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開戦
43 『彼は誰れ刻(かはたれどき)』
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グレブ帝国の第四大隊長エジスは、憤懣やる方ない!という表情で軍を進めていた。
この大隊はザンザムールを攻めた主力とは違い、ダノンの町に船を寄せずに大きく迂回をし、北上してから、海から上陸している。
レンダ公国の海岸線で防備が比較的薄い断崖絶壁を、多大の犠牲を払って上陸をした上で行軍を開始したのだ。
あくまでも本軍は南のザンザムールから攻め入る側とダノンの町の西に接している海側。竜を伴って行軍する二方面である。
(竜が通り過ぎれば、作戦も何もかも必要ないだろう!おこぼれに与るだけでいいとは呆れたものだ)
これは美味しい思いができない立場に立っているからであり、前回の戦と今回のザンザムール初戦では十分に利を得ている。独断専行し、それなりの成果を上げていたのだ。
またそういう性格であるからこそ、今回の最重要から外されたという事が分かっていない。部下も、他の部隊で問題を起こした者達ばかりである。
そう。
敗戦続きのグレブではあったが、過去レンダ公国やザンザムールに攻め入った際、全くの手ぶらではなかった。
局地戦で勝利し美味しい思いをする部隊があったのだ。
そして。
一度境界線を越えてしまい、味を占めた者はまた、同じ様に繰り返す事を厭わない。
敗戦によって疲弊していくグレブ帝国の中で、自分達可愛さに人を出し抜く事など、当たり前の事であった。
だが。
この不利な方面に駆り出された人間達は、自分達の今までの行いと、自分達が当たり前のようにこれから行おうと思い描く欲によって、壊滅的な打撃を受ける事になる。
●
一番最初に「その現象」に気づいたのは、斥候の兵達であった。
険しい山道を超えてきた為に、騎馬ではなく疾駆での威力偵察部隊である。
天から降ってくる無数の光の粒が、辺り一面を白く染め上げている。
「いったん止まるぞ!」
腰に剣を佩いた将校が、杖を持っている魔法兵に問う。
「おい!何だこの光の粒は!魔法なのか?!」
「|あの町の敵の魔法攻撃かもしれません。『障壁』!」
将校と部下二人、魔法兵の周りに青白く輝く球体の魔法障壁が展開された。
だが。
光の粒は青白い障壁の中にゆらゆらと降りてきている。
「お。おい!中に入ってきてるぞ!しっかりと障壁を張れ!……何だ?」
「張っています!これは魔法ではなく別の……うわ?!」
「敵襲?!敵ですか?!」
「真っ白で……ここはどこなんですか!」
四人は、そしてペールの町の外にいるグレブ帝国の兵員が、全て。
白い粒に包み込まれていった。
この大隊はザンザムールを攻めた主力とは違い、ダノンの町に船を寄せずに大きく迂回をし、北上してから、海から上陸している。
レンダ公国の海岸線で防備が比較的薄い断崖絶壁を、多大の犠牲を払って上陸をした上で行軍を開始したのだ。
あくまでも本軍は南のザンザムールから攻め入る側とダノンの町の西に接している海側。竜を伴って行軍する二方面である。
(竜が通り過ぎれば、作戦も何もかも必要ないだろう!おこぼれに与るだけでいいとは呆れたものだ)
これは美味しい思いができない立場に立っているからであり、前回の戦と今回のザンザムール初戦では十分に利を得ている。独断専行し、それなりの成果を上げていたのだ。
またそういう性格であるからこそ、今回の最重要から外されたという事が分かっていない。部下も、他の部隊で問題を起こした者達ばかりである。
そう。
敗戦続きのグレブではあったが、過去レンダ公国やザンザムールに攻め入った際、全くの手ぶらではなかった。
局地戦で勝利し美味しい思いをする部隊があったのだ。
そして。
一度境界線を越えてしまい、味を占めた者はまた、同じ様に繰り返す事を厭わない。
敗戦によって疲弊していくグレブ帝国の中で、自分達可愛さに人を出し抜く事など、当たり前の事であった。
だが。
この不利な方面に駆り出された人間達は、自分達の今までの行いと、自分達が当たり前のようにこれから行おうと思い描く欲によって、壊滅的な打撃を受ける事になる。
●
一番最初に「その現象」に気づいたのは、斥候の兵達であった。
険しい山道を超えてきた為に、騎馬ではなく疾駆での威力偵察部隊である。
天から降ってくる無数の光の粒が、辺り一面を白く染め上げている。
「いったん止まるぞ!」
腰に剣を佩いた将校が、杖を持っている魔法兵に問う。
「おい!何だこの光の粒は!魔法なのか?!」
「|あの町の敵の魔法攻撃かもしれません。『障壁』!」
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だが。
光の粒は青白い障壁の中にゆらゆらと降りてきている。
「お。おい!中に入ってきてるぞ!しっかりと障壁を張れ!……何だ?」
「張っています!これは魔法ではなく別の……うわ?!」
「敵襲?!敵ですか?!」
「真っ白で……ここはどこなんですか!」
四人は、そしてペールの町の外にいるグレブ帝国の兵員が、全て。
白い粒に包み込まれていった。
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