アンダーグラウンドゲーム

幽零

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一章「ラビリンスゲーム」

遭遇

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さっきから下水道みたいな道が続いていて気分が悪い。全く、なんでアタシがこんな目に会わなきゃ行けないのよ…変わった事と言えば地図がある事だろうか…

「無いよりはまぁ、進みやすいわね」

その時、独り言のような声が聞こえてきた。狂人みたいな呻き声ではないので、まともな人間みたいだけど…まぁ、あのクズ見たいなやつかもしれないし、油断せず行きましょうかね。

少しずつ声が大きくなってきた。角を曲がると、今までの下水道の景色とは一変、海外のようなレンガ造りの道になった。ホントどういう造りになってんのよ、ここは…

少し歩くと、目の前にフードを被った男が何かの前にうずくまっているのが見えた。


「うーん、お゛う゛ぇぇぇぇぇぇぇ……まっずいなぁ…タバコの臭いしかしねぇよ…うーん、こっちなら大丈夫か?……おぇぇぇぇ…やっぱり食えねぇじゃねぇか。誰だよ人肉美味いとか言ってたヤツ…」

その男は何かを食べては吐いてを繰り返していた。近付くとその男はこちらに気が付いたらしく振り向きながら立ち上がった。

「んー?ありゃ?お客さんかなー?」

その男はミリタリーなデザインのジャケットを着て、フードを被り、白いのっぺりとした仮面を付けた男だった。

「何してんのアンタ…」

男の後ろを目をやると、それは人の死体のようだった。

「んー?いやぁ別に?お腹すいたからさぁ、ホラ人肉って美味いっていうじゃん?だからさー、好奇心で食べてみた、的な?」

仮面のせいで表情は見えないが、随分と楽しそうにしていることはわかる。

「ハァ?アンタ人食べてんの?流石に引くわー…」

「おー?お姉ぇさん随分冷静だね?普通はショックでゲロ吐くか、怯えて足腰抜けるもんじゃないのー?」

「いや、誰が死んでようがアタシには関係ないし」

そう言うと、男は驚いたような素振りを見せ、その後に楽しそうに話し始めた。

「お姉ぇさんさぁ?この俺と同じサイコパスかなー?お仲間?」

「アンタと一緒にしないで欲しいわ。アタシは人を食べたいとか思わないっての」

そう言うとサイコ男はふーんと鼻で返事すると、得意げに話し始めた。

「ま、人はどんな理由でも人を殺す事ができると思うけどねー?俺はまぁ興味本位だったけどさ。あ、そうだそうだ。お姉ぇさんさ、最近起きてた連続切り裂き事件とか知らなーい?」

「ハァ?…あー、なんか聞いた事ある気がするけど」

アタシがここに来る前に起きていた割と有名な事件だ。被害者は全員あらゆる場所を切り裂かれていたという殺人事件。犯人は未だ捕まっておらず、そのまま事件が起きなくなったので犯人は自殺したって言われていたけど。

「それねー、犯人はこの黄島(キジマ)さんなのよ。ジャック・ザ・リッパーの再来だーとか言われてたじゃん?もう自分が有名になっていくのが嬉しくてさー」

黄島と名乗った男はナイフを手元で遊ばせながら、仮面の奥でクスクスと笑った。

「アンタさぁ、殺人鬼ならあの黒服達に捕まらなかったんじゃないの?なんでこんなとこにいんのよ」

「あー、それねー。さすがに大勢で来られたら黄島さんもお手上げって訳よ。大人しく捕まりましたー☆」

黄島はまたクスクスと笑う。コイツにとっては誘拐された事なんてどうでも良い事みたいね。

「お姉ぇさんさ、俺を見ても怖がらないねー?なんで?フツー殺人鬼に出会ったら逃げない?」

黄島はナイフをクルンクルン手元で回しながら聞いてきた。

「別に、殺人鬼に会うよりも怖い思いをしたことがあるだけよ」

「へぇ~、お姉ぇさんも色々あったんだねー?ごくろーさん」

黄島は特に感情もこもってない声で答えた。するといきなり私の体を観察するように見始めた。

「何よ?」

「うーん、いやァお姉ぇさんさ、胸大きいね?」

「ずいぶん直球ね」

「いやー言葉ボヤかしても結局言ってることは特に変わらないでしょ?」

サイコパスだからなのか知らないが、随分とデリカシーがないように思える。ま、サイコパスに常識を求めるのは無理があるか。

「で、それが何だっての?」

「いやー、それがさァ…興味本位で人を食べてみたら大して美味くもなくてさ~。タバコの臭いしたり…とにかく不味かった訳よ。でもお姉ぇさんのそこなら柔らかそうだから美味しそうだなーって思ってねー…」

