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『挿し絵あり』9 へなへな、ぺたり。
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一方。
皆と別れて家へと向かう絵里は皆の笑顔を思い浮かべつつ、達成感に体を熱くさせていた。
(和樹君も心ちゃんもみんなも笑ってくれてた。和樹君も、パパさんのお話ができるまで待てそうって言ってた! 頑張ってみてよかった!)
立ち止まって内股気味に両手でガッツポーズをした絵里は、眼前でそんな自分を見て微笑んだ通行人達に慌ててお辞儀をして歩き出す。
(でも、もしあの人だったら……もっとこう、さらっと、ググっと! 励ます事ができたんじゃないかな。酔っぱらった人が怒ってても、普通に会話してたし……)
絵里は自分を救ってくれたスーツ姿の男性のその広い背中を思い出し、左胸を押さえた。
(お礼、言いたいなあ。また会えないかなあ……あの時にもっとこう、何かできてたら……いや、でも。可能性はゼロじゃない、私が諦めなければいいだけ。絶対絶対、お礼を言うんだ! あああ! 女子力、足りてない! 気合いで上げてかないとお!」
何故女子力を上げる必要があるのか、という部分に気づかない絵里は、家の門と玄関の間で拳を握りしめ、手紙とお菓子を入れた通学鞄をさすっては頬に手を当てたりと忙しい。
そこで、扉が開いた。
「……何してるの? 玄関のセンサーがちっかちっか反応してるのに誰も来ないからと思ったら、娘の振りをした挙動不審者が怪しい創作ダンスしてるし」
「ひどいよ、もう! ただいま~」
「お帰り。いいのできた?」
エプロン姿で出迎えた母親の言葉に首を傾げる。
「いいのって?」
「頑張ってPOPとキャッチコピー作るから、帰ったら感想聞かせてねって言ってたじゃない」
「………………ああああ~」
絵里は、へなへなぺたりとその場に座り込んだ。
「忘れちゃってた……そんな馬鹿にゃあ……」
「あらら、図書館に何しに行ったんだか。ほらほら、手を洗ってうがいしてきなさい。ご飯、手伝ってー」
「はーい……」
フラフラと立ち上がった絵里は、本来の目的をすっかり忘れ去っていた自分にガックリしながらも、図書館での出会いやいっぱいの笑顔を思い出し、『ご飯食べて、頑張るぞ!』と気合いを入れ直したのだった。
●
数日後。
絵里は頑張って、POPを完成させた。
『猫の王子様』はこっそりとこちらでも、猫の手を貸してくれたようである。
更に、後日。
絵里が図書館に行った時に、「お話のおねえさん」「カツオのおねえちゃん」「猫のお姉さん」と呼ばれ、またしても子供達にもみくちゃにされながら話をせがまれる事を。
そして。
自分を救った九重恭介との再会が待っている事を。
絵里はまだ、知らない。
皆と別れて家へと向かう絵里は皆の笑顔を思い浮かべつつ、達成感に体を熱くさせていた。
(和樹君も心ちゃんもみんなも笑ってくれてた。和樹君も、パパさんのお話ができるまで待てそうって言ってた! 頑張ってみてよかった!)
立ち止まって内股気味に両手でガッツポーズをした絵里は、眼前でそんな自分を見て微笑んだ通行人達に慌ててお辞儀をして歩き出す。
(でも、もしあの人だったら……もっとこう、さらっと、ググっと! 励ます事ができたんじゃないかな。酔っぱらった人が怒ってても、普通に会話してたし……)
絵里は自分を救ってくれたスーツ姿の男性のその広い背中を思い出し、左胸を押さえた。
(お礼、言いたいなあ。また会えないかなあ……あの時にもっとこう、何かできてたら……いや、でも。可能性はゼロじゃない、私が諦めなければいいだけ。絶対絶対、お礼を言うんだ! あああ! 女子力、足りてない! 気合いで上げてかないとお!」
何故女子力を上げる必要があるのか、という部分に気づかない絵里は、家の門と玄関の間で拳を握りしめ、手紙とお菓子を入れた通学鞄をさすっては頬に手を当てたりと忙しい。
そこで、扉が開いた。
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「ひどいよ、もう! ただいま~」
「お帰り。いいのできた?」
エプロン姿で出迎えた母親の言葉に首を傾げる。
「いいのって?」
「頑張ってPOPとキャッチコピー作るから、帰ったら感想聞かせてねって言ってたじゃない」
「………………ああああ~」
絵里は、へなへなぺたりとその場に座り込んだ。
「忘れちゃってた……そんな馬鹿にゃあ……」
「あらら、図書館に何しに行ったんだか。ほらほら、手を洗ってうがいしてきなさい。ご飯、手伝ってー」
「はーい……」
フラフラと立ち上がった絵里は、本来の目的をすっかり忘れ去っていた自分にガックリしながらも、図書館での出会いやいっぱいの笑顔を思い出し、『ご飯食べて、頑張るぞ!』と気合いを入れ直したのだった。
●
数日後。
絵里は頑張って、POPを完成させた。
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更に、後日。
絵里が図書館に行った時に、「お話のおねえさん」「カツオのおねえちゃん」「猫のお姉さん」と呼ばれ、またしても子供達にもみくちゃにされながら話をせがまれる事を。
そして。
自分を救った九重恭介との再会が待っている事を。
絵里はまだ、知らない。
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