異世界花火 ~よう、楽しんでるかい~

マクスウェルの仔猫

文字の大きさ
上 下
48 / 61
開戦

48 おい!どうなってやがるんだ!

しおりを挟む
 ダノンの町西方、カルド海域。

 海原を進み、ダノンの町の海岸線に上陸しようと目論んでいたグレブ帝国の十隻の帆船の姿があった。

 船団の後方上では竜が滑空し、または翼をはためかせ滞空する、という動きを繰り返していた。

 前方を見る際の竜の視線は、とある一点に集中している。
 そしてダノンの町を見る度に、くぐもった唸り声を上げていた。
 まるで、これから起こるであろう闘いに戸惑うように。

 船団がダノンの町に到着する迄、あと二時間。
 その中の、ひと際大きい旗艦内は怒号と混乱で満ち溢れていた。



 艦長席よりさらに高い位置にある椅子に座り、腹立たしげに体を揺すっていたグレブ帝国皇帝ファルナスは怒鳴り声をあげた。

「おい!どうなってやがるんだ!何で攻撃が始まんねえんだよ!先に攻撃する筈だった奴らはどこにいんだ!竜は!マルイエ!」
「別艦の召喚術師と各隊に確認を取っておりますゆえ、お待ちを」
「ちんたらしてんじゃねえよ!早くしろ!」
「はっ」

 恭しく頭を下げたマルイエは、既に部下に指示を出しメッセージバード通信魔法を飛ばさせている。

 ダァン!!

 椅子のひじ掛けに握りしめた手を叩きつけるファルナス。

(どうなってやがる!何が起きてる!ぼやぼやしてんじゃねえよ、この役立たず共が!俺の国が目の前にあるってのによ!……もうグズグズしちゃいらんねえ!)

「マルイエ!竜を先に行かせろ!ブレスでも吐かせて、ビビッて白旗でも上げてくりゃあ上等だ!」
「仰せのままに。おい!十番艦にメッセージバードを飛ばして、召喚術師達に竜を先行させろ!」
「はっ!」

 情報将校の術師が新たなメッセージバードを次々と飛ばしていく。
 その光景を横目で追いつつ、宰相マルイエはそっと息を吐いた。

(まさかに、竜を含め三方に放たれた我が軍をダノンに到達させぬほどの力量とは……。とはいえ、今までのいくさから竜さえいれば何とかなるとでもファルナス様は思ったのだろうが、焦りすぎだの)

 辱めを受けそうになったザンザムールの王女をファルナスの手から離れさせたマルイエは、その後宰相としての権限を行使する事に専念をさせられ、軍議には参加できずに出航を迎えていた。

(そして、三方に全戦力を配置してはいないだろう。拠点としてダノンに固執するファルナス様があの町に攻め入らなかった事がない。待ち構えていよう。本陣が、竜をも抑え込んだ戦力が。だが、行くしかあるまい。人を介して何度も策を進言したが及ばなんだ、無念)

 マルイエは自分の力量不足に、拳を握りしめた。
 だが、すぐに思考を切り替える。
 闘いはすぐそこまで来ているのだ、と。
 
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

禁忌地(アビス)に追放された僕はスキル【ビルダー】を使って荒野から建国するまでの物語。

黒猫
ファンタジー
青年マギルは18才になり、国王の前に立っていた。 「成人の儀」が執り行われようとしていた。 この国の王家に属する者は必ずこの儀式を受けないといけない… そう……特別なスキルを覚醒させるために祭壇に登るマギルは女神と出会う。 そして、スキル【ビルダー】を女神から授かると膨大な情報を取り込んだことで気絶してしまった。 王はマギルのスキルが使えないと判断し、処分を下す。 気を失っている間に僕は地位も名誉もそして…家族も失っていた。 追放先は魔性が満ちた【禁忌地】だった。 マギルは世界を巻き込んだ大改革をやり遂げて最高の国を建国するまでの物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

凶幻獣戦域ラージャーラ

幾橋テツミ
ファンタジー
ラージャーラ…それは天響神エグメドなる絶対者が支配する異空間であり、現在は諸勢力が入り乱れる戦乱状態にあった。目下の最強陣営は「天響神の意思の執行者」を自認する『鏡の教聖』を名乗る仮面の魔人が率いる【神牙教軍】なる武装教団であるが、その覇権を覆すかのように、当のエグメドによって【絆獣聖団】なる反対勢力が準備された──しかもその主体となったのは啓示を受けた三次元人たちであったのだ!彼らのために用意された「武器」は、ラージャーラに生息する魔獣たちがより戦闘力を増強され、特殊な訓練を施された<操獣師>なる地上人と意志を通わせる能力を得た『絆獣』というモンスターの群れと、『錬装磁甲』という恐るべき破壊力を秘めた鎧を自在に装着できる超戦士<錬装者>たちである。彼らは<絆獣聖団>と名乗り、全世界に散在する約ニ百名の人々は居住するエリアによって支部を形成していた。    かくてラージャーラにおける神牙教軍と絆獣聖団の戦いは日々熾烈を極め、遂にある臨界点に到達しつつあったのである!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...