とある日の絵里 〜カツ夫と海の仲間たち〜

マクスウェルの仔猫

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6 僕だって! 私だって!

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 子供達を不安がらせまいと、ゆったりとしたリアクションを交えながら絵里は語り続ける。

『楽しくみんなで泳いでいたいだけなのに……そう思ってたら、誰かが叫んだんだ。「リーダーは食べさせない!俺も体当たりする!」』


(ごめんね、お待たせ! カツ夫達のカッコいいとこだよ!)


 ぐっ!

 胸の前で力強く拳を握りしめて言い放った絵里に、子供達が、わぁ!と声を上げる。

「僕も! 僕も体当たりするよ!」
「応援しようよ! 頑張れ! 頑張れ!」
「僕のヤマタノオロチぃ! 行けえっ!」
「きゃうあうあーい! だぁだ!」
「りいだ! かっちょカツ夫! きゃああ!」
「うわ! 心ぉ! 飛び跳ねたら危ないよ?! ふふっ……泣いたカラスが何とやら、ね」

 子供達の顔が輝き始め、先程まで泣いていた心も母親の腕の中で笑顔を見せて一緒にはしゃいでいる。その姿に力をもらった絵里は、ゆっくりとしっかりと話を続けていった。

『その言葉に勇気をもらった僕とみんなは、力いっぱい叫んだ。「僕も!」「私も!」「ワシもじゃ!」「アタチも!」そうして、全員でクジラさんやイルカさんも一緒に、シャチのヤツに体当りしたんだ!そうすると……』
「「「「「「「………………!」」」」」」」
「あうー! だぁ!」
「はやや……」

 子供達は息を詰めて絵里を見つめ、赤ちゃんと心は可愛い声をあげる。絵里は更に観衆が増えた事に、もう気付かない。

『……シャチのヤツが「いたっ!いたたた!やめてくれ!もう食べようとしたりしないから!ぐすっ……うおおおおん!」と泣いて逃げたんだ! シャチのヤツをリーダーの勇気と頑張り、僕達の気持ちで追い払う事ができたんだ!』

 子供達から、大きな大きな歓声が上がった。

 後ろで聞いていた保護者や図書館のスタッフ達からも小さな歓声がこぼれ出る。



(あと、ちょっと……もう少しで終わり!)



 絵里は最後のストーリーを静かに紡ぐ。

『僕はあれからもっと、身体が大きくなった。シャチやサメが来ても、みんなで勇気を出して追い払えるようになった」


 絵里は微笑みながら、最後まで聴いてくれた子供達や多くの見守る大人達と視線を合わせて、ゆっくりと話し続けた。

 やり遂げた達成感と皆の反応に嬉し気に頬を染めた絵里は、顔いっぱいのふわふわ笑顔でまた周りの笑顔を呼び込んでいく。


「リーダーみたいに勇気があれば、僕らみたいに力を合わせれば。体がおっきなヤツラにも絶対負けないよ。今日も海は青く澄んでて、太陽がキラキラしてる。今日もみんなと、どこにいこうかなぁ』



 絵里はそこで、ペコリ、と頭を下げた。



「……カツ夫と海の仲間たち、おしまい」



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