39 / 61
開戦
39 狛犬『阿』参戦と魔王戦の真実
しおりを挟む
蓮次の頼みによって京を乗せる狛犬、阿吽の『阿』が平野を駈けている。
目指すはダナンの町南方域、ザンザムール王国への境界線である。
●
「南は竜が来るんだっけ。異世界ファンタジーだと定番でワクワクものだけど、闘うのはどんな感じなんだろ。ウロコ固いのかな?……うわ!お、落ちる!」
速度を増した『阿』の背中に乗っている京が、必死で鬣《たてがみ》を掴んだ。
がう?
走りながら振り向き、怪訝な目つきで見上げる『阿』。
「あ、あの!転げ落ちるかもしれないのでもう少しお手柔らかにお願いします!」
ぐ、るー。
しょうがねえなぁ。
呆れが丸分かり、な唸りである。
「うう、ご機嫌麗しゅう!ご機嫌麗しゅう!『阿』さんに呆れられましたよ……」
『阿』は緩んだ表情で振り向いたり欠伸をしたりと余裕だが、京からすればあっという間に後方に流れていく景色に冷や汗を掻き通しであった。
「蓮さんの頼みで乗せて貰えたけど、バイクで高速をノーヘルで走ったらこんな感じなのかも!怖すぎる!……あ、あれかな」
遠い前方の空を黒々とした大きなモノが、羽ばたきながら滞空している。
黒い竜。
「うわーでっかい!三階建ての一軒家くらいある!それに、圧がすっごいね」
京からすれば小説やマンガ、ゲーム等でお馴染みの竜だが、実際に目にすると威圧感、存在感が常軌を逸脱するレベルである事を感じさせるその姿に驚く。
だが、普段から蓮次の傍にいて神格の化身に馴染み深い京だからこそ、お道化ながらも観察は怠らない。
「青龍さんみたいに超高高度から雷撃されたら『阿』さんに祈りを捧げて逃げ惑いましょうかね」
メニューの情報。
過去の魔物との闘い。
分析。
自分にできる事。
できない事。
そして。
譲れない事。
「人間と魔物側はいきなり戦闘になるか、一旦は様子見に来るか。普通は後者でしょうけど……ま、こちらは誰がどれだけ出てこようと通しませんよ?」
とぉん。
自らが一瞬だけ垣間見せた気合いに反応し、『阿』の進む勢いが増した事に京は気付かない。
●
『祭囃子』は蓮次合流後、神格や化生のモノの戯れに付き合わされ、模擬戦をする事が多かった。
当然、その破格ともいえる相手との戦闘は、闘う度に京、奏、エルを昇華させ、魔王との闘いにこの経験は十分に活きる事となった。
その結果エルは魔王とタイマンを演じたが、魔王戦に気乗りがしなかった蓮次と京と奏の三人が話をしていた為に、エルが先陣を切って闘っただけである。
そう。
三人の誰が出ようと、魔王と闘える経験と力を得る機会に恵まれていた。
そして今や蓮次は別格として、得手不得手はあっても三人とも互角である。
闘いが終わって、自分の拠点に戻る前に魔王が楽しそうに言った言葉。
” 『私は四天王の中では最弱だ!』と言う日が来るとはな! ”
自分を仲間の一人と数えた魔王に、蓮次以外の全員が見事にずっこけた。
蓮次はそんな魔王と皆を見て、おかしそうに笑っただけであった。
『祭囃子』と、困窮の大地を抱えて世界に攻め出るを得なかった魔王、魔族。
蓮次達の手助けによって豊潤な大地へと生まれ変わった、他者が入り込めない結界に覆われた封印魔王領での交流は今でも続いている。
目指すはダナンの町南方域、ザンザムール王国への境界線である。
●
「南は竜が来るんだっけ。異世界ファンタジーだと定番でワクワクものだけど、闘うのはどんな感じなんだろ。ウロコ固いのかな?……うわ!お、落ちる!」
速度を増した『阿』の背中に乗っている京が、必死で鬣《たてがみ》を掴んだ。
がう?
