アンダーグラウンドゲーム

幽零

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一章「ラビリンスゲーム」

襲撃

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……ったくよう…なんで休憩室にあったもん拾ってたらこんな目にあってんだ?

「と、橙坂さん、追いかけて来てます!」

「あ!いたぞ!追え!逃がすなぁ!!」

何故かよく分からん男どもに必死に追いかけられている。あんな奴らに負けるとは思わないが、あの時のように紫暮を狙われたら厄介な事になる。とりあえず逃げるしかねぇか…

「ハァ…ハァ…」

「……キツいか?」

「いえ、大丈夫です……ってひゃあ!?」

橙坂はヒョイッと紫暮を持ち上げるとそのまま走り出した。

「え、ちょっ…と、橙坂さん!?私は自分で走れますから!」

「…こうした方が速ぇだろうが」

橙坂は紫暮を肩に担ぎ、走り続ける。


しばらく走ると、入り組んだ道に出たので細い道に入り連中から隠れることにした。


「お、おい!見失っちまったぞ!」

「知るか!探せ!!……取り逃した何て瑠璃垣さんに知られたら……と、とにかくみつけろ!」

男たちは叫びながら通路を通り過ぎる。

(あんだァ?ルリガキ?……名前か?)

どうやら男たちは瑠璃垣と言う奴に従っているらしい…とすると、あいつらは手下か何かか?

(なんで俺たちを狙うんだ?……もしかしてコレか?)

