アンダーグラウンドゲーム

幽零

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一章「ラビリンスゲーム」

最悪な合流

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豪華なホテルの一室、いつもと変わらずこの部屋の入り口で、音の流れていないヘッドホンをつけながら、夜透は壁に寄りかかって寝ていた。しかし彼の安眠はそう長く続かなかった。

「お~い、夜透ぃ~?おいってばぁ」

横には最近この部屋のメンバーに加わった、銀咲 鋭子がいつもの侍みたいな人と一緒に立っていた。

(なんか面倒事の予感がする……寝たふりでもするか…)

しかし、夜透が寝たふりをしているにもかかわらず、銀咲は遠慮なく話しかけてきた。

「お~い、夜透ってば~…寝ている人間は唾を飲み込まないんだぞ~?起きてるのバレてんだから、反応してくれ~」



……なんだこいつ。



「ったく…人が気持ちよく寝てんのに、何の用ですか?」

「いや、よくそんな場所で寝れんな」

「落ち着くんですよ、でなんです?」

「あぁ、そうそう。翡翠と一緒に探索に行こうかと思ってるんだけどさ、瑠璃垣が見当たらなくてね~?どこにいんだか」

…恐らく、この部屋の中で瑠璃垣さんを呼び捨てにできるのは、この人ぐらいだろう……

「そんなの俺に聞かないでくださいよ、タダでさえあの人気分屋なんですから……自分の部屋にでもいるんじゃないですか?」

「そうであるか、睡眠の邪魔をして申し訳なかった」

「あ、いえ…翡翠さんが起こしたわけじゃないですし…」

なぜか銀咲さんではなく、翡翠さんに謝罪された……この人、得体が知れないし、なんか『処刑針』とかいうもの持ってて物騒な人だと思っていたけど、礼儀正しくはあるみたいだ……

「んじゃ、とりあえずその瑠璃垣の自室ってとこ行くか!どこにあるんだい?」

俺は部屋の奥にある螺旋階段を指差しながら答えた。

「その階段登って、一番奥にある広い部屋ですよ」

「おぉ!そうか!あんがとさん!」

そういうと、銀咲さんは白い髪の毛をなびかせてカツカツと階段を登っていった。

「……はぁ、なんかどっと疲れた…」

適当なこと言ってさっさと追い払っても良かったが、何分相手は『一応』探偵。下手な嘘をついてもすぐにバレるだろうし、この後、瑠璃垣さんになんて言われるかわかったもんじゃないが、正直に答えた。

「にしても…なんであんなに髪の毛が真っ白なんだか」

夜透は階段を登っていく銀咲を見ながらボソリと呟いた。

再び彼は安眠を取り戻すべく、黒いヘッドホンをつけようとするが、またしてもそう長く安眠が続かないことを、この時の彼は知らなかった。





………視界が白濁としている…今俺はどこで何をしているんだろう?体の感覚がもはや分からない。自分の体のはずなのに、自分で動かしていないような感じがする……朧げに見えてきた視界には、俺にトラウマを植え付けた本人が何かを言いながら激しく体を動かしている……あぁ、なんだ、またこれか……意識が飛んだのは何回目だっけ?もうどうでもいいか……この人から逃げて、好奇心で動いてきたけど…それも、もうできそうにないなぁ………あれ?なんでこの人から逃げてタンダッケ?……アレレ?ソモソモ、ナンデニゲタンダッケ??


再び視界が白濁としてきた。再び意識を手放しそうになる……ぼんやりとした頭に聞こえてきたのは、アノヒトの声だった。

「あぁ~……、やっぱりアンタ最高の「オモチャ」よォ~?」

………「オモチャ」?あぁ、俺はこの人の「オモチャ」だったっけ?アレアレ?なんでオレはコノヒトを避けてたんだ?……モウドウデモイイカ、ナンカドウデモイイ……モウコノ「カイラク」ニ、ユダネヨウ……アァ、マタ意識が……マ、ドウデモイイカ……



『ブツリ』と意識が切れた。




糸の切れた人形のように動かなくなった黄島を見て、瑠璃垣は満足そうに顔を歪める。

「あらァん?また飛んじゃったのかしら?ま、少し休憩させてあげようかしらねェ?意識が飛んだのは~……あぁ、18回目ねェ~」

……にしてもこの子、本当にいいオモチャよね……もう少し大事に扱った方がいいかしらァん?

