55 / 68
一章「ラビリンスゲーム」
紅と蒼
しおりを挟む
豪華なホテルを模した部屋の中はもはやそこらの廃墟と変わらないほど内部は荒れていた。
豪華なシャンデリアはボロボロになり、大理石のような綺麗な床は亀裂が入りまくり、壁にはクレーターのような跡がいくつも浮かんでいた。
銀咲、夜透、土田の三人は豹変した紅谷と戦闘服に着替えた蒼桐の人間離れした戦いを眺めていた。
「久呼ちゃん……あの人たち本当に人間なの?」
「アタシに聞くんじゃないわよ……」
「いやぁ……私も何が何だかわからないさね」
蒼桐は刀を鞘に収めると姿勢を低く保った。
「黒鴉式暗殺術、居合」
瞬間移動のように紅谷の目の前に駆け出し、その鞘から刀身を抜き出す。刀はものすごい速度で紅谷の喉元に迫るが、紅谷はこれを難なくかわしてしまった。
「あはははハハハハハハhahahッハハッッッッ!!!」
紅谷はその赤い眼球をギョロリンッ!と動かし、目の前の蒼桐の腹部めがけてストレートを放つ。ただでさえ人一人を吹っ飛ばせる紅谷のストレートが豹変したことによって、何倍、何乗にも威力が膨れ上がっている。
(まずい……間に合わなッッッ!!?)
おおよそ人体を殴りつけたとは思えない音が部屋に響いた。蒼桐は自分の体から、ミシミシ……と不快な音が響くのを感じた。
蒼桐はそのまま壁叩きつけられる。ドゴォンという音が鳴り、また一つクレーターのような跡が壁についた。しかし、蒼桐はそれでも立っていた。
(……結構まずいな…)
蒼桐は黒鴉時代に習得した、ダメージを一時的に減らす呼吸法をしており、なんとか耐えられているが、これも一時的なものにしか過ぎない。そのうち凌ぎきれなくなる。
「アアアア??あははッッっ!?ハハッhahahahaha!!」
紅谷は相変わらず笑っておりその赤い眼球を再びギョロっと動かし、壁にもたれている蒼桐めがけて走り出す。走り出すといっても、たった二歩で標的の目の前にこれる動作を果たして『走る』と表現出来るのかは疑問だが。
蒼桐に『死』を思わせる拳が迫る。
(黒鴉式体術、歩法ノ壱『影渡』)
紅谷の正面にいたはずの蒼桐は、一瞬にして紅谷の背後に瞬間的に移動する。
「アアアaaaああああああゝあ!?!?」
紅谷の拳は壁に突き刺さり、そのまま紅谷本人の動きを止めてしまった。
(もらったかな?)
「黒鴉式剣術、『頭狩』」
蒼桐は刀の持ち手の部分で紅谷の頭部を叩く。これはあくまで不意打ち、逃走用などに使う技だ。
「ごッッ!?!?」
プッ…と紅谷は鼻から血を垂らし、その場に沈黙する。
「ふぅ……」
蒼桐は刀をしまうと紅谷を寝かせる。
「終わった……の?」
「助かったのかな?」
「ま、そうだろうな」
見る事しかできなかった三人はそれぞれほっとした表情を浮かばせる。
「……う、あぁぁ?……ん…アオ……ギリ…さん?」
その場で倒れている紅谷を覗き込むようにして蒼桐は立っていた。紅谷の瞳の色は黒に戻っていた。
「全く、手を焼いたよ。君を待ってる人がいるんだから、早く帰ろう」
「待って……いる……人……?」
「あぁ、ほら白石さん…っといったかな?」
蒼桐がその名を口にすると、紅谷の眼球が再び赤みを帯び始める……
「なッ!?」
紅谷はそのままゆっくりと立ち上がると、話し始めた。
「……翡翠さんのいっていた事はやっぱり間違いだったな……何が『激流』だ……俺は大切な人を守れなかったじゃないか…」
紅谷は俯きながら呟き続ける。
「……そうだ、大切な物を『壊される』前にそれ以外を全て『壊せば』いい……はは……ハハハ……」
「紅谷君!!」
蒼桐の言葉は紅谷には伝わらなかった。
「ハハハハッ!!そうだ!!壊される前に皆壊せばいい!!ハハハッ!!あはははハハhahahaha!!!」
再び紅谷の瞳が真紅に染まる。
「オイオイ……また命の危機かよ!?」
銀咲は叫んだが、紅谷のとった行動は、足を上げてその場に振り下ろしただけだった。
