アンダーグラウンドゲーム

幽零

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一章「ラビリンスゲーム」

油断

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「はぁ…何かさっきから狂人の数が多くないかしら?」

「それほどゴールに近づいてるって事じゃなーい?」

「敵さんいっぱいいましたね」

チェーンソーを持ってるとはいえ、小さな少女を前衛にする訳にも行かないので、とりあえず黄島に狂人を任せ、黄島が取りこぼしたやつをアタシが蹴って進んできた。


道なりに進んでいると、長い通路のような所に出た。何故か近くに看板がたっており、崩壊注意と書かれていた。

「え~と~?これは信じて良いのかな~?」

「地図にはここ以外道が無いと思うのだけど」

「ここ渡るんですかぁ~…あぁ、ゾクゾクしますぅ~」

紫暮ちゃんの反応はとりあえず置いておき、ここを通る以外道がない気がする。

「黄島、先に行きなさい」

黄島は聞くや否や、あははァ…だよねぇ~と苦笑いし、準備運動のようなことを始めた。

「アンタ何してんのよ?」

「いやぁ?だって落っこちる可能性があるんでしょ~?崩壊注意って書いてあるし。だから落ちても大丈夫なように足をならしてんのよ~」

どうやら黄島は落ちた時に足を痛めないようにしてるらしい。

「それじゃ行きますかーねッと!」

黄島はスタターッと通路を走り抜ける。

「あっれ~?何か大丈夫そうだよ?」

黄島は問題なく通路を渡りきった。ブラフだったのだろうか?

「何だ、普通に渡れるじゃないの」

「嘘だったんですかね?」

黄島は向こう側でおーいと手を振っている。なんて気楽な奴なのかしら…


通路を渡たり始め真ん中辺りまで来た時、突然床が揺れ始めた。

「な、何?」

「えーと、大丈夫ですかね…?」

すると通路の先にいる黄島が何やら察したような顔をしていた。

「あ~…土田さ~ん、紫暮ちゃ~んすぐ戻って~」

「ハァ!?何でよ」

「いやぁ~…何かヤバいやつがこっち来てるのよ~」

黄島がアタシの方までダッシュで戻って来ると、早く早くと言って、アタシと紫暮ちゃんの襟元を掴み、来た道を戻り始めた。

「ちょっ…どこ持ってんのよ!」

「ひゃゃゃ…」

「あ~、文句は後で聞くよ土田さ~ん。とにかく後ろ見て、後ろ」

言われた通り後ろを見ていると、通路の奥から普通の人間の2、3倍近く巨大な狂人がドスドス走りながら出てきた。顔には被り物ではなく何故かお面をつけており、手には金棒のようなものを持っている。

「ッ!?何よアイツ!」

「わぁ…おっきいですね」

「だからいったじゃ~ん?」

すると巨大な狂人はものすごい勢いで追いかけてきた。

「あ~、これ追いつかれちゃうな~」

すると黄島はアタシと紫暮ちゃんの襟元から手を離し、両足についたホルダーからナイフを引き抜いた。

「ちょ~っとこれは俺一人じゃ無理そうだな~…さすがに土田さんも手伝ってね~?」

「ハァ…これはまぁ…そうね、手伝ってあげるわ」

紫暮ちゃんに奥に隠れるように支持するとトテトテと急ぎ足で端の方に避難した。

「でさ~、コレの名前どうする~?何か鬼のお面つけてるけどさ」

「純粋に『鬼』でいいんじゃないかしら?」

「え~…センスな~い……」

「凝った名前つけてどうすんのよ」

そう言うと黄島はブー…と膨れっ面になった。

「確かにさーシンプルな名前の方がいいけどさぁー…」

「サイコパスが顔膨らましたところで可愛くないわよ」

「わかってまぁ~すよ~」

そんな会話をしていたら鬼は金棒を振り回しながら突進してきた。…巨体の割に俊敏ね、だけど大きいって事は当てやすいって事なのよ。

鬼の腹部目掛けて蹴りを放つ……が、しかし…

「……ッチ、こいつどんだけ脂肪があんのよ!」

蹴りの威力を全て巨体に吸収されてしまい、思うようにダメージが入らない。鬼は金棒をアタシの頭目掛けて振り下ろす。が、それほどスピードがないため難なく避けれた。しかし、金棒の威力は凄まじく、床の破片が飛び散る。

