アンダーグラウンドゲーム

幽零

文字の大きさ
上 下
47 / 68
一章「ラビリンスゲーム」

最終決戦:銀咲vs瑠璃垣

しおりを挟む
銀咲鋭子、彼女はアルビノだった。アルビノとは様々な個体に現れる特別な例のようなものだ。肌が白いなどアルビノはその個体の特定の箇所の色素が「白く」なる。銀咲はこのアルビノに当たる人物なのだが、彼女の場合、「白くなる」特徴は肌ではなく、その髪の毛にでた。そんな彼女が探偵になった理由は至極単純、その白い髪の毛を周囲の人間が気味悪がってまともな職につくことができなかったのだ。

しかし、目立たない方が何かとやりやすい「探偵」という職業で、何故否応にも髪の毛の色で目立ってしまう銀咲が活躍できたのかというと、単純に彼女の手腕が見事だったからである。その後その腕を買われ、何でも屋として社会の闇を扱うようになっていくのだが、そこでも彼女が消されなかったのはそれも彼女が単純に「強い」からである。



「チィッ!!面倒な女ねェぇ?銀咲ィィィ??」

「そんなに叫ぶと老けるぜ?ショタコン加虐趣味変態さんよ」


瑠璃垣は短剣片手に戦っているのだが、それと対等に素手で戦っている銀咲が異常と言わざるを得ない。


しかし、流石に全てを見切って躱せるほど単純な攻撃ではなく、瑠璃垣も瑠璃垣であえて変な軌道を描かせたり、時折「グニャリ」と体をことで、銀咲の体術に対応している。人体の構造上ありえない動きをしているようにも見えるが、瑠璃垣がどのように身体を変形させても、銀咲は特に驚いてはいないようだった。それは彼女がかつて対峙した、個人で天災のような強さを誇る、『八咫烏』との記憶があるからかもしれない。


「ったく、瑠璃垣ヨォ、その変な動きいつまで続けんだよ?」

「無論アンタが死ぬまでよォん?」

瑠璃垣は短剣を舐めながら答える。一瞬お互いが硬直した後、瑠璃垣はすごい速度で銀咲に向かっていく。


(短剣での致命傷狙いか?)

銀咲は瑠璃垣の頭めがけて、つま先を突き出す。そのままなら瑠璃垣に直撃……するはずだったが、瑠璃垣はグニャリとその体勢から脚をあげて、の床に脚をつける。そのままその場で回るようにして、しなやかに着地すると、床を蹴って、その勢いを利用したまま、銀咲めがけて短剣を突き刺す。

(狙うは頸動脈ねェ?)

ヒュボッ!!と銀咲の頸動脈めがけて短剣が迫る。銀咲はそれを首を横に倒すように曲げて紙一重で回避すると、自身の肘を瑠璃垣の頭に狙いを定めて振り下ろす。しかし、そこから瑠璃垣はどういう訳か、ほぼ確定で当たるような姿勢からグルンッと上半身だけを歪ませ、銀咲の肘をかわす。

「何よォ?もしかして当たるとでも思ったかしらァん?」

瑠璃垣がいやらしく笑うと、銀咲はニヤリと笑う。

「お前がどんなにグニャグニャ動いても、ここまで伸びきった腕狙われたらひとたまりもないんじゃないかい?」

「……しまッッ!!?」

瑠璃垣は上半身だけを動かしていたので、短剣を握っている片腕は銀咲の首の横にある。瑠璃垣がどれほど柔らかい動きができても、伸びきった状態ではダメージを逃すことはできない。

ゴキンッ!っと銀咲の膝蹴りが低い体勢の瑠璃垣の肩に当たり、瑠璃垣の片腕はプラン…と力なく振り子のように揺れた。ものを握ることもできないのか、持っていた短剣がカランと床に落ちた。

(……外れたかしらァン?)

瑠璃垣は一度銀咲から距離を取ると、自分の腕を確かめる。どうも関節から外れたようだ。

「やっと決定的なダメージが入ったなぁおい。スライムじゃねんだからグニャグニャ動くなよ」

銀咲は自分の首に手をあてて、ゴキゴキと首を鳴らしている。

対して瑠璃垣は自分の腕を優しくさする……ように見えたが、反対の腕で外れた腕を強引にねじ込んだ、まるでプラモデルのように外れたものを元ある場所に戻す……それだけ聞くと大した事ないように聞こえるが、その実凄まじい痛みが伴うものである。それを顔色一つ変えず、躊躇わず行う瑠璃垣の異常性は言うまでもないだろう。


「……おいおい…お前…気持ち悪りぃ通り越して感心するぞ、痛くねぇのかよ?どうなってんだ人体構造?」

「別に人と変わらないわよォ?」

瑠璃垣は入れ直した腕の調子を確かめるように、肩を回す。そしてベロリと頬を伝った血を舐める。

「人の体なんて所詮道具なのよォ。筋肉、関節、皮膚…それらは「ワタシ」が支配している「道具」でしかないわァ」

銀咲は瑠璃垣の話を聞きながら、コキコキと相変わらず関節を鳴らしている。

「ふぅ~ん、じゃあよ、下で戦ってる連中もアンタが支配してるってのかい?」

「そうねェ?ま、人の支配なんて自分の四肢を動かすより簡単よォ~?ただただ恐怖と苦痛を与え続けて、ふとした時に『飴』を与えるのよ~すると人は泣いて喜ぶようになるわぁ~」