ドンッッと凄まじい衝撃が生じると、部屋の床がところどころ崩落し始めた。蒼桐と紅谷が暴れて部屋全体が脆くなっていたところに更に衝撃が加わった事で、部屋全体が崩壊し始めたのだ。
「あぁあああアハハハハハHAHAHAはは!」
紅谷はそのまま崩壊した床の下へと落下して行った。崩壊した床の下は暗く、底が見えなかった。
紅谷が落下したあとも部屋全体が揺れ続けていた。
「ちょっ……なんつー置き土産残しってのよアイツ!!」
「いや~これ危ないねぇ~………あ」
土田がバランスをとっていると、その後ろに居た夜透の足場が丸ごと崩壊した。
ぐらつき、自由落下に身を任せる姿勢になっていた。気付いた時にはもう遅い。
「や……」
夜透はそのまま紅谷と共に崩壊した床の下へと落下して行った。
「やすきぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
土田は叫んだ。紫暮の時とほぼ同じだ。ガックリとうなだれる。するとそこへ銀咲がまだ安定している足場を飛びながら、土田の元へ駆け寄った。
「ほら、生きてりゃ次がある。ともかく逃げるぞ、あ、そうだ瑠璃垣も持っていかないとな……えぇっと……?」
銀咲が部屋を見渡すと、何と捕縛していた瑠璃垣は縄を切断しており、そのまま床の下へと落下していく真っ最中だった。
「アイツッ……」
瑠璃垣の顔には歪んだ笑みが宿っていた。
「……チッ、まぁいい。また捕まえるだけだ。おい、そこのアンちゃん。とっとと逃げるぞ」
「アンちゃんって……はは、恐れ知らずな人だ」
豪華なホテルを模した部屋は崩壊を続けていた。
地図狩り勢力との抗争は、一応はこうして決着が付いた……
……豹変した紅谷 刃と、夜透と瑠璃垣を失った事で。
豪華なシャンデリアはボロボロになり、大理石のような綺麗な床は亀裂が入りまくり、壁にはクレーターのような跡がいくつも浮かんでいた。
銀咲、夜透、土田の三人は豹変した紅谷と戦闘服に着替えた蒼桐の人間離れした戦いを眺めていた。
「久呼ちゃん……あの人たち本当に人間なの?」
「アタシに聞くんじゃないわよ……」
「いやぁ……私も何が何だかわからないさね」
蒼桐は刀を鞘に収めると姿勢を低く保った。
「黒鴉式暗殺術、居合」
瞬間移動のように紅谷の目の前に駆け出し、その鞘から刀身を抜き出す。刀はものすごい速度で紅谷の喉元に迫るが、紅谷はこれを難なくかわしてしまった。
「あはははハハハハハハhahahッハハッッッッ!!!」
紅谷はその赤い眼球をギョロリンッ!と動かし、目の前の蒼桐の腹部めがけてストレートを放つ。ただでさえ人一人を吹っ飛ばせる紅谷のストレートが豹変したことによって、何倍、何乗にも威力が膨れ上がっている。
(まずい……間に合わなッッッ!!?)
おおよそ人体を殴りつけたとは思えない音が部屋に響いた。蒼桐は自分の体から、ミシミシ……と不快な音が響くのを感じた。
蒼桐はそのまま壁叩きつけられる。ドゴォンという音が鳴り、また一つクレーターのような跡が壁についた。しかし、蒼桐はそれでも立っていた。
(……結構まずいな…)
蒼桐は黒鴉時代に習得した、ダメージを一時的に減らす呼吸法をしており、なんとか耐えられているが、これも一時的なものにしか過ぎない。そのうち凌ぎきれなくなる。
「アアアア??あははッッっ!?ハハッhahahahaha!!」
紅谷は相変わらず笑っておりその赤い眼球を再びギョロっと動かし、壁にもたれている蒼桐めがけて走り出す。走り出すといっても、たった二歩で標的の目の前にこれる動作を果たして『走る』と表現出来るのかは疑問だが。
蒼桐に『死』を思わせる拳が迫る。
(黒鴉式体術、歩法ノ壱『影渡』)
紅谷の正面にいたはずの蒼桐は、一瞬にして紅谷の背後に瞬間的に移動する。
「アアアaaaああああああゝあ!?!?」
紅谷の拳は壁に突き刺さり、そのまま紅谷本人の動きを止めてしまった。
(もらったかな?)