そんな事を考えていると、扉の方から声が聞こえた。

「オイオイ瑠璃垣、アンタ加虐趣味に加えてショタコンかよ。救いようないぜホント?」

ギョロりと瑠璃垣の目が反射的に動く。

「17歳はショタではないわよォ~?で、私が楽しんでいる最中になんのようかしらァ?」

瑠璃垣はペロリと舌なめずりすると、銀咲を蛇のような目つきで睨む。顔こそ笑っているが、「つまらない用なら殺す」といった目だ。

それに対し、少しも怯まず、銀咲もフクロウのような目つきで瑠璃垣を目据える。

「な~に、ちょいと暇だったんでね。翡翠と探索でも行こうかと思ったんだよ。そんで、『わざわざ』ご足労したってのに、アンタの変態的な趣味を見ちまうはめになったじゃないか。全く、気分が悪いぜ?」

「私の趣味に文句を言われる筋合いはないわよう~?それでェ~?探索?いいわよ別にぃ~」

「おぉそうかい。すまんな『お楽しみ』の途中で邪魔しちまって?」

「別にぃ~?それより貴女……誰に私の部屋の場所聞いたのかしらァん?」

「あ~、夜透が教えてくれたぞ?」

「ふ~ん、あの子…どうしてくれようかしらね?」

「ま、あんまり責めてやるなよ。じゃあ、あたしは翡翠と出てくるから」

そういうと、銀咲は扉の外で待たせていた翡翠と合流し、探索にでた。


「……全く、喰えない女ねェ~?」


独り言を呟くと、瑠璃垣は意識のない黄島をベットに残し、着替えを始めた。




「全く、本当に気分が悪いぜ…」

「大丈夫であるか?」

部屋を出て、階段を降りている最中に銀咲は先ほどの光景を思い出していた。

(全く、クズだとは思っていたけど、ここまでとはなぁ~)

