4 / 4
序章
触れてはいけない事がこの世には存在するのだ
しおりを挟む
全力ダッシュでお店に飛び込んだ。ランチタイムが終わってガランとした店内で、お父さんとお母さんとギルドマスターが話をしている。これはチャンスだ!
「ギルドマスター!」
「む?」
「アイラ? 学校はどうしたんだい?」
「どうしたの? 具合が悪いの?」
「違うの! 話を聞いて!」
●
「お父さん、お母さんだって覚えてるでしょ? ラーンさんたちが引き抜かれた時のこと! トーマのお店でもそうやって怖いこと言ってたって! ギルドマスターどうして放っておくんですか?!」
「うーむ」
「アイラ……」
「……」
ギルドマスターがいてくれてよかったけど、お父さんとお母さんと一緒に困った顔をしている。
「だって……!」
「実はな、その話を含めてダスティとエミルに相談を受けていたんだがな」
「本当?! じゃあギルドで懲らしめてくれるの?」
嬉しくなってお父さんとお母さんの顔を見た。でも、二人とも渋い顔してる。
「すまんの、アイラ。証拠がないんじゃよ。『荒鷲亭』の雇用書、店の売り買いに関する契約書を専門家に見せたが法に反する文言はない。後は言葉や態度での脅しじゃが、証拠がないと冒険者ギルドに取り締まる権限がないんじゃ」
「そんな!」
ギルドの目の前で、近くでそんなことが起こってるのに?!
「もちろん、ギルドの目の前でそのような真似をしたら只では置かん。だが奴らはうまく監視の網の目を潜っている。噂によると、『荒鷲亭』のオーナーは司法ギルドにも顔が効くらしい」
頭にきすぎて、目の前がチカチカする。それじゃ『満腹亭』もトーマのお店も、周りのお店も泣き寝入りじゃない!
うちだってお店の人たちを引き抜かれて、メニューを全部マネされて、値段を安く出されて。これでも我慢しなきゃいけないの?
「アイラ」
お父さんとお母さんが近づいてきた。
二人で、頭と背中を撫でてくる。
「お父さんがな、もっと美味しいご飯を作ればいいんだ」
「……えっ?」
「そうしたらきっとお客さんも前みたいに戻ってきてくれるさ。『満腹亭』名物、ここでしか食べられないものをね。お客さんが4回も5回も入れ替わって忙しくなるなあ。アイラに大活躍してもらうかな」
「で、でもっ……」
「ありがとうね。アイラは本当に私たちの自慢の娘だよ」
お父さんのご飯、すっごく美味しいよ。
お母さんの笑顔でお客さん癒されてるよ。
お父さんとお母さん、何も悪いことしてないのに。何でも相談できて頼りがいのある、カッコイイお父さん。怒らすと怖いけど、いいところを本気の全力で褒めてくれる、優しいお母さん。
大好き。
大好き。
トーマのおうちのエディルおじさん、ユラおばさん、『満腹亭』で頑張ってたラルフのお父さんのラーンさん、リルのお母さんのリリさん、商店街の人達も優しくって明るくって、みんないい人。
なのにどうしてこんなにヒドいことするの?
「……ううっ」
言いたい、たくさんの言葉が出ない。
涙が。
涙だけが止まらない。
「アイラありがとな。なあに、お父さんとお母さんはどんな困難にも簡単に負けやしないし、何があっても『満腹亭』とアイラは守る。街のみんなが困った時だって助けたい。ザイホンさんにはその相談をしていたんだ」
「そうよ。だからアイラは心配しないで、今まで通りに勉強にお店の手伝いに頑張ってくれればいいの」
「へう」
温かい手に、力強い言葉に……悲しい涙が、嬉しい涙と力に変わっていく。
「『荒鷲鄭』に関しては儂もよく見ておくことにしよう。ま、少し調べればダスティとエミルに弓を引く気にはならんだろうがな。なあ、【竜の料理人】に【ギルド最強の魔法使い】さんよ」
「や、やめてくださいよ! アイラの前でっ!」
「いっやあああああ! ザイホンさんのバカ!」
何、その呼び方。
気になるけど、今聞くのはやめとこう。お父さん顔真っ赤だし、お母さんは目から光が消えてるし、何よりザイホンさんがお母さんを見て慌てて帰り支度を始めたし。触れてはいけない事がこの世には存在するのだ、うん。
でも、こうやっていろんなことを話し合えるのっていいなあ。向こうでも考えすぎずに接してればよかったのかなあ。
……向こうって何だろ。もういいや、今はそれどころじゃない。人気メニュー、看板メニューかあ。私も頑張って考えてみよっと!
