アンダーグラウンドゲーム

幽零

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一章「ラビリンスゲーム」

紅と蒼

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豪華なホテルを模した部屋の中はもはやそこらの廃墟と変わらないほど内部は荒れていた。

豪華なシャンデリアはボロボロになり、大理石のような綺麗な床は亀裂が入りまくり、壁にはクレーターのような跡がいくつも浮かんでいた。

銀咲、夜透、土田の三人は豹変した紅谷と戦闘服に着替えた蒼桐の人間離れした戦いを眺めていた。


「久呼ちゃん……あの人たち本当に人間なの?」

「アタシに聞くんじゃないわよ……」

「いやぁ……私も何が何だかわからないさね」





蒼桐は刀を鞘に収めると姿勢を低く保った。

「黒鴉式暗殺術、居合」

瞬間移動のように紅谷の目の前に駆け出し、その鞘から刀身を抜き出す。刀はものすごい速度で紅谷の喉元に迫るが、紅谷はこれを難なくかわしてしまった。

「あはははハハハハハハhahahッハハッッッッ!!!」

紅谷はその赤い眼球をギョロリンッ!と動かし、目の前の蒼桐の腹部めがけてストレートを放つ。ただでさえ人一人を吹っ飛ばせる紅谷のストレートが豹変したことによって、何倍、何乗にも威力が膨れ上がっている。

(まずい……間に合わなッッッ!!?)

おおよそ人体を殴りつけたとは思えない音が部屋に響いた。蒼桐は自分の体から、ミシミシ……と不快な音が響くのを感じた。

蒼桐はそのまま壁叩きつけられる。ドゴォンという音が鳴り、また一つクレーターのような跡が壁についた。しかし、蒼桐はそれでも立っていた。

(……結構まずいな…)

蒼桐は黒鴉時代に習得した、ダメージを一時的に減らす呼吸法をしており、なんとか耐えられているが、これも一時的なものにしか過ぎない。そのうち凌ぎきれなくなる。

「アアアア??あははッッっ!?ハハッhahahahaha!!」

紅谷は相変わらず笑っており狂っておりその赤い眼球を再びギョロっと動かし、壁にもたれている蒼桐めがけて走り出す。走り出すといっても、で標的の目の前にこれる動作を果たして『走る』と表現出来るのかは疑問だが。

蒼桐に『死』を思わせる拳が迫る。

(黒鴉式体術、歩法ノ壱『影渡カゲワタリ』)

紅谷の正面にいたはずの蒼桐は、一瞬にして紅谷の背後に瞬間的に移動する。

「アアアaaaああああああゝあ!?!?」

紅谷の拳は壁に突き刺さり、そのまま紅谷本人の動きを止めてしまった。

(もらったかな?)

「黒鴉式剣術、『頭狩アタマガリ』」

蒼桐は刀のの部分で紅谷の頭部を叩く。これはあくまで不意打ち、逃走用などに使う技だ。

「ごッッ!?!?」

プッ…と紅谷は鼻から血を垂らし、その場に沈黙する。


「ふぅ……」


蒼桐は刀をしまうと紅谷を寝かせる。


「終わった……の?」

「助かったのかな?」

「ま、そうだろうな」

見る事しかできなかった三人はそれぞれほっとした表情を浮かばせる。


「……う、あぁぁ?……ん…アオ……ギリ…さん?」

その場で倒れている紅谷を覗き込むようにして蒼桐は立っていた。紅谷の瞳の色は黒に戻っていた。

「全く、手を焼いたよ。君を待ってる人がいるんだから、早く帰ろう」

「待って……いる……人……?」

「あぁ、ほら白石さん…っといったかな?」

蒼桐がその名を口にすると、紅谷の眼球が再び赤みを帯び始める……

「なッ!?」

紅谷はそのままゆっくりと立ち上がると、話し始めた。

「……翡翠さんのいっていた事はやっぱり間違いだったな……何が『激流』だ……俺は大切な人を守れなかったじゃないか…」

紅谷は俯きながら呟き続ける。

「……そうだ、大切な物を『壊される』前に全て『壊せば』いい……はは……ハハハ……」


「紅谷君!!」

蒼桐の言葉は紅谷には伝わらなかった。

「ハハハハッ!!そうだ!!壊される前に皆壊せばいい!!ハハハッ!!あはははハハhahahaha!!!」

再び紅谷の瞳が真紅に染まる。


「オイオイ……また命の危機かよ!?」

銀咲は叫んだが、紅谷のとった行動は、足を上げてその場に振り下ろしただけだった。

ドンッッと凄まじい衝撃が生じると、部屋の床がところどころ崩落し始めた。蒼桐と紅谷が暴れて部屋全体が脆くなっていたところに更に衝撃が加わった事で、部屋全体が崩壊し始めたのだ。


「あぁあああアハハハハハHAHAHAはは!」


紅谷はそのまま崩壊した床の下へと落下して行った。崩壊した床の下は暗く、底が見えなかった。


紅谷が落下したあとも部屋全体が揺れ続けていた。


「ちょっ……なんつー置き土産残しってのよアイツ!!」

「いや~これ危ないねぇ~………あ」

土田がバランスをとっていると、その後ろに居た夜透の足場が丸ごと崩壊した。

ぐらつき、自由落下に身を任せる姿勢になっていた。気付いた時にはもう遅い。

「や……」

夜透はそのまま紅谷と共に崩壊した床の下へと落下して行った。

「やすきぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

土田は叫んだ。紫暮の時とほぼ同じだ。ガックリとうなだれる。するとそこへ銀咲がまだ安定している足場を飛びながら、土田の元へ駆け寄った。

「ほら、生きてりゃ次がある。ともかく逃げるぞ、あ、そうだ瑠璃垣も持っていかないとな……えぇっと……?」

銀咲が部屋を見渡すと、何と捕縛していた瑠璃垣は縄を切断しており、そのまま床の下へと落下していく真っ最中だった。

「アイツッ……」

瑠璃垣の顔には歪んだ笑みが宿っていた。


「……チッ、まぁいい。また捕まえるだけだ。おい、そこのアンちゃん。とっとと逃げるぞ」

「アンちゃんって……はは、恐れ知らずな人だ」

豪華なホテルを模した部屋は崩壊を続けていた。


地図狩り勢力との抗争は、一応はこうして決着が付いた……


……豹変した紅谷 刃ヒーローと、夜透と瑠璃垣を失った事で。












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