先程拾った肩掛けの小さなバックに目をやる。これは休憩室ではなく、そのまま通路に置いてあったものだ。……中身は中々物騒なものだったが。

「あの、橙坂さん」

紫暮が不安そうに見上げている。

「…どうした?」

「あの人たち…なんであんなに必死だったんでしょうか?」

「……俺に聞くなよ」

ともあれ、連中はどこか見当違いな方へ行ったらしく、足音も声も聞こえなくなった。

「とりあえず、奴らはいなくなった見てぇだし、ここから離れるか…にしても面倒な連中に目ェつけられたな…」

橙坂は辺りに男たちがいないことを確認し、足早にその場から離れた。




豪華なホテルの一室を思わせる部屋では3人の男が怯えながら正座で座っていた。

「でぇ?1ばぁん?そのままアイテムを持った奴をみすみす逃したのかしらァん?」

露出の高い服を着た女がソファに座って足を組みながら男に聞く。1番と呼ばれた男はビクリと肩をふるわすと、恐る恐る話し始めた。

「は、はい…申し訳ありません…瑠璃垣さん…ただ小さいバックだったので大したものは持ってないかと…」

男が言い訳のように言うと、瑠璃垣はソファから立ち上がり、スタスタと男の前まで歩いた。

「へぇ?そうだったのぉ?そんなに小さいバックならそこまで必死に追わなくても良いわねぇ~」

瑠璃垣は男の前にしゃがむと蛇のような目付きで男を見た。

「ま、今回は見逃してあげるわぁ~」

そう言って瑠璃垣が立ち上がると、男は九死に一生を得たような顔になる…しかし……

「ッごは!?」

勢い良くヒールで顔を蹴りあげられ、後ろに倒れるとヒールの踵で顎を砕かれた。

「がァァァァァッ!?」

「なぁ~んてねぇ~、アタシがそんなに甘い事言うとでも思ったのかしらァん?」

瑠璃垣は叫ぶ男を気にもせずヒールでドカドカと顔を蹴り続ける。男の顔はアザだらけになり、原型をとどめていなかった。


「もう…許して……下さい……」

男の口から嗚咽のように言葉が漏れる。その言葉を聞くと瑠璃垣は足を下げて再びソファに座った。

「まァ…3人のうちのアンタにだけあたっても仕方無いわねぇ?何でアンタだけかって?それはアタシの気分よォ~、運が悪かったと諦める事ね」

瑠璃垣は歪んだ笑みを漏らすと手を振り、さっさと出て行けと3人に促した。

3人が部屋から出ていこうとすると瑠璃垣は捨て台詞気味に言った。

「君らは奴隷なんだからしっかり働きなさいよねぇ?アタシの機嫌を悪くしないようにィ…せいぜい務める事ね」

その言葉を聞いた3人は大急ぎで再び迷宮に向かった。


1人になった部屋で、瑠璃垣はため息を着いた。

「……ハァ…ホンットに使えない連中だわァ~…イライラするわね」

横を見てボソリとつぶやく

「まったく、使えるのもアンタぐらいよ」

視線の先にいるのは、夜透がヘッドホンをつけていた。すると瑠璃垣の視線に気がついたのかヘッドホンを外す。

「あぁ、終わりましたか…もう少し静かにやって下さい」

夜透は一言だけ言うとまた部屋の隅によっかかりヘッドホンをつけスヤスヤと寝始める。ヘッドホンからは音楽は聞こえない、耳栓代わりにしているのだろう。




「お、おい…大丈夫か?1番…」

1番と呼ばれた男はとても喋れる状態じゃなかった。

「お、おい…やめておけよ3番…喋れる訳ないだろ…」

もう1人の男が話す、彼らは迷宮で狂人に襲われていた所を瑠璃垣に助けられた。助かったと思っていたがそれ以降、彼らは瑠璃垣から奴隷のような扱いを受けていた。

「クソっ!これもあのオレンジの髪の毛の野郎のせいだ……!」

「あいつら殺せば瑠璃垣さんは褒めてくれるはずだ!」

彼らは瑠璃垣からの過度な暴力に耐えかねて、性格が歪んで彼女のことを1番に考えるようになっていた。さながらブラック企業の社員のようである。

すると3番と呼ばれた男は床に何か落ちてるのを見つけた。

「これは…ちぎれた包帯?」

「あ、そう言えばあいつ腕に包帯巻いてたぜ!お手柄だ2番!奴らはこっちに行ったんだな!」

3人は顔を歪ませ橙坂の後を追いかけ始める……訂正、1人は既に歪んでいた。





「ここまで来れば平気か?」

「さぁ…どうでしょうか?」

とりあえず振り切った気はするものの、ここまで一本道なのでバレたら隠れようがない。

「あれ?橙坂さん…腕の包帯……」

「あん?」

見ると、腕の包帯がちぎれていた。逃げてる途中に何処かに引っ掛けたのだろうか?

「どこかでちぎれたんだろ?…まぁさっきまでは普通に巻かれてたんだし、ちぎれてからそんなに時間はたってねぇな……」

言って、気がついた。ここは一本道で包帯がちぎれてから時間はあまり経ってない。それはここに逃げたと言っているようなものでしかない。

「いたぞ!オレンジ頭だァァァァ!」

「……あ~、めんどくせぇ!」

再び紫暮の手を引いて逃げる。しかし紫暮を連れている橙坂はジリジリと距離を縮められる。

「あぁクソッ!!」

追いつかれそうになった時、橙坂にさっき拾った小さなバックが目にとまる……


コイツを使うしかねぇなァ!!


「紫暮ェ!出来るだけ離れろ!!」

紫暮は橙坂の言葉を聞くとコクンと頷き脇目も振らずに離れた。

「お?どうした!ようやくそれを渡す気になったか!」

橙坂は小さいバックを片手で掴むと前に突き出した。

「そんなにこいつが欲しいかよ」

「あぁ!そうだ!さっさとよこせ!」

男の言葉を聞くと橙坂は躊躇いなく、バックを放り投げた。

「欲しいんならくれてやるよ」

男達は投げられたバックを必死になって掴んだ。すると、思いの外バックが軽かった……小さいにしても軽すぎる……

「あぁ、言い忘れた。そいつの中身なんだが…」

バックの中からピピッ!と言う機械音が聞こえた。

「俺からのサプライズだ」

「は?」

「あ?」

「へ?」

3人揃って頭上にシークレットマークを表示している間にピー!と甲高い音が響く。瞬間爆音が響き渡った。



爆風で巻あがった煙が収まると、3人仲良く倒れているのが目に入った。

「だから言ったろ?サプライズだってな」

すると、爆音が聞こえたのか紫暮がパタパタと駆け足で戻ってきた。

「と、橙坂さん!?今の音は!?無事ですか!?」

「あー、俺は大丈夫だ。連中はこの通り仲良く寝てやがるぜ」

橙坂が指さした方向を見ると川の字になって男達が転がっている。

「あの~、あのバックの中には何が入ってたんですか?」

紫暮に聞かれた橙坂は、ニヤッとして答えた。

「時限爆弾」




ちぎれた包帯を巻き直して貰っていると、倒れていた男が1人意識を取り戻し、橙坂を見るなり叫んだ。

「く……クソっ!…卑怯だ…ぞ…!」

言われた橙坂は表情を崩さず男に言い放つ。

「何とでも言えよ、卑怯だろうが何だろうがな…」

橙坂はそばにいた紫暮の頭にポンッと手のひらをおく。

「俺はこのガキを守るのに精一杯なんだよ」

橙坂に言われた男は馬鹿にするように笑うと言い返す。

「はっ!そのガキ守ってヒーロー気取りかぁ?」

橙坂は男の言葉に振り向かずに答える。

「俺はヒーローじゃねぇ、ただの負け犬だ」





連中を撃退した後、しばらく歩いていると紫暮が何が言いたげに見上げてきた。

「……何だよ」

聞くと、紫暮は待っていたかのように口を開ける。

「橙坂さんは負け犬なんかじゃありません!私にとって橙坂さんはヒーローですから!」

「……そうかよ」

橙坂は紫暮から顔をそらす。そらした顔の口角は、わずかに上がっていた。





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