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7 物語が終わって

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 話が終わった後。

 絵里はしがみついて来た幼い女の子を抱っこしつつ、子供達に囲まれていた。

 皆の注目を浴びている事に改めて気づき、恥ずかしさと盛大にやってしまった感に顔色を紅く青くする絵里はそれでも、そっと溜息をつく。


(よかったあ……出来はともかく、何とかなったみたい……)


 と、ミニタオルで額や頬に滲む汗を拭いた絵里が安堵できたのはつかの間だった。キラキラと目を輝かせた子供達の大騒ぎと一斉のおねだりが始まったのだ。





「続き、お話ししてえ~!」
「わんちゃんのお話ー!」
「異世界でカッコよく冒険する僕の話を作ってください!」
「きゃあ! きゃあ!」

 子供達は思い思いに自分の聴きたい話を、大人達は拍手をした後に、ニコニコと期待の目で絵里を見ている。


(む、無理無理! ぎりぎりセーフっぽいここで終わらせてぇ~! ……あ)


 子供達に向かってニコニコふわふわと笑いながらも、たら~り、と冷や汗を流す絵里に、先程までしょんぼりとしていた少年が満面の笑みを浮かべて話しかけた。


「お姉ちゃん、お話面白かった! リーダーもカツ夫もみんなも、カッコいい!」
「そっかあ、よかった! じゃあじゃあ、これでもう少しだけ……パパさんのお話ができる我慢できそ?」
「うんっ! 我慢できる!」
「うんうん! お話、楽しみだね~」
「楽しみ! ねえねえ、次は僕がお姉さんにお話聞かせてあげるね!」
「ほんと? やったあ!」

 男の子の笑顔にほっと一安心した絵里は、キョロキョロと視線を彷徨わせた。


 そして。

 母親に抱かれている女の子、心を見て絵里は掌を握りしめた。

「ごめんね、あの子とお話したいの。ちょっと待っててくれる?」

 絵里は側にいた子供達に謝りながら立ち上がり、ゆっくりと歩いていく。





「あ、あの……」
「あら! お話良かったよ~……どうしたの?」

 母親が、顔を曇らせている絵里に首を傾げる。

 心は絵里をひと目見て、恥ずかしそうに母親の肩に顔を埋めている。二人の顔を交互に伺う絵里を見た母親が笑った。

「そういう事ね~!大丈夫、大丈夫!……ねえ、こころ。リーダー頑張ったねえ。みんな、力を合わせてすごかったねえ」

 女の子は顔を埋めながら、こくこく、と頷く。

「お姉ちゃんの話、楽しかったならお礼言わないとだね」
「………………あいがと!」

 母親の言葉に女の子が絵里に向かって笑い、すぐに恥ずかしそうに顔を背けた。
 
「ごめんねえ、この子恥ずかしがりなの。さ、子供達待ってるから行った行った!わざわざありがとうね~!」

 母親の言葉に、絵里は深々と頭を下げたのだった。





 その後。

 皆が十分に間隔をあけて話を聞いていたからか、慮ってもらえたからか。図書館のスタッフが、話が終わって大人達と一緒に拍手をしていたのを絵里は思い出す。

 何とかしてください……と目で訴えたが、今ははしゃいで動き回る子供達への対応に一生懸命のスタッフ達を見て、すぐに諦めた。

 そもそも、自業自得だよね……とこっそり溜め息をついた絵里は、お騒がせしてごめんなさい、ありがとうございます、という気持ちを込めてスタッフ一人一人に頭を下げる。

 絵里と目があったスタッフは、ニッコリと笑って絵里に手を振った。

 そして、結局。

 子供達が「お話、終わっちゃうの?」と、しょんぼりする姿を見て、もうひとつだけね、と子供大好きの絵里は言ってしまっていた。

 だが、絵里が子供たちのリクエストに答えた理由が、もう一つ。

 そう、今更ながら絵里は気付いたのだ。

 膝にあるノートPCから有名どころの短い童話を検索すれば、お話を考えなくてもよかったのではないか、と。

 しょんぼりと唇をほんの少し尖らせた絵里は、童話、とPCで検索する。

 と。

 "話題急上昇!童話『猫の手を借りた王子様』"

 という話を見つけた絵里は、猫ちゃんの手を私にもぜひぜひ!と思いながら、コホン、と咳払いをしつつ。

 また語り始めたのだった。



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