「ギルドマスター!」
「む?」
「アイラ? 学校はどうしたんだい?」
「どうしたの? 具合が悪いの?」
「違うの! 話を聞いて!」
●
「お父さん、お母さんだって覚えてるでしょ? ラーンさんたちが引き抜かれた時のこと! トーマのお店でもそうやって怖いこと言ってたって! ギルドマスターどうして放っておくんですか?!」
「うーむ」
「アイラ……」
「……」
ギルドマスターがいてくれてよかったけど、お父さんとお母さんと一緒に困った顔をしている。
「だって……!」
「実はな、その話を含めてダスティとエミルに相談を受けていたんだがな」
「本当?! じゃあギルドで懲らしめてくれるの?」
嬉しくなってお父さんとお母さんの顔を見た。でも、二人とも渋い顔してる。
「すまんの、アイラ。証拠がないんじゃよ。『荒鷲亭』の雇用書、店の売り買いに関する契約書を専門家に見せたが法に反する文言はない。後は言葉や態度での脅しじゃが、証拠がないと冒険者ギルドに取り締まる権限がないんじゃ」
「そんな!」
ギルドの目の前で、近くでそんなことが起こってるのに?!
「もちろん、ギルドの目の前でそのような真似をしたら只では置かん。だが奴らはうまく監視の網の目を潜っている。噂によると、『荒鷲亭』のオーナーは司法ギルドにも顔が効くらしい」
頭にきすぎて、目の前がチカチカする。それじゃ『満腹亭』もトーマのお店も、周りのお店も泣き寝入りじゃない!
うちだってお店の人たちを引き抜かれて、メニューを全部マネされて、値段を安く出されて。これでも我慢しなきゃいけないの?
「アイラ」
お父さんとお母さんが近づいてきた。
二人で、頭と背中を撫でてくる。
「お父さんがな、もっと美味しいご飯を作ればいいんだ」
「……えっ?」
「そうしたらきっとお客さんも前みたいに戻ってきてくれるさ。『満腹亭』名物、ここでしか食べられないものをね。お客さんが4回も5回も入れ替わって忙しくなるなあ。アイラに大活躍してもらうかな」
「で、でもっ……」
「ありがとうね。アイラは本当に私たちの自慢の娘だよ」
お父さんのご飯、すっごく美味しいよ。
お母さんの笑顔でお客さん癒されてるよ。
お父さんとお母さん、何も悪いことしてないのに。何でも相談できて頼りがいのある、カッコイイお父さん。怒らすと怖いけど、いいところを本気の全力で褒めてくれる、優しいお母さん。
大好き。
大好き。
トーマのおうちのエディルおじさん、ユラおばさん、『満腹亭』で頑張ってたラルフのお父さんのラーンさん、リルのお母さんのリリさん、商店街の人達も優しくって明るくって、みんないい人。
なのにどうしてこんなにヒドいことするの?
「……ううっ」
言いたい、たくさんの言葉が出ない。
涙が。
涙だけが止まらない。
「アイラありがとな。なあに、お父さんとお母さんはどんな困難にも簡単に負けやしないし、何があっても『満腹亭』とアイラは守る。街のみんなが困った時だって助けたい。ザイホンさんにはその相談をしていたんだ」
「そうよ。だからアイラは心配しないで、今まで通りに勉強にお店の手伝いに頑張ってくれればいいの」
「へう」
温かい手に、力強い言葉に……悲しい涙が、嬉しい涙と力に変わっていく。
「『荒鷲鄭』に関しては儂もよく見ておくことにしよう。ま、少し調べればダスティとエミルに弓を引く気にはならんだろうがな。なあ、【竜の料理人】に【ギルド最強の魔法使い】さんよ」
「や、やめてくださいよ! アイラの前でっ!」
「いっやあああああ! ザイホンさんのバカ!」
何、その呼び方。
気になるけど、今聞くのはやめとこう。お父さん顔真っ赤だし、お母さんは目から光が消えてるし、何よりザイホンさんがお母さんを見て慌てて帰り支度を始めたし。触れてはいけない事がこの世には存在するのだ、うん。
でも、こうやっていろんなことを話し合えるのっていいなあ。向こうでも考えすぎずに接してればよかったのかなあ。
……向こうって何だろ。もういいや、今はそれどころじゃない。人気メニュー、看板メニューかあ。私も頑張って考えてみよっと!
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
峻烈のムテ騎士団
いらいあす
ファンタジー
孤高の暗殺者が出会ったのは、傍若無人を遥かに超えた何でもありの女騎士団。
これは彼女たちがその無敵の力で世界を救ったり、やっぱり救わなかったりするそんなお話。
そんな彼女たちを、誰が呼んだか"峻烈のムテ騎士団"
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
新人神様のまったり天界生活
源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。
「異世界で勇者をやってほしい」
「お断りします」
「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」
「・・・え?」
神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!?
新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる!
ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。
果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。
一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。
まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
お気に入り登録しました。
続きを楽しみにしています。
るしあん先生いつもありがとうございます!(≧▽≦)♪ 何故かこちらでも公開してみようと思ったのかよくわかりませんが改稿しながらのんびりと書いていこうと思いますのでよろしくお願いしますm(__)m