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開戦
45 エルエルコンビ、出動中。
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ダノンの東、内陸部。
隣国への国境を跨ぐ山岳地帯の麓で、エルと銀色の子狐、『ルアージュの森』の主のエルデとその配下達が、山に沿った森を眺めている。
エルは自分を乗せる大型の黒い狼を撫でた。
「うふふ、ありがとう狼さん」
狼は気持ち良さげにエルの手にすり寄る。
と、その時。
南の方角から、万雷の轟音と大型の獣が放つ野太い絶叫がエルの耳に聞こえてきた。
『巨獣の咆哮……とても、嫌がっています』
「あら、竜の叫びかしら。南は京ね、さすが」
ほほ笑んだエルの隣でエルデが、こてり、と小首を傾げた。
『京……は強いのですか?』
蓮次達と交流をするようになって、念話が滑らかになったエルデ。
「強いですよ。特に、何かを守ろうとする京は。蓮さんが来るまでの何週間か、女神様から貰った能力を全く生かせずに私達は何回も死にかけましたが、京は私達を守り抜いてくれました」
『……!』
エルデの目が大きく見開かれた。
『そう、だったんですね』
「あの頃は本当に怖かった、恐ろしかった……。私や奏ちゃんが回復魔法を覚えられなくて、ボロボロでした。泣いては、京に辛くあたってしまったりして」
「……」
「京がゲームやファンタジー系の小説が好きで、この世界の女神様から回復アイテム山ほど得ていなかったら……」
銀色の尻尾をゆるゆると振りながら、エルデはエルの説明に首を傾げた。
『げ、えむ?ふぁんたじ?貴女方が持つ魔法や能力の事ですか?』
「あー……ごめんなさい。私達がいた世界では、んー……私達はこの世界にいきなり呼び出されたんですね。現実では見た事も聞いた事もない出来事だったんですが、それでも『もしも、違う世界に行ったら!』ってイメージできる本や遊びがあったんです」
『……?』
「ごめんなさい。うまく説明できなくて」
やはり首を傾げているエルデに苦笑いをするエル。
と、そこに。
騎馬を先頭に、砂埃を上げながら駈ける集団があった。
「あら来ましたね。予想より遅いから何やってたんだか」
エルデ配下の大小の魔獣達に警戒したのか、距離を開けて止まる。
だが、エル達の手勢の数からか、慌てる様子もない。
テイマーもいるようで、獣を引き連れている。
エルが自分のメニュー画面を見ながら人差し指を顎に当てた。
「3000……全部グレブ帝国の人達ね。時間かけたくないな……エルデさん、あの獣達を押さえて、それと同時にあの人達が広がらないように牽制できますか?」
『私が、獣に威嚇をした後に取り囲む、でどうでしょう』
「はい。むしろあの人達には近寄らせないで下さいね」
『わかりました。……あの、魔法を打ち出す道具は、あんなに数が多くても、大丈夫なんですか?』
エルデが心配そうに見上げた。
「あれでも闘えますけど、今回は使いません!前回のダメージが……!あ、恥ずかしい……!」
両頬を押さえていやんいやん!と首を振るエルを不思議そうに見ながら、エルデは頷いた。
『……?そうなんですか?私はとりあえず、皆に伝達、獣達の威嚇をしますね。……あ~』
くあ~。
『ん、んん!』
くふ、くふう!
『行きま、ふぁ?!何で、撫でるんですか?!お腹、触っちゃダメです、ひゃ!』
「何なんですかっ!エルデさん、可愛いが過ぎますよ!か・わ・い・い!」
『きゃあ!きゃあ!』
●
エルとエルデのほのぼのコンビを呆然と見つめる、エルデ配下達は。
ウ、オオオオオオン!!
狼の吠え声のもと、敵を囲むべく走り出した。
『いい加減に、してくださいっ!私だって、噛みますよ?!噛むんです!はむぅ!』
「やーん!甘嚙み!この毛のフワフワ感、やめられないの!ごめんなさい!」
『きゃあああ!』
まるで緊張感のない二人を、残して。
隣国への国境を跨ぐ山岳地帯の麓で、エルと銀色の子狐、『ルアージュの森』の主のエルデとその配下達が、山に沿った森を眺めている。
エルは自分を乗せる大型の黒い狼を撫でた。
「うふふ、ありがとう狼さん」
狼は気持ち良さげにエルの手にすり寄る。
と、その時。
南の方角から、万雷の轟音と大型の獣が放つ野太い絶叫がエルの耳に聞こえてきた。
『巨獣の咆哮……とても、嫌がっています』
「あら、竜の叫びかしら。南は京ね、さすが」
ほほ笑んだエルの隣でエルデが、こてり、と小首を傾げた。
『京……は強いのですか?』
蓮次達と交流をするようになって、念話が滑らかになったエルデ。
「強いですよ。特に、何かを守ろうとする京は。蓮さんが来るまでの何週間か、女神様から貰った能力を全く生かせずに私達は何回も死にかけましたが、京は私達を守り抜いてくれました」
『……!』
エルデの目が大きく見開かれた。
『そう、だったんですね』
「あの頃は本当に怖かった、恐ろしかった……。私や奏ちゃんが回復魔法を覚えられなくて、ボロボロでした。泣いては、京に辛くあたってしまったりして」
「……」
「京がゲームやファンタジー系の小説が好きで、この世界の女神様から回復アイテム山ほど得ていなかったら……」
銀色の尻尾をゆるゆると振りながら、エルデはエルの説明に首を傾げた。
『げ、えむ?ふぁんたじ?貴女方が持つ魔法や能力の事ですか?』
「あー……ごめんなさい。私達がいた世界では、んー……私達はこの世界にいきなり呼び出されたんですね。現実では見た事も聞いた事もない出来事だったんですが、それでも『もしも、違う世界に行ったら!』ってイメージできる本や遊びがあったんです」
『……?』
「ごめんなさい。うまく説明できなくて」
やはり首を傾げているエルデに苦笑いをするエル。
と、そこに。
騎馬を先頭に、砂埃を上げながら駈ける集団があった。
「あら来ましたね。予想より遅いから何やってたんだか」
エルデ配下の大小の魔獣達に警戒したのか、距離を開けて止まる。
だが、エル達の手勢の数からか、慌てる様子もない。
テイマーもいるようで、獣を引き連れている。
エルが自分のメニュー画面を見ながら人差し指を顎に当てた。
「3000……全部グレブ帝国の人達ね。時間かけたくないな……エルデさん、あの獣達を押さえて、それと同時にあの人達が広がらないように牽制できますか?」
『私が、獣に威嚇をした後に取り囲む、でどうでしょう』
「はい。むしろあの人達には近寄らせないで下さいね」
『わかりました。……あの、魔法を打ち出す道具は、あんなに数が多くても、大丈夫なんですか?』
エルデが心配そうに見上げた。
「あれでも闘えますけど、今回は使いません!前回のダメージが……!あ、恥ずかしい……!」
両頬を押さえていやんいやん!と首を振るエルを不思議そうに見ながら、エルデは頷いた。
『……?そうなんですか?私はとりあえず、皆に伝達、獣達の威嚇をしますね。……あ~』
くあ~。
『ん、んん!』
くふ、くふう!
『行きま、ふぁ?!何で、撫でるんですか?!お腹、触っちゃダメです、ひゃ!』
「何なんですかっ!エルデさん、可愛いが過ぎますよ!か・わ・い・い!」
『きゃあ!きゃあ!』
●
エルとエルデのほのぼのコンビを呆然と見つめる、エルデ配下達は。
ウ、オオオオオオン!!
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『いい加減に、してくださいっ!私だって、噛みますよ?!噛むんです!はむぅ!』
「やーん!甘嚙み!この毛のフワフワ感、やめられないの!ごめんなさい!」
『きゃあああ!』
まるで緊張感のない二人を、残して。
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