異世界花火 ~よう、楽しんでるかい~

マクスウェルの仔猫

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ダノンの街へ

【玉藻&エルデイメージ画像あり】12 楽しい食事と玉藻前達の人型変化

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 森を抜けだし、無事に柵の外へと出てきた七人と二匹の子狐。
 カシとナナンは、様々な花を麻袋いっぱいに詰め込んで背にしょっている。

 蓮次が花を摘む事に遠慮するカシとナナンを見て、森のヌシの指図の下に目いっぱい詰め込んだのだ。

 ラステラに飛びつかれ、力いっぱい抱きしめられるアスト、ケルンの二人。
 ヨハンは手をぎゅっ!と握られただけに終わり、少しだけ物足りなそうにしょんぼりとしている。

「もうおっそーい!……あ!モフモフちゃん増えてるぅ!銀色だぁ!」

 手を振り上げて文句を言う奏が、銀色の子狐を見て駆け寄っていく。

 もちろん、森の主である。

 
「ちぃとばかりの礼と言っちゃあなんだがな、うめえもん食っていきな」


 そんな蓮次の言葉を聞いた玉藻前たまものまえが、しきりに遠慮する森の主を引っ張り出してきたのだ。森の主は、『エルデ』と名乗った。

 しゃがみ込んで自らを撫でまわす奏とトト、エルに、

『?!』

『?!!』

 と戸惑いを見せるエルデ。

 だが、玉藻前がエルデをジッと見ている為に、抵抗を諦めて為すがままである。

 京がニコニコと蓮次に近寄っていく。

「蓮さん、おかえりなさい。どうやら、うまくいったみたいですね」
「ああ。ま、玉藻の姐さんのおかげさね。『よっ!玉藻屋!』ってなとこだ」
「あはは、歌舞伎みたいですね!たまもや?……たま、も?……!!!」

 京が恐る恐る、玉藻前の方へと目をやった。
 
「?」

 小首を傾げる玉藻前と目が合って、慌てて視線を蓮次に戻す京。

「まさか、『玉藻前』だったなんて!滅茶苦茶に恐ろしい伝説の大妖じゃないですか!!蓮さん、何てモノ呼び出してるんですか!!」
「ん?姐さんは懐深え、情に厚い化身様じゃねえか。せんだっても、俺らが森に行くまでにきっちりとお膳立てしてくれてたぜ?ま、話はあとだ」
「も、森の主をはじめ、全滅させたんですか……?」
「馬鹿言っちゃあいけねえ。一匹たりとも死んじゃいねえよ。それにほれ、森のヌシさんはにいなさるよ。じゃあな」

 撫でまわされ身悶えする銀の子狐を指差した蓮次。

「ええー……」

 蓮次は呆然とする京を置いて、アストのところへと歩いていった。





 黄金色の髪をなびかせて、右手に握りしめた箸を天に掲げる和服の少女。
 
 玉藻前である。

 銀色の髪をふわりと揺らし、まるで、『私、手を挙げてますけど差さないでくださいね』という風に、恐る恐る箸を天に掲げるワンピースの少女。

 エルデである。

 そのオドオドした動きを見た玉藻前に、ぺし!と頭を叩かれ悶絶するエルデ。





「さあさ、食いねえ、食いねえ。遠慮はいらねえぜ?たんと食いな」

 パチパチ!と弾けた音を出すいくつもの焚き木。
 煌々と赤い光を放つ、炭火。
 大きな縦長の寸胴から、湯気と共に立ちのぼる汁物の薫り。



 ふわり、ふわりと移動しながら、蓮次が肉や魚を香ばしく焼き上げていく。

 料理が出されるその度に駆け寄る玉藻の前、カシ、ケルン達。
 大皿に盛られた料理は、瞬く間に無くなっていく。

「これ、滅茶苦茶うまいな!」
「いやー!太っちゃう!太っちゃうー!」
『……?!……!…………おい、しい!!』
「こんな美味しいもの、食べたことないよ!」
「……!……うめえ!!」
『はぐはぐはぐはぐ!』



 恐るべき勢いで料理を平らげるアスト、ラステラ、エルデ、ナナン、ゼガン、ルーティ。

「すごいな、これは……」
「でしょう?蓮さんとうちの女子達の料理、すごく美味しいんですよ」
 
 玉藻前は山盛りにした料理をはぐはぐと味わいながら、時折トトの皿に料理をポイポイと盛ってやっている。
 トトは口の周りを色とりどりに染め、満面の笑みだ。
 ヨハンと京はゆっくりと料理の味を楽しみながら、ニコニコと皆を見ている。

 そんな皆を横目に蓮次と奏、エルは料理作りに大忙しである。

「ん?肉が足んねえな。奏、頼まぁ」
「えー!またー?!私のセカンドスキル、みんなに食事を作る為にもらった訳じゃないのにー!」

 そう言いながら、どことなく嬉しそうな奏。

 空中にウィンドウを開き、商品を選んでいく奏。
 決済ボタンを押した瞬間、足元に段ボールが出現した。

 日本に戻らず、この世界で生きていく。

 そう決断をした奏がに願って手に入れた、二つ目のスキル。

『異世界通販』

 ネットで購入できるようなものを全て、こちらの世界でも同じように手に入れることができるスキルである。

「ま、そう言いなさんな。みんな、あんなに喜んでんじゃねえか」
「それは食材や道具と蓮次の腕でしょ!どうせ私の方が料理下手だよ!」
「そうけえ?俺あ、毎日おめさんの飯くってもいいぐれえだぜ?」

 蓮次の何げない言葉に段ボールを取り落とし、耳まで赤くした顔を手で覆いながら俯く奏。

「にゃ、にゃにをおっしゃいましゅでしゅかっ?!」
「あらあらー、またやってるわね」

 それを見ていたエルがほほ笑んでいる。

 楽しい食事は、しばらく続いた。


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