「あーそーかよ、ご教授どうも。授業料はあの世で受け取りな」

「今もらうわよォ~?アナタの首でね~」


……お互い妙な間ができる。「どう切り込むか」を考えているのではなく、ただただ間延びしているだけの間。



次がお互い最後になる。どことなく銀咲と瑠璃垣は口に出さないものの、肌で感じていた。


チリチリとした殺気が漂う、それに気が付けるのはごく一部の人間だけだろうが、お互いにそれを感じとっていた。


先に動いたのは銀咲だった。土田とはまた違う威力の蹴りをフェイントなしで直接叩きこむ。瑠璃垣もただ突っ立っているだけではない。お得意の体術でかわしながら反撃を試みる。

瑠璃垣がぐにゃりと体を歪ませ、イナバウアーのような姿勢で銀咲の渾身の蹴りをかわす。そして後ろに反り返ったまま体のバネを最大限使い、反動でグンッ!と銀咲に近寄る。

(短剣落としたからって油断してんでしょうけどォ~……アタシにはまだ切り札があるのよ)

瑠璃垣は右腕を平たく構える。瑠璃垣の右手のネイル……に見えるものは、実は中指のネイルだけ剃刀の刃のように鋭い刃物のようになっていた。

(その首綺麗に落としてあげるわァん!)

シュッ!!と銀咲の首…もう一度頸動脈を狙う。銀咲はとっさに右手で首を覆う、しかし瑠璃垣の中指のネイルは刃物、皮膚で金属は防げない……

無慈悲に瑠璃垣のネイルが銀咲の手ごと抉り取る……


ギイィィィィン!!とような音が響いた。そう、金属音が響いたのだ。

瑠璃垣のネイルは銀咲の手に当たって止まっていた。正確には銀咲の中指と人差し指に当たって止まっている。

「……な、何がッッ!?!?」

銀咲は笑う。

「どうしたよ。予想外か?」

ギリギリギリ…と少しずつ…だが、確実にネイルが押し返される。

「お前もしかして……があるのは自分だけとか思ってたのか?」

やはり笑う。視線は鋭く、口元を歪ませ。

「残念だったなぁ?社会の闇を渡り歩いてたのはアンタだけじゃないんだぜェ?」

瑠璃垣のネイルにヒビが入る。

「なッッ!?」

「そうそう、この指だけどさ。ある日ヘマして親指、中指、人差し指が吹っ飛んじまってねぇ」

銀咲は瑠璃垣のネイルを押し返しながら続ける。

「でもさ、ある企業のイかれた博士の発明でまたこうして5本指に戻ったのだけど」

ビキビキッ!とネイルのヒビが広がってゆく……

「まぁ、あれだな…『高密度』やら『超合金』やらいってたけど…簡単にこの指のスペックを説明するとなると…」

バキンッ!とついにネイルが割れる。

「『灰城製』って言えばいいかな?」

そのまま銀咲は瑠璃垣の腕を掴む、脅威だったのは中指の刃物だったのであって、腕全体が凶器ではない。

そのままぐいっと瑠璃垣を引き寄せると、その灰城製の指で額を弾く。『硬い』なんて表現じゃ表せない強度の指から放たれた衝撃は瑠璃垣の脳を大いに揺さぶった。瑠璃垣はそのまま倒れこむ。


「ふふ……ふ……どうやら……アタ…シの……負け…みたいねぇ?」

背中を壁に預け、見上げるように銀咲を見る。その目にもはや闘争心は残っていない。

「ああ、そうだな」

銀咲はあっさりと告げた。

「こっちもが回って引き分けってとこかな?」

銀咲はクラリと立ちくらみのようにふらつくと、そのままベシャリと床に倒れる。瑠璃垣の使っていた短剣には死には至らないが、体の力ぐらいなら奪える少量の毒が塗ってあった。銀咲は短剣が掠めていくたびに毒を体に蓄積させていたのだ。

「まったく……どこまで狡猾なんだ…」

「こっちのセリフよォ…」

お互い目の前に倒れているというのに…お互いトドメをさせないほど消耗してしまっている。彼女たちは声をそろえてこう言った。

「「喰えない女」」
「ねェ?」
「だな」


そういうと、2人はほぼ同時に意識を手放した。










しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

少年、その愛 〜愛する男に斬られるのもまた甘美か?〜

西浦夕緋
キャラ文芸
15歳の少年篤弘はある日、夏朗と名乗る17歳の少年と出会う。 彼は篤弘の初恋の少女が入信を望み続けた宗教団体・李凰国(りおうこく)の男だった。 亡くなった少女の想いを受け継ぎ篤弘は李凰国に入信するが、そこは想像を絶する世界である。 罪人の公開処刑、抗争する新興宗教団体に属する少女の殺害、 そして十数年前に親元から拉致され李凰国に迎え入れられた少年少女達の運命。 「愛する男に斬られるのもまた甘美か?」 李凰国に正義は存在しない。それでも彼は李凰国を愛した。 「おまえの愛の中に散りゆくことができるのを嬉しく思う。」 李凰国に生きる少年少女達の魂、信念、孤独、そして愛を描く。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

化想操術師の日常

茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。 化想操術師という仕事がある。 一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。 化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。 クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。 社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。 社員は自身を含めて四名。 九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。 常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。 他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。 その洋館に、新たな住人が加わった。 記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。 だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。 たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。 壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。 化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。 野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン政治家・山下泉はコメントを控えたい

どっぐす
キャラ文芸
「コメントは控えさせていただきます」を言ってみたいがために政治家になった男・山下泉。 記者に追われ満を持してコメントを控えるも、事態は収拾がつかなくなっていく。 ◆登場人物 ・山下泉 若手イケメン政治家。コメントを控えるために政治家になった。 ・佐藤亀男 山下の部活の後輩。無職だし暇でしょ?と山下に言われ第一秘書に任命される。 ・女性記者 地元紙の若い記者。先頭に立って山下にコメントを求める。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...