走りながら振り向き、怪訝な目つきで見上げる『阿』。
「あ、あの!転げ落ちるかもしれないのでもう少しお手柔らかにお願いします!」
ぐ、るー。
しょうがねえなぁ。
呆れが丸分かり、な唸りである。
「うう、ご機嫌麗しゅう!ご機嫌麗しゅう!『阿』さんに呆れられましたよ……」
『阿』は緩んだ表情で振り向いたり欠伸をしたりと余裕だが、京からすればあっという間に後方に流れていく景色に冷や汗を掻き通しであった。
「蓮さんの頼みで乗せて貰えたけど、バイクで高速をノーヘルで走ったらこんな感じなのかも!怖すぎる!……あ、あれかな」
遠い前方の空を黒々とした大きなモノが、羽ばたきながら滞空している。
黒い竜。
「うわーでっかい!三階建ての一軒家くらいある!それに、圧がすっごいね」
京からすれば小説やマンガ、ゲーム等でお馴染みの竜だが、実際に目にすると威圧感、存在感が常軌を逸脱するレベルである事を感じさせるその姿に驚く。
だが、普段から蓮次の傍にいて神格の化身に馴染み深い京だからこそ、お道化ながらも観察は怠らない。
「青龍さんみたいに超高高度から雷撃されたら『阿』さんに祈りを捧げて逃げ惑いましょうかね」
メニューの情報。
過去の魔物との闘い。
分析。
自分にできる事。
できない事。
そして。
譲れない事。
「人間と魔物側はいきなり戦闘になるか、一旦は様子見に来るか。普通は後者でしょうけど……ま、こちらは誰がどれだけ出てこようと通しませんよ?」
とぉん。
自らが一瞬だけ垣間見せた気合いに反応し、『阿』の進む勢いが増した事に京は気付かない。
●
『祭囃子』は蓮次合流後、神格や化生のモノの戯れに付き合わされ、模擬戦をする事が多かった。
当然、その破格ともいえる相手との戦闘は、闘う度に京、奏、エルを昇華させ、魔王との闘いにこの経験は十分に活きる事となった。
その結果エルは魔王とタイマンを演じたが、魔王戦に気乗りがしなかった蓮次と京と奏の三人が話をしていた為に、エルが先陣を切って闘っただけである。
そう。
三人の誰が出ようと、魔王と闘える経験と力を得る機会に恵まれていた。
そして今や蓮次は別格として、得手不得手はあっても三人とも互角である。
闘いが終わって、自分の拠点に戻る前に魔王が楽しそうに言った言葉。
” 『私は四天王の中では最弱だ!』と言う日が来るとはな! ”
自分を仲間の一人と数えた魔王に、蓮次以外の全員が見事にずっこけた。
蓮次はそんな魔王と皆を見て、おかしそうに笑っただけであった。
『祭囃子』と、困窮の大地を抱えて世界に攻め出るを得なかった魔王、魔族。
蓮次達の手助けによって豊潤な大地へと生まれ変わった、他者が入り込めない結界に覆われた封印魔王領での交流は今でも続いている。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
凶幻獣戦域ラージャーラ
幾橋テツミ
ファンタジー
ラージャーラ…それは天響神エグメドなる絶対者が支配する異空間であり、現在は諸勢力が入り乱れる戦乱状態にあった。目下の最強陣営は「天響神の意思の執行者」を自認する『鏡の教聖』を名乗る仮面の魔人が率いる【神牙教軍】なる武装教団であるが、その覇権を覆すかのように、当のエグメドによって【絆獣聖団】なる反対勢力が準備された──しかもその主体となったのは啓示を受けた三次元人たちであったのだ!彼らのために用意された「武器」は、ラージャーラに生息する魔獣たちがより戦闘力を増強され、特殊な訓練を施された<操獣師>なる地上人と意志を通わせる能力を得た『絆獣』というモンスターの群れと、『錬装磁甲』という恐るべき破壊力を秘めた鎧を自在に装着できる超戦士<錬装者>たちである。彼らは<絆獣聖団>と名乗り、全世界に散在する約ニ百名の人々は居住するエリアによって支部を形成していた。
かくてラージャーラにおける神牙教軍と絆獣聖団の戦いは日々熾烈を極め、遂にある臨界点に到達しつつあったのである!
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
偽りの恋人と生贄の三日間
有坂有花子
ファンタジー
三日目に生贄になる魔女が、騎士と偽りの恋人としてすごす三日間
「今日から恋人としてすごして」
珍しい容姿と強い魔力から『魔女』と疎まれていたリコ。ともにすごしてきた騎士のキトエと、辺境の城で三日間をすごすことになる。
「三日だけだから」とリコはキトエに偽りの恋人として振るまってほしいとお願いし、キトエは葛藤しながらもリコのお願いに沿おうとする。
三日目の夜、リコは城の頂上から身を投げなければならない、生贄だった。
※レーティングは一応です
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる