異世界花火 ~よう、楽しんでるかい~

マクスウェルの仔猫

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ダノンの街へ

32 もし……あなた様。

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「……んあ?何でえ、ここは」

 蓮次は闇の中で中で目を覚まし、辺りを見回した。

「糞餓鬼の首根っこ締め上げてやったとこまでは覚えてんだが……ったくよ、年端もいかねえおせん坊泣かせやがって。雁首揃えて地獄の鬼にこっぴどく小突かれっちまえってんだ。ま、さんざ痛めつけた俺もか」

 胡坐をかいた蓮次がそう言って、首をコキコキと鳴らしていると。

((もし……あなた様。あなた様))

 その背中から、重なった美しい声が響き渡った。

 蓮次が振り返ると、そこだけが眩く輝く光球が二つ浮かんでいる。

「ははぁん、お迎えですかい。三途の川の六文銭は紙入れん中に、ございますよときたもんだ。ナマンダブ、ナマンダブ」

 そう言って手を合わせる蓮次に、二つの光は。

(冥府へのお迎え、ではございません。私達は、イワナガとサクヤと申します。あなた様方の言う、『八百万の神』のうちの二柱と申せばお分かりになりましょうか)
「そいつぁたまげたな。道理でぴかりと神々しい訳だ。だが、お迎えでなけりゃあどういう料簡でございますかい」

 そこで。

 朱色の衣に領布を纏う美しい女性が二人、顕現した。
 だが、切れ長の瞳は共に伏せられ、愁いを帯びている。

(お願いが、ございます。遥か先の話ではございますが、私、イワナガを祀る神社の娘がこの日ノ本から彼方の世に連れ去られてしまいました。あなた様のお力を、お貸し願えませんでしょうか)

 イワナガヒメはそう言って、胸の前で両手を組んだ。

(我々、神を敬いよく奉る、気立てのよい娘でございます。私達でどうにか呼び戻そうとあらゆる手を尽くしましたが、理の違う天地人命に手を差し伸べることさえできません。また、天魔を打ち払う、という約定も厄介にてございます)

 サクヤビメの言葉に、首を傾げる蓮次。

「お手上げだってのはわかりますけどもよ。大層なお力の神さんでさえどうにもできねえものを、俺に言ったところでどうにもなんねえんじゃねえんですかい?」

(誰彼でもよい訳では、ございません。私達は娘の生きる時代のみならず、時の神の力を借りて私達の力が及ぶ過去と未来を巡って参りました。我らの残滓を持つあなた様に巡り合えたのは、お導きともいえましょう。この写し鏡を以て彼の場所へとお送りする事も、容易いことでございます)

 
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