そして階段を降りると、またもや謎な光景が目に飛び込んできた。

先ほどまで、気怠げにしていた夜透が、ずいぶんと巨体な男を片手で持ち上げていた。持ち上げられている男は口からぶくぶくと泡が出ているように見える。

「ん?あぁ、銀咲さん。戻ってきたんですか」

片手で巨漢を持ち上げながら、夜透はいつも通りの無感情な目でこちらを見ていた。

「オイオイ…どういう状況だ?」

「なんと、貴方は類い稀なる怪力をお持ちだったか」

「あ~……そういえば俺のことは話してませんでしたね。俺は昔から腕の力……主に握力が異常なまでに強いらしいんですよ」

つらつらと自分の異常性を語る夜透の腕には今にも死にそうな男がぶら下がっている。

「とりあえず、そいつ降ろしてあげなよ」

「あ~、なんかコイツこの部屋に突進してきたんですよね。まぁ、だからこうして吊し上げてるんですけど」

そういうと夜透は放り投げるように男を手放した。

「ゴボボボぼ……」

「あ~あ、こりゃ失神寸前だね~…」

といったものの、銀咲は特の何もすることなく、夜透に目配せしてから、そのまま翡翠と迷宮へと入っていった。


……「面倒だから任せたわ」みたいな感じだろうか?まぁ、確かにこんな光景…瑠璃垣さんにでも見られたりしたら、それこそ説明が面倒だろうし……


「あらァん?そのおデブちゃんは誰かしらァ?」


………おのれ銀咲、その勘の良さを俺にくれ。






「ふむ、貴女はあれで良かったのであるか?瑠璃垣と呼ばれる女性は容赦がないように思える。夜透殿も何かされるのでは?」

「大丈夫だよ別に。瑠璃垣は夜透に何もしないさ」

銀咲がそう言い切ると、翡翠は不思議そうな顔をして話す。

「なぜそう言い切れるのであるか?」

「ああいう人間は、有能な人材を自分で痛めることはしないさ、なんせあの女はあたしと似てるからね」

「ふむ、『何でも屋』というものか?」

「そうさね、利用できるものは何でもかんでも利用する。そういうやつだと思うよ」

銀咲は、鋭い目つきで話すと、そのあと少し悔しがるような顔でボソリとつぶやいた。

「まぁ、あたしもだいぶ失敗した時もあったよ……」

「ふむ?貴女ほどの人間が失敗するなんて、相手はよほどの手練れであったか?」

「まぁ、そうだね。翡翠、アンタは知ってるかい?政府公認の暗殺組織『黒鴉』ってやつを……」

先程までの雰囲気とは打って変わって、銀咲はピリピリした雰囲気をまとった。

「『黒鴉』?いや、私の記憶にはないな」

そういうと、銀咲は少し残念そうな表情になった。

「そうかい…君なら知ってると思ってたけど。ま、知らない方が幸せかもね?」

「ふむ?聞かせてくれないか?」

「え?あんまり楽しい話じゃないぜ?」

「構わない」

銀咲はそうかい、と少しだけ笑うと、話始めた…


ま、あたしがやったのは『黒鴉』ってのが本当にあるのかっていう依頼だったのさ。半分都市伝説みたいなもんだったからね?依頼主は政府のお偉いさんだったね。んで調べた挙句、大失敗。その連中の中でも最強とか言われてる『八咫烏』(ヤタガラス)ってやつにあっちまったのさ。ん?名前の由来?まぁ、「そいつが来たら勝ち」って意味だと思うよ?そいつはね、変なお面をつけてたよ、なんか爪で引っ掻かれたようなデザインのお面さ。んで、両手には十字の剣に全身は真っ黒なローブみたいなもんで隠してた。「強かったか?」うん、圧倒的だったよ。もう強いとかそんなレベルじゃないね、天災とかと同じだよありゃ……ま、でもその人は穏やかな声であたしに逃げるように言ったんだ。なんでかは知らない、それを調べるためにあたしはここを出たいのさ。出てって、見つけ出して問いただしてやるのさ。それが、あたしがここを出たい理由。




「……ふむ、『天災』のような強さの人…であるか」

「あぁ、そうだよ……ま、今はどこで何してんのか分からんけどな」

「死んでるかもしれないしさ」と、少々自嘲気味に銀咲は言った。

「まぁ、全てはここを出てからであるな」

「ま、そうだね」

すると、通路の奥から三体の狂人とエンカウント。

「はぁ、ホントに何体いんだか…翡翠、頼んだよ」

「ふむ、了解した」

翡翠は手にした『処刑針』を構え直した。

「私怨はないが、あなた方を殺させて頂く。恨むなら己の不運を恨んでくれ」

三つ眼のお面からは殺気が漂っていた。






「……ヘックシュン!」

「おや?おじさん風邪でもひきましたかー?」

「うーん、誰かに噂でもされたかな?ははっ」

「なんでしょうね~?昔会った人から、『死んでるかもな~』的なこと言われてたりして」

「ははっ、私は随分恨まれているね?」

「ただの勘なのです~」

「ふふっ、勘にしても言葉ちゃんは随分面白いことを言うね?」

「それほどでもなのです~」

「ふふっ、さぁもう遅いから、言葉ちゃんは寝なさい?」

「了解、お休みなさいなのですー」

「はい、お休み」

言葉がトコトコと2階に上がって行くのを見送って、彼は夕飯のお皿を片付け始めた。その最中、ポツンと呟く。

「………『死んでるかも』…か………ふふっ、心当たりはあるけどね」


彼が言った言葉は、皿洗いの音に混ざって消えていった。




「で?おデブちゃんはその男に追い払われてここまで逃げてきたのかしらァ?」

「デュフフ…そうなんでゴザル………失敗に続く、失敗……もうこうなりゃ手段は選ばないでゴザルー!」

巨体の男は瑠璃垣に襲いかかろうとするが、瑠璃垣はヒールの踵で男の顎を蹴り上げる。

「ごふっ!?」

「瑠璃垣さん、こいつ殺します?」

夜透は淡々としてた口調で言い放つ。しかし、襲われそうになった瑠璃垣はむしろ笑顔だった。まるで新しい玩具を見つけたみたいに。

「ねぇ、おデブちゃん?もしあなたが私の指示を素直に聞いてくれたらァ……」

そこまでいうと瑠璃垣は男に近づき耳打ちする。

「……キモチイイこと、してあげてもいいわよォ?」

それを聞いた巨体の男は、目を充血させて勢いよく返事をした。

「今より拙者は貴方の忠実なシモベになるでゴザル!!」

「うんうん、期待してるわァ~」

と、瑠璃垣は満足そうに頷くが……

(ま、遊ちゃんがいるから、適当に使って『ポイ』かしらねェ~…)


……こちらが本心だった。


それを側から見ていた夜透は察した。「あ、こいつを使うだけ使って、俺に処理させる気だ」と。

そして、瑠璃垣にそそのかされた男とは……


皆さんお察し、金田である。

















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