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開戦
47 回れー、右っ!!
しおりを挟む首を右に左に傾けながら、リラックスしているエル。
だが。
その身体からはエルデが立ちすくむような、紅く膨大な魔力が天へと噴き上がっていく。
「エルデさん、お仲間に合図を!逃げ遅れたら帰る保証はできませんから」
『……!!皆ぁ!全力で逃げてください!』
その声に、魔獣達が全速力で退避を始めた。逃げ去る獣達に一瞬の戸惑いを見せた後に、グレブ軍が陣形を立て直していく。
『エル!』
「わかってる。逃さない。命を弄び、軽んじるなんて絶対に許さない。思い知りなさい!」
エルが体の前に杖を突き出し、囁いた。
" 爆ぜる! "
轟音と共に、大地が大きく跳ね上がり、グレブ軍の兵士が空に投げ出される。
『なっ?!』
数千の兵士達が絶叫をしながら手足をバタつかせる様に、エルデは驚く事しかできない。
" 捕まえる! "
続くエルの気合と共に、一人一つの紅色の球体魔法陣に包まれるグレブ軍の兵士達。
大地で怯え戸惑っているのは、ザンザムールの兵士達のみである。
そして。
今日一番の、エルの元気が迸った。
" ほら!回れー、右っ!! "
急速に収縮した無数の魔法陣が、跡形もなく消え去った。当然、グレブ軍の兵士は誰もいない。
一瞬にして目の前から消え去ったグレブ帝国の大軍。エルデは予想もしなかった出来事に大混乱をした。
(今のは?!今のは何なんですか?!魔力が膨れ上がったと思ったら、人間の群れが消え去りました!まさか今ので、人間達は全て、死……?!)
堪え切れない恐怖に身を震わせたエルデが、銀色の尻尾を挟み込んだまま地面に座り込んだ。
その配下の魔獣や獣達も蹲ってしまっている。
『え、エル!今のは魔法ですか?!あの人間達は……!』
杖を片手に微笑んだエルは体を震わすエルデに言った。
「ふう。これくらいなら全然楽ねー。ん?うーん、グレブ帝国近辺に帰ったと思うけどー」
『……へっ?』
「とっととお家に帰りなさい!って念じただけだから。大丈夫、殺すつもりは無いし。ちょっとトラウマになるかもしれないけど……うーん、地面でコレやると大地ごと根こそぎ行っちゃうから考えないとねぇ」
『……』
何でもない事のように語るエルに、体の震えが止まらないエルデ。
●
その頃、グレブ帝国の居住区では。
戦争に行ったはずの大黒柱や男手が突如出現した事に、それぞれの街で大混乱が起きていたのだった。
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