そう言うと黄島は太ももの辺りに着いていたケースからもナイフを抜いた。コイツ2本持ってたのか。

「って事で~、僕の好奇心のためにさ…死んでくんない?」

そう言うと黄島は無邪気な子供みたいに首を傾げた。

「両手にナイフ持って仮面付けた男が可愛らしく首傾げたところで全く可愛くないわよ」

あは~、やっぱり?と言うと黄島は低姿勢になり一気に距離を詰めてきた。このまま私の胸を削ぎ落とすつもりだろう。ただ…

「狙う場所が分かってたらただの的なのよ」

黄島が切りつけるタイミングを先読みしておおよそ頭が来るであろう位置に蹴りを放つ。しかし、黄島は蹴りが当たる直前で体をひねらせ回避した。

「うぉっ、あっぶな!お姉ぇさん以外と強いね~」

「舐めてかかるとアンタが死ぬわよ」

「いや~、さっさと死んでくれないと困るよ~、俺は好奇心抑えられないんだよね~」

黄島はナイフを逆手に持ち直した。今度は本気で切り落としにくるみたいね。

「んじゃ、舐めずに行きますかーッね!」

ダラーんとした棒立ちからいきなり加速して距離を詰めてきた。不意打ちのつもりかしら?まぁ、確かにノーモーションで来るとは思わなかったけど。

今度は真正面から向かってきたので確実に当たるスピードで蹴りあげた。しかし…

「あはッお姉ぇさん以外と読みやすいねぇ~?」

黄島は一旦自分でブレーキをかけ、蹴りをギリギリで回避した。蹴りあげた脚が空を切る。

「もーらいっ!」

黄島はそのまま勝ち誇ったように距離を詰めてきた。そう、蹴りあげた脚を気にもせずに…

「アンタ、馬鹿ね」

「…え?」

蹴りあげた脚をそのままに一気に振り下ろす。スパァァァン!!と黄島の頭に綺麗にかかと落としが決まる。

「あだッ!」

黄島は顔から床に叩きつけられ、手からナイフが滑り落ちた。

「まったく、攻撃に二撃目があるかも知れない事ぐらい予想しなさいよ…」

黄島はしばらく叩きつけられたままの姿勢で動かなかったが、少しするとゆらゆらしながら立ち上がった。

「あー……痛ったァァ……うわー…久々に効いたわぁ…視界がすんごいグルグルする~…」

黄島は壁に寄りかかりながら立ち上がる。すると黄島の仮面にヒビが入り、割れ始めた。

仮面は粉々に割れ、破片が床に落ちると陶器が割れるような音をたてた。

「あ~…気に入ってた仮面なのに~それ~…あーそれどこんじゃないわ…気持ち悪ッ」

黄島は脳震とうになっているみたいで、壁に手を付きながら中腰になっている。

「で、まだやる訳?もうやめた方がいいんじゃないかしら?」

「あ~…そうする。………ふぃ~、ちょっとはマシになったかな~?」

少し脳震とうが和らいだらしく、黄島は顔をあげた。するとあまり歳も変わらないような若い男の顔が見えた。割と整っている方だろうか?

「素顔晒すのもいつぶりだろうなー…結構男前でしょ?」

「まぁ、そうね。ただアンタの顔なんてどうでもいいわ」

適当に反応すると、黄島は「あちゃー…」と言ってフードの上から頭をかいた。


地図を見るにこの先の通路は割と入り組んでいる。地図は二次元でしか見れず、自分が今いる場所は表示されないので結局迷う時は迷う。さてどうしようか…

決めかねていると、黄島から声をかけられた。

「ねー、お姉ぇさーん…俺も連れてってくんなーい?」

「ハァ?アンタ連れて行ってアタシになんの得があんのよ」

そう言うと黄島は床に落ちていた2本のナイフ拾い上げて両手で器用にクルクル回し始めた。

「ナイフの扱いに慣れたサイコパスが仲間になりまーす。それにさぁ、お姉ぇさんと一緒なら死ななそうだしさ!」

黄島は笑いながら言う。

「アンタ1人連れてっても食料の無駄よ、それにアタシは1回体目的で寝込みを襲われてんのよ。アンタ見たいなサイコパス信用出来ないわ」

そう言うと黄島は手元で回していたナイフを両足のケースしまい、腕を組みながら自慢げに話し始めた。

「あ~大丈夫大丈夫。確かにお姉ぇさんはスタイル良いけど、俺、死体でしか興奮できないから☆」


……信用以前の問題だったわ…


「という訳でどーうお姉ぇさん?お買い得だよー?」

黄島は手をブラブラさせながら言った。

「分かったわよ、連れて行ってあげるわ。ただ、狂人に遭遇したらアンタが優先して戦いなさいよ」

「はーい、黄島さんに任せて置きなさいってぇ~、あ、そうそうここら辺の道は頭に入ってるからさ、途中まではお姉ぇさんの事、道案内出来るよー」

「それは助かるわ。ただその『お姉ぇさん』って呼び方やめなさい」

「えー、じゃ名前教えてよ~」

「…土田よ。2回は言わないから覚えておきなさい」

「はいはーい」


こうして、ノリの軽いサイコパスと行動を共にする事になった。



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