終末世界と少女と兵士。

幽零

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1話

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ある生体実験により産み出されてしまった『世界樹』により世界の文明は崩壊した。そんな世界で僕は一人の少女と探し物を見つける旅に出ている。僕は『記憶』、少女ネイムは『母親』だ。僕の『記憶』を呼び覚ますために今はこうして、街を渡り歩いてはそこの老人に昔の事を聞いて回っている。

「で、どうするのですかノゼ様。昨日の件でお金はないのですよね?」

「いやぁ、どうすると言ってもね。お金を稼ぐのはこのご時世簡単な事ではないし…」

「その簡単に稼げなかったお金をノゼ様は浪費してるのですよ」

「うーん、ごめんね。僕は金銭感覚がよくわからなくて…」

僕は記憶喪失だ。自身に関する記憶が一切ない。ただ、僕が生きた時代に身につけた『知識』などは忘れていないようなのだ。全く都合のいい記憶喪失である。記憶喪失も困るのだがそれ以上に困るのは僕が『いつの時代に生きた』人間なのかが分からない事だ。なので僕には今の時代の金的価値がよく分からない。

「ノゼ様は本当にいつの時代の人なのでしょうか?」

ネイムが首をかしげて聞いてきた。ネイムは顔立ちが整っているし、何と言うか人形のように可愛いのである。だから僕は誘拐されないか割と不安なのだ。

「……って僕はロリコンじゃないよ……」

「…?ろり……こん?」

ネイムは聞きなれない単語だったのか再び首をかしげた。これだ、僕の知識の中にある言葉がこの時代では通用しないのだ。つまり、『僕の生きた時代の言葉』は『この時代』では死語のようなものらしい。

……まぁロリコンなんて言葉通用して欲しくはないけどね。

「ごめんねネイム、よく分からない言葉だったね。ホントに僕はいつの時代に生きていたのだろう…」

僕がいつの時代に生きていたのかも謎なのだが、僕もこの体も謎なのだ。かなり昔の時代に生きていたのであろう事は何となくわかってきているのだが、それでもどうやら若い頃のままの身体を維持し続けていたのだ。

「ノゼ様がいつ生きていたのかはわかりませんが、ノゼ様がお若い頃のままの姿を保てていたのはやはり、『実験』が関係しているのでしょうか?」

「どうだろうね、僕自信が記憶喪失だし、本当にそんな事されたのかも分からないからね」

ここの街でやる事は老人に昔話を聞く事、そして旅の必需品を補充する事だった。ネイム曰く、ここの物価は割と安い方だったらしい。『世界樹』によって産み出された生物が別段危険なものでは無かったからだろうと言っていたけど。

旅支度を整え、宿から出ようとした時に若い女性が息を切らして近寄ってきた。

「すいません!お爺様にお話を聞いていたドリフターの方ですか!?」

ドリフターとは放浪者とか言う意味らしく、この世界を旅して『世界樹』の勢力を倒したり、珍しい文明の遺品を見つけて売ったりして生活費を稼ぐ人達の事を言うらしい。僕はそんなつもりはなかったのだけど、旅はしている訳だしそう見られても仕方がないのだろう。

「えぇ、そうですが。良く僕だと分かりましたね」

「お爺様からは変わった格好をされた御仁だと伺っておりましたので…」

「……」

またか…変わった格好。僕が着ているのは昔の軍隊の服装なのだけど、この時代の人達は分からないのだろうな。確かに深緑色の服にその上からは足元まで丈のある同じような色の防弾コート、それに加えて帽子なんて被ってたらね。 帽子にはつばが付いていて、こめかみの辺りにバッチのようなものが付いている。僕が知っているのは『旧帝国陸軍』と言う東の方に位置した島国の昔の軍隊が使用していた物らしいと言う事だが…

何故僕がそんな古い格好をしているかはまた後で話すとして、とにかく今はこの人の話を聞こう。

「旅の途中で、ごめんなさい…実は強盗まがいの事をするドリフターが家に来まして…今は別の家に行ったらしいですけども…どうか鎮めて頂けませんか?」

女性は前日訪れたご老人の娘さんらしく、どうやら強盗のようなドリフターに襲われたらしい。ドリフターの中にも礼儀知らずや、ギャングまがいの事をするやつは後を絶えないのだ。理由は簡単、楽に金稼ぎが出来るからだ。

(にしても、丁度この街を後にしようとした時に中々面倒な事を頼まれたなぁ…)

「どうかこの街のためにも彼らを追い出して貰えませんか?」

「うーん、でもなぁ…」

僕はこの頼みを受けようか迷っていた。ただでさえ余裕の無い旅(大抵の原因はノゼの昔話に対する浪費)、人助けをしている余裕が無いことは言うまでもない。

「お礼は致します!どうかこの街のためにも…」

お礼はすると言われても…正直面倒だ。

「ノゼ様」

僕が決めはぐっていると、後ろで旅支度を進めながら話を聞いていたネイムが声をかけてきた。

「ノゼ様の浪費で、昨日は夕ご飯がありませんでしたね」

「あ、あ~…」

「お礼もしてくださるみたいですし、少しぐらい良いのではないですか?」

「……はぁ、わかったよネイム。では、やるだけやって見ましょう。こう言うタチの奴らは追い出すだけでは懲りないので少々手荒になりますよ」

「ありがとうございます!!」

僕は争い事があんまり好きではない。元軍人かもしれない人間が言うセリフではないのだろうが、それでも僕は嫌なのだ。別に自分が痛い思いをするのが嫌な訳ではない。

……人を殺してしまうかもしれない事が嫌なのだ。本当に元軍人なのかも疑わしくなるセリフだけど、人を殺す事に僕は物凄い抵抗を覚えるのだ。……ホント、僕は記憶喪失になる前に何があったんだろうか。

僕は憂鬱な気分でこの軍隊服と一緒に見つけた『ライフル』を手に、ネイムの視線を受けながら部屋を後にした。

…あんまり大事にならないといいのだけど。

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