「黒鴉式剣術、『頭狩』」
蒼桐は刀の持ち手の部分で紅谷の頭部を叩く。これはあくまで不意打ち、逃走用などに使う技だ。
「ごッッ!?!?」
プッ…と紅谷は鼻から血を垂らし、その場に沈黙する。
「ふぅ……」
蒼桐は刀をしまうと紅谷を寝かせる。
「終わった……の?」
「助かったのかな?」
「ま、そうだろうな」
見る事しかできなかった三人はそれぞれほっとした表情を浮かばせる。
「……う、あぁぁ?……ん…アオ……ギリ…さん?」
その場で倒れている紅谷を覗き込むようにして蒼桐は立っていた。紅谷の瞳の色は黒に戻っていた。
「全く、手を焼いたよ。君を待ってる人がいるんだから、早く帰ろう」
「待って……いる……人……?」
「あぁ、ほら白石さん…っといったかな?」
蒼桐がその名を口にすると、紅谷の眼球が再び赤みを帯び始める……
「なッ!?」
紅谷はそのままゆっくりと立ち上がると、話し始めた。
「……翡翠さんのいっていた事はやっぱり間違いだったな……何が『激流』だ……俺は大切な人を守れなかったじゃないか…」
紅谷は俯きながら呟き続ける。
「……そうだ、大切な物を『壊される』前にそれ以外を全て『壊せば』いい……はは……ハハハ……」
「紅谷君!!」
蒼桐の言葉は紅谷には伝わらなかった。
「ハハハハッ!!そうだ!!壊される前に皆壊せばいい!!ハハハッ!!あはははハハhahahaha!!!」
再び紅谷の瞳が真紅に染まる。
「オイオイ……また命の危機かよ!?」
銀咲は叫んだが、紅谷のとった行動は、足を上げてその場に振り下ろしただけだった。
ドンッッと凄まじい衝撃が生じると、部屋の床がところどころ崩落し始めた。蒼桐と紅谷が暴れて部屋全体が脆くなっていたところに更に衝撃が加わった事で、部屋全体が崩壊し始めたのだ。
「あぁあああアハハハハハHAHAHAはは!」
紅谷はそのまま崩壊した床の下へと落下して行った。崩壊した床の下は暗く、底が見えなかった。
紅谷が落下したあとも部屋全体が揺れ続けていた。
「ちょっ……なんつー置き土産残しってのよアイツ!!」
「いや~これ危ないねぇ~………あ」
土田がバランスをとっていると、その後ろに居た夜透の足場が丸ごと崩壊した。
ぐらつき、自由落下に身を任せる姿勢になっていた。気付いた時にはもう遅い。
「や……」
夜透はそのまま紅谷と共に崩壊した床の下へと落下して行った。
「やすきぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
土田は叫んだ。紫暮の時とほぼ同じだ。ガックリとうなだれる。するとそこへ銀咲がまだ安定している足場を飛びながら、土田の元へ駆け寄った。
「ほら、生きてりゃ次がある。ともかく逃げるぞ、あ、そうだ瑠璃垣も持っていかないとな……えぇっと……?」
銀咲が部屋を見渡すと、何と捕縛していた瑠璃垣は縄を切断しており、そのまま床の下へと落下していく真っ最中だった。
「アイツッ……」
瑠璃垣の顔には歪んだ笑みが宿っていた。
「……チッ、まぁいい。また捕まえるだけだ。おい、そこのアンちゃん。とっとと逃げるぞ」
「アンちゃんって……はは、恐れ知らずな人だ」
豪華なホテルを模した部屋は崩壊を続けていた。
地図狩り勢力との抗争は、一応はこうして決着が付いた……
……豹変した紅谷 刃と、夜透と瑠璃垣を失った事で。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
少年、その愛 〜愛する男に斬られるのもまた甘美か?〜
西浦夕緋
キャラ文芸
15歳の少年篤弘はある日、夏朗と名乗る17歳の少年と出会う。
彼は篤弘の初恋の少女が入信を望み続けた宗教団体・李凰国(りおうこく)の男だった。
亡くなった少女の想いを受け継ぎ篤弘は李凰国に入信するが、そこは想像を絶する世界である。
罪人の公開処刑、抗争する新興宗教団体に属する少女の殺害、
そして十数年前に親元から拉致され李凰国に迎え入れられた少年少女達の運命。
「愛する男に斬られるのもまた甘美か?」
李凰国に正義は存在しない。それでも彼は李凰国を愛した。
「おまえの愛の中に散りゆくことができるのを嬉しく思う。」
李凰国に生きる少年少女達の魂、信念、孤独、そして愛を描く。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
化想操術師の日常
茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。
化想操術師という仕事がある。
一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。
化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。
クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。
社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。
社員は自身を含めて四名。
九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。
常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。
他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。
その洋館に、新たな住人が加わった。
記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。
だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。
たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。
壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。
化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。
野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ニンジャマスター・ダイヤ
竹井ゴールド
キャラ文芸
沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。
大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。
沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。
イケメン政治家・山下泉はコメントを控えたい
どっぐす
キャラ文芸
「コメントは控えさせていただきます」を言ってみたいがために政治家になった男・山下泉。
記者に追われ満を持してコメントを控えるも、事態は収拾がつかなくなっていく。
◆登場人物
・山下泉 若手イケメン政治家。コメントを控えるために政治家になった。
・佐藤亀男 山下の部活の後輩。無職だし暇でしょ?と山下に言われ第一秘書に任命される。
・女性記者 地元紙の若い記者。先頭に立って山下にコメントを求める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる