬉しそうに目を細め、それとは逆に沖をずっと警戒していたダノン警備隊の部隊長達の顔に新たな緊張が走った。

「蓮次殿、この海辺以外にも均等に隊を割り振らなくてもよろしいのですか?いえ、『マツリバヤシ』のみなさまのお力は信じておりますが。それに先程の轟音は……?」
「心配しなくっとも、俺よりも強え奏、エル、京がいらあな。帝国とやら、おっ返してこっちに向かってんじゃねえのか?」

 くぉん。

 蓮次に反応するように、玉藻前が鳴いた。

「だ、そうだ」
「そ、そうですか。しかし僭越ながら、蓮次殿は『マツリバヤシ』の中で一番お強いとお三方からお伺いしましたが……」
「バカ言っちゃいけねえよ。神さんから貰った御力があっても、身につかなきゃどうしようもねえ。泣いて喚いて歯ぁ食いしばって必死に頑張ってきたあいつらと化身様がいなきゃあ何もねえ俺とじゃ、月とすっぽんさ。あいつらはすげえよ」

 二の句が継げないガルディをよそに、嬉しそうに語る蓮次をじっと見上げていた玉藻前の耳が、ピクリと動いた。

 ぽふんっ!

 蓮次の膝で和服の少女姿になった玉藻前は、蓮次の胸板に嬉しそうに頬を擦りつけてから立ち上がり、海へと歩いていく。

「おっ、敵さんのお出ましけえ?」

 蓮次の言葉に砂浜を歩く玉藻前は、こくり、と頷いたのみである。
 そして、波打ち際に到達し、波の中をなおも進む。

 すっ。
 
 玉藻前の右手の人差し指が、目の前の海の斜め上を指し示した。

 すすっ。

 左手の指先は向かって左斜め前に。
 そのままの姿勢で蓮次に振り向いた玉藻前は言葉を発した。 

『れんじ、二匹。きょーがあれ、おいしーって言ってた。ちょーだい?たべたい。あそびたい。……れんじの敵。ゆるさない。かなで泣く。泣かせない。えるきずつく。やらせない。きょーあわてる。おもしろい、けどだめ。玉藻の好きにさわるな、ちかよるな、なかすな、きずつけるな、雑魚が、ざこがざこが、ざこがざこがざこがざこがざこがざこがざこがざこが、が、があああああああああっ!!!』

 玉藻前が、絶叫した。

 ギリギリ、と軋む大気。
 引き波とは明らかに違う、玉藻前を中心に広がっていくさざなみ。

 ふんわりとリラックスした顔で眺める蓮次をよそに、玉藻前の絶叫に震える警備隊の面々。ガルディが冷や汗をかきながら直立不動で辛うじて面目を保っている。

 叫びと同時に顕現した稲穂色の九尾が意志を持つように揺らめく。
 その瞳に渦巻き始めた、黒よりも深い闇の色。

 叫びを止めた玉藻前が、口元を歪ませた。

『身のほどしらず……泣かしてやる』
 


 と、そこで。

 波がドヤ顔の玉藻前の足元を濡らし、引き波で砂をさらっていく。

『あ、きもちー。さらさら、さらさら☆あっ、ぎゃー』

 ばっしゃあん!

 玉藻前は見事、水の中へとダイブしたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幻獣士の王と呼ばれた男

瑠璃垣玲緒
ファンタジー
これは遥か昔、のちの世に『幻獣士の王』と呼ばれる青年と従魔である幻獣が、新たな幻獣士のシステムを作った物語である。 傷付いた幻獣と出会い、悪意ある同族から守り友好の絆を結んだ男と、 助けてもらい主人を得た幻獣が、その後紆余曲折の末、幻獣達に人族を信じてもらえるよう説得して大きく世界を変え、のちに主人が幻獣士の王と呼ばれるまでの物語 謙虚で心優しい青年が本人の意思とは関係なく幻獣でチートしていく感じの予定です。 1章は説明っぽい感じになってしまいました。 後半から主人公の幻獣が増えていきます。 とりあえず一旦書けるところまで書いてから、書き直すか決めます。 ざまあ要素を3章と4章で少し出しますが、R指定の内容はない予定。 もふもふは3章後半以降で、これからもっと出せるよう頑張ります。 7章が完結、8章を執筆中。 注) 突然頭に浮かんだお話しなので、書いている途中で大幅に修正する可能性がありますが、とりあえず一旦完結するまではこのままで行きます。 ご承知の上でお楽しみ下さい。 エンディングはまだ決まっていません。 方向性のみ浮かんでいる感じのため、更新頻度は決まっていません。 オリジナル設定の予定ですが、万が一ほとんど同じ設定があったとしても偶然の一致であることをご理解下さい。 色々皆様のイメージと違ったりする部分があるかもしれませんが、この世界独自の世界観や考え方などなので、 そのことに関する誹謗中傷はご遠慮いただきたく思います。 誤字脱字は3回以上読み直して減らしているつもりではありますが、誤表現や分かりにくい部分などあるかもしれないので、コメントにてお知らせ下さい。 現在カクヨムでも公開予定

魔がさした? 私も魔をさしますのでよろしく。

ユユ
恋愛
幼い頃から築いてきた彼との関係は 愛だと思っていた。 何度も“好き”と言われ 次第に心を寄せるようになった。 だけど 彼の浮気を知ってしまった。 私の頭の中にあった愛の城は 完全に崩壊した。 彼の口にする“愛”は偽物だった。 * 作り話です * 短編で終わらせたいです * 暇つぶしにどうぞ

『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ
ファンタジー
主人公ゴウキは幼馴染である女勇者クレアのパーティーに属する前衛の拳闘士である。 スラムで育ち喧嘩に明け暮れていたゴウキに声をかけ、特待生として学校に通わせてくれたクレアに恩を感じ、ゴウキは苛烈な戦闘塗れの勇者パーティーに加入して日々活躍していた。 だがクレアは人の良い両親に育てられた人間を疑うことを知らずに育った脳内お花畑の女の子。 そんな彼女のパーティーにはエリート神官で腹黒のリフト、クレアと同じくゴウキと幼馴染の聖女ミリアと、剣聖マリスというリーダーと気持ちを同じくするお人よしの聖人ばかりが揃う。 勇者パーティーの聖人達は普段の立ち振る舞いもさることながら、戦いにおいても「美しい」と言わしめるスマートな戦いぶりに周囲は彼らを国の誇りだと称える。 そんなパーティーでゴウキ一人だけ・・・人を疑い、荒っぽい言動、額にある大きな古傷、『拳鬼』と呼ばれるほどの荒々しく泥臭い戦闘スタイル・・・そんな異色な彼が浮いていた。 周囲からも『清』の中の『濁』だと彼のパーティー在籍を疑問視する声も多い。 素直過ぎる勇者パーティーの面々にゴウキは捻くれ者とカテゴライズされ、パーティーと意見を違えることが多く、衝突を繰り返すが常となっていた。 しかしゴウキはゴウキなりに救世の道を歩めることに誇りを持っており、パーティーを離れようとは思っていなかった。 そんなある日、ゴウキは勇者パーティーをいつの間にか追放処分とされていた。失意の底に沈むゴウキだったが、『濁』なる存在と認知されていると思っていたはずの彼には思いの外人望があることに気付く。 『濁』の存在である自分にも『濁』なりの救世の道があることに気付き、ゴウキは勇者パーティーと決別して己の道を歩み始めるが、流れに流れいつの間にか『マフィア』を率いるようになってしまい、立場の違いから勇者と争うように・・・ 一方、人を疑うことのないクレア達は防波堤となっていたゴウキがいなくなったことで、悪意ある者達の食い物にされ弱体化しつつあった。

スキル【海】ってなんですか?

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
スキル【海】ってなんですか?〜使えないユニークスキルを貰った筈が、海どころか他人のアイテムボックスにまでつながってたので、商人として成り上がるつもりが、勇者と聖女の鍵を握るスキルとして追われています〜 ※書籍化準備中。 ※情報の海が解禁してからがある意味本番です。  我が家は代々優秀な魔法使いを排出していた侯爵家。僕はそこの長男で、期待されて挑んだ鑑定。  だけど僕が貰ったスキルは、謎のユニークスキル──〈海〉だった。  期待ハズレとして、婚約も破棄され、弟が家を継ぐことになった。  家を継げる子ども以外は平民として放逐という、貴族の取り決めにより、僕は父さまの弟である、元冒険者の叔父さんの家で、平民として暮らすことになった。  ……まあ、そもそも貴族なんて向いてないと思っていたし、僕が好きだったのは、幼なじみで我が家のメイドの娘のミーニャだったから、むしろ有り難いかも。  それに〈海〉があれば、食べるのには困らないよね!僕のところは近くに海がない国だから、魚を売って暮らすのもいいな。  スキルで手に入れたものは、ちゃんと説明もしてくれるから、なんの魚だとか毒があるとか、そういうことも分かるしね!  だけどこのスキル、単純に海につながってたわけじゃなかった。  生命の海は思った通りの効果だったけど。  ──時空の海、って、なんだろう?  階段を降りると、光る扉と灰色の扉。  灰色の扉を開いたら、そこは最近亡くなったばかりの、僕のお祖父さまのアイテムボックスの中だった。  アイテムボックスは持ち主が死ぬと、中に入れたものが取り出せなくなると聞いていたけれど……。ここにつながってたなんて!?  灰色の扉はすべて死んだ人のアイテムボックスにつながっている。階段を降りれば降りるほど、大昔に死んだ人のアイテムボックスにつながる扉に通じる。  そうだ!この力を使って、僕は古物商を始めよう!だけど、えっと……、伝説の武器だとか、ドラゴンの素材って……。  おまけに精霊の宿るアイテムって……。  なんでこんなものまで入ってるの!?  失われし伝説の武器を手にした者が次世代の勇者って……。ムリムリムリ!  そっとしておこう……。  仲間と協力しながら、商人として成り上がってみせる!  そう思っていたんだけど……。  どうやら僕のスキルが、勇者と聖女が現れる鍵を握っているらしくて?  そんな時、スキルが新たに進化する。  ──情報の海って、なんなの!?  元婚約者も追いかけてきて、いったい僕、どうなっちゃうの?

【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?! 「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」 お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。 婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。  転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!  ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/19……完結 2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位 2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位 2024/08/12……連載開始

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...