「強くはないけど……厄介ね」

「はいは~い、黄島さんが通りますよ~っと!」

アタシが金棒を避けた後に、黄島は振り下ろされている金棒を踏み台に鬼の喉元めがけてナイフを突き刺す。

「ゴッ……ウオァァァァァァァァァ!!!」

「ッまじで!?喉に刺さってんのに死なないの!?」

黄島は素早く鬼から距離をとる。黄島はナイフを鬼の喉元に刺したまま離れてしまった。この状況は…かなり厳しいかしらね……

「え~…なんで喉に刺さってんのに死なないんだよ~…土田さ~ん、コイツどんだけ皮膚分厚いの~…?」

「アタシに聞くな」

どうにか致命傷を与えるものが欲しい…どうしようかしらね…

すると、影に隠れていた紫暮ちゃんが叫んだ。

「あの!土田さん!私のチェーンソーが!」

言われてハッとする。そういえば紫暮ちゃんはチェーンソーを持っていた。それを使えばおそらくダメージを与える事が出来る。

紫暮ちゃんが床を滑らすようにチェーンソーを渡してきた。持った事ないからだいぶ扱いづらいと思うけど…

ヴゥゥゥン…とチェーンソーのエンジンをかける。電ノコが勢いよく回転し始めた。

「お~、土田さんカッコイ~☆」

「無駄口叩いてないで手伝いさいよ」

「はーいはい」

そう言うと黄島は素早く鬼と距離を詰めると、喉に刺さったままのナイフを引き抜くためにジャンプする。しかし鬼は片手で黄島を振り払った。空中なので受け身の取れない黄島はそのまま鬼の腕に辺り吹っ飛ばされる。

「おぶッ!?……痛ァァ……」

黄島が床に叩きつけられる。ただ床に叩きつけられる直前に受身を取ったのか、思ったよりダメージは少なそうだった。

「ったく、少しは頑張りなさいよ…」

「いやぁ…アイツ強いのよ~…」

「……時間は稼ぐわ、さっさと立ちなさいよ」

黄島はコクリと頷き、少し下がる。


チェーンソーを持って、鬼の正面に立つ。

「さ、どこを切り落とされたい?」

「ブオォオォォオォォォォオ!!!」

鬼が金棒を横に振る。そのタイミングに合わせてしゃがみ腕の下に潜り込んで伸びきった腕にチェーンソーをぶち当てる。電ノコが鬼の腕を削ぎ落とし、吹き出した血がアタシの服を染める。

「ヴォォォォォォ!!!」

さすがに片腕を切り落とされたら、どうしようもないでしょうね。

しかし鬼は残っている方の腕で金棒を掴むと、がむしゃらに振り回し始めた。

「っぶないわねッ!!」

何とか鬼から離れる事が出来たが、これではとどめをさせない。

「ハァ…面倒な事になっちゃっわね…」

離れた所から興奮している鬼を見ていると、黄島がいつの間にかそばで立っていた。

「あ~、仕方ないかぁ…土田さんちょ~っと離れてて?」

「は?アンタ何すんのよ?」

そう言うと黄島は腰につけたポーチからもうひとつナイフを出した。しかしそれは脚につけているナイフより薄く、細かった。

「まぁ、見ててよ~」

黄島はそのナイフをつまむように持つと、何かを狙うような体勢になった。

「ヨッ!!!」

黄島がナイフを投げる。投げられたナイフは綺麗な直線を描き、喉元に刺さったままのナイフにカツンッ!と音を立てて命中した。すると刺さっていたナイフは投げナイフの威力に押され鬼の喉を貫通し、投げナイフは刺さっていたナイフに弾かれ手前に落ちた。

「ガァァァァァアァア!!!」

鬼は首元から噴水にように血を吹き出し、遂に沈黙した。

「ふぃ~…終わった終わった~」

黄島は鬼のそばに落ちていたナイフを回収しに、鬼の死体にスタターっと近付いた。

「アンタ投げナイフあるんだったら最初から使いさいよ!」

まくし立てると、黄島はえー…っと表情を曇らせた。

「だってさ~投げナイフだったら切り落とす時の感触を味わえないじゃ~ん…楽に殺せるけどもったいないよ~」

黄島は片手をフリフリしながら理由を話した。

「ハァ…まぁ、今回は助かったからいいわ。ただ次からは最初から使いなさいよね」

「はいはーい」

戦い終わった時、紫暮ちゃんが隅から出てきた。

「お二人とも、お疲れ様です」

「紫暮ちゃんも無事で良かったわ」

「いや~ホントホント。こんな奴も出てくるんだね~」

ほっとしながら通路を渡る。しかし、それが決定的な油断だった。鬼との戦闘ですっかり忘れていた、看板の存在を…

突然横を歩いていた紫暮の身体が、後ろにガクンと揺れる。

「……え?」

紫暮の後ろの床が崩落していた。鬼との戦闘で脆くなっていたのだろう。

「ッ!?」

「紫暮ちゃん!」

チェーンソーを持っていたアタシは反応が遅れ、黄島も手を差し出したが、間一髪間に合わず、紫暮はそのまま下に落ちていってしまった。崩落した床を見ると、暗くて底が見えなかった。



「……ッ……油断したわ…」

唇を噛む、鬼との戦闘が終わって、油断してしまった。すると黄島がそばによってきた。

「ま、落ちたものは仕方ないよ。俺も助けられなかっしね~。進もう土田さん、生きていたらどこかで会えるかもしれないよ~」

黄島はフードを深く被り直しながら言った。口元は笑っているがその笑みはいつもより引きつっているように見えた。

「……そうね、進みましょう…」

「大丈夫だってぇ~、いつか会えるよ!きっとね~」


いつかこのチェーンソーを紫暮ちゃんに返す。それまではアタシも死ぬ訳には行かないわ…

再び2人になって、迷宮を進んでいく。






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