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ダノンの街へ

34 三人の決意と蓮次の苦笑い

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「蓮次が『元いた世界に帰んな』って言ってくれた時は、涙が出たよ。平和な日本から、気がついたらここにいてさ?毎日『明日死んじゃうかも』って三人で震えてさ?帰りたかったに決まってるでしょ?!でも、でもぉ……!」

 永遠の別れを迎えるかのように悲しげに顔を歪ませて、涙を零すかなでの背中をそっと撫でるエル。

「私達の身代わりになんか置いてけないよ!置いていきたくないよ!それに、何で一緒にって言わないの!?今度だって何で一緒にって言ってくれないの!?」
「……きっと私達が日本に戻った後に、代わりに蓮さんが傷ついて闘ってるかもしれないと思ってしまえば、私達は喜べない。それに蓮さん、幽霊でも何でもないじゃない。元の時代に戻るつもりがなくっても私達と一緒にいようよ」

 奏とエルの言葉を黙って聞いていた京が、口を開いた。

「僕達に救いの手を差し伸べてくれたイワナガ様やサクヤ様には申し訳ないけれど……蓮さんが来てくれた後から、この世界のいい所がいっぱい見えてきた。出店したり、魔法で花火上げたり、炊き出ししたりしてみんなの笑顔が見れてさ。蓮さん、もう少し一緒にいさせてよ。まだまだ一緒に世界を回ろうよ」

 そんな京の言葉に。 

 三人を眺めていた蓮次が、珍しい苦笑い顔で言った。

「はあ。もう好きにしろい。、帰りたくなったらいつでも言いな。姫さん方が首を長くしておめさんらを待ち侘びていなさるってのによ、仕様のねえ奴らだ。ま、おめさんらの苦労を思えば、少しくれえはお許し下さるかもな」

 蓮次の言葉に三人が顔を見合わせた。

 そして。

「「よっしゃー!!!」」

 その言葉に奏とエルがハイタッチをし、抱き合う。

(よかった!蓮さん、僕らが日本に戻ろうとしないでついていくの、呆れてる時もあったからなあ……ようやく認めてくれたのは、蓮さんの優しさか、奏ちゃんとエルの気迫なのか……イワナガ様、サクヤ様、どうか蓮さんと、旅を続けさせてください)

 そこまで考えて、空に向かって深々と頭を下げた京が、僕もハイタッチを……と歩き出そうとした時に。 

 にゅ。
 
 京の目の前が揺らぎ、秋穂色の前脚が眼前に飛び出してきた。

「うわ?!……この毛の色は玉藻さん?!」

 そう尋ねると、くい!くい!と前脚の先端が曲げられ、次いでハイタッチしようぜ!と言わんばかりにその脚をぽひゅ!ぽひゅ!と動かしている。

 京が、チラリチラリと周りを見やれば。
 蓮次と奏とエルは大爆笑している。

 だがゼペスがあんぐり口を開け、ガルディは目が飛び出さんばかりに凝視する。
 
(ですよねー。初めて見たらびっくりですよ。でも、八百万の神様も化身達も喜んでくれるなんて、嬉しいよね)

 玉藻前と、ぽふん、とハイタッチを交わした京。
 その前脚が、するり、と空間に消えていく。

 すると。

 にゅ。

 にゅにゅにゅにゅにゅ。
 ひゅば!

「うわー!」

 今度は数本の腕や前脚が一気に突き出された。

「僕、何でこんなにハイタッチを強要されるの?!」
「ははっ、京はてえした人気だな」
「あ!白くておっきなもふもふの手!白虎ちゃんだ!」
「あの鋭い爪とハイタッチとか……京、頑張ってー」

 大爆笑する蓮次達を感嘆の目で見るゼペスとガルディ。

「いやいや……『マツリバヤシ』の皆さんは本当に頼もしい」
「はっはっはっ!これはものすごいですな!」

 京をダシにひとしきり笑った皆。

「じゃあ、仕切り直しといこうじゃねえか。おめさんらの気が済むまで、とことん俺に付き合ってもらうぜ?」
「「「おー!」」」
 
 と、盛り上がった所で、京とエルが奏に声を掛けた。




「奏ちゃん、蓮さんにひとつここで意思表明でもしてみたら?」
「へ?私?いしひょーめー?」

 京からの振りに、自分を指さしてポカンとする奏。
 そこにエルが、剛速球を投げ込んだ。

「そうね。『祭囃子』再結成の日だし、奏ちゃんが堂々と愛しの蓮さんと一緒に旅ができる記念……」
「いやー!いっやー!きゃあああ!何?!何言っちゃってんの?!どこに頭置いてきたのよ!拾って来なさいよ!」
「何よーそれー。もうバレバレじゃないのよう」
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