異世界花火 ~よう、楽しんでるかい~

マクスウェルの仔猫

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開戦

39 狛犬『阿』参戦と魔王戦の真実

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 蓮次の頼みによって京を乗せる狛犬、阿吽の『阿』が平野を駈けている。

 目指すはダナンの町南方域、ザンザムール王国への境界線である。



 

「南は竜が来るんだっけ。異世界ファンタジーだと定番でワクワクものだけど、闘うのはどんな感じなんだろ。ウロコ固いのかな?……うわ!お、落ちる!」

 速度を増した『阿』の背中に乗っている京が、必死で鬣《たてがみ》を掴んだ。


 がう?


 走りながら振り向き、怪訝な目つきで見上げる『阿』。

「あ、あの!転げ落ちるかもしれないのでもう少しお手柔らかにお願いします!」


 ぐ、るー。


 しょうがねえなぁ。
 呆れが丸分かり、な唸りである。

「うう、ご機嫌麗しゅう!ご機嫌麗しゅう!『阿』さんに呆れられましたよ……」

 『阿』は緩んだ表情で振り向いたり欠伸をしたりと余裕だが、京からすればあっという間に後方に流れていく景色に冷や汗を掻き通しであった。

「蓮さんの頼みで乗せて貰えたけど、バイクで高速をノーヘルで走ったらこんな感じなのかも!怖すぎる!……あ、あれかな」

 遠い前方の空を黒々とした大きなモノが、羽ばたきながら滞空している。
 黒い竜。

「うわーでっかい!三階建ての一軒家くらいある!それに、圧がすっごいね」

 京からすれば小説やマンガ、ゲーム等でお馴染みの竜だが、実際に目にすると威圧感、存在感が常軌を逸脱するレベルである事を感じさせるその姿に驚く。

 だが、普段から蓮次の傍にいて神格の化身に馴染み深い京だからこそ、お道化ながらも観察は怠らない。

「青龍さんみたいに超高高度から雷撃されたら『阿』さんに祈りを捧げて逃げ惑いましょうかね」


 メニューの情報。
 過去の魔物との闘い。
 分析。
 自分にできる事。
 できない事。


 そして。
 譲れない事。

「人間と魔物側はいきなり戦闘になるか、一旦は様子見に来るか。普通は後者でしょうけど……ま、こちらは誰がどれだけ出てこようと通しませんよ?」

 とぉん。

 自らが一瞬だけ垣間見せた気合いに反応し、『阿』の進む勢いが増した事に京は気付かない。
 




『祭囃子』は蓮次合流後、神格や化生のモノの戯れに付き合わされ、模擬戦をする事が多かった。

 当然、その破格ともいえる相手との戦闘は、闘う度に京、奏、エルを昇華させ、魔王との闘いにこの経験は十分に活きる事となった。

 その結果エルは魔王とタイマンを演じたが、魔王戦に気乗りがしなかった蓮次と京と奏の三人が話をしていた為に、エルが先陣を切って闘っただけである。

 そう。

 三人の誰が出ようと、魔王と闘える経験と力を得る機会に恵まれていた。
 そして今や蓮次は別格として、得手不得手はあっても三人とも互角である。

 闘いが終わって、自分の拠点に戻る前に魔王が楽しそうに言った言葉。

” 『私は四天王の中では最弱だ!』と言う日が来るとはな! ”

 自分を仲間の一人と数えた魔王に、蓮次以外の全員が見事にずっこけた。
 蓮次はそんな魔王と皆を見て、おかしそうに笑っただけであった。

 『祭囃子』と、困窮の大地を抱えて世界に攻め出るを得なかった魔王、魔族。

 蓮次達の手助けによって豊潤な大地へと生まれ変わった、他者が入り込めない結界に覆われた封印魔王領での交流は今でも続いている。

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