神様の仰せのままに

幽零

文字の大きさ
上 下
93 / 94
After storys

二話

しおりを挟む
「それで、お呼びなので?」

「あぁ、そうだ」

執務机を挟んで反対側。白獅子と名無子は向かい合っていた。血のつながった実の親子だが、神宮内での立ち位置は未だこの差。『墓守』の任につくと言った時、『巫女』になった同僚からは必死に引き止められたが、母は愉快に、父は見据えたように笑っていた。

そんな父は偉大である。偉大で偉大で見上げて首が痛くなってしまうぐらいには。

物心ついた時から、父はずっと何かを見据えている気がする。幼いながらにが何か聞かなかった。頬と胸元に浮かんだ「竜痕リュウコン」が父の過去を物語っていたからだ。


きっと、憧れの人でもいたのだろう。今の私が父親に憧れているように。


全てを見透かすような瞳が、名無子に向く。


「……漸哉ゼンヤの様子はどうだ」

(あぁ、やっぱりなので)


名無子は棺桶を置いて、しっかり向き直ると答える。

「漸哉は相変わらずなので。女性二人を連れて、神守に何かを言われては半殺し。この繰り返しなので」

「……ハァ~」


谷透タニトウ 漸哉ゼンヤ

『白獅子』谷透 修哉の実の息子であり、名無子の弟。だが、無表情でユーモアのある名無子とは違い、皮肉屋で捻くれ者。おまけにぶっきらぼうで無愛想。授かった異能力の為、神守としてではなく『穢祓い』として活動している。


「……名無子、アイツに任務を言い渡す。伝えてくれるか?」

「父殿がお伝えしないので?」

「あぁ、私が出ればまた面倒事になりかねんからな……」

気苦労の色が浮かぶ顔を見て、名無子はピッと敬礼する。

「わかりました、徒歩でとっとと伝えてきますので。トホホ~……ん?どうしました。笑うところですよ?」

「あ、あぁ……お前は表情が全く動かないから冗談と真剣の見分けがつかないんだよ」

「ユーモアのわからない父殿なので。では行ってくるので」

「あぁ、頼んだ」

名無子が出て行った後、そばに控えていた四方が白獅子に話しかける。

「よろしいんですかい?」

「あぁ、俺はせがれに嫌われているからな……」

「お察ししますってなもんで」



「さてさてーっと……あ、いたいた」

その男は、砕けた木々の生い茂る森の中、腕を組んで大木に寄りかかっていた。

亜麻色の髪を後ろで団子状に纏めており、右目には眼帯をしている。腰には太刀が二本に背中には大きな鉄製の弓を背負っている。全身を鎧甲冑で固めており、まるで暴力が服を着て歩いているような雰囲気だった。

そして、何よりデカイ。とてもデカイ。


「お~い漸哉~。伝える事があるので~」

「………あ?」

不機嫌に目を開け、名無子を見下ろす。

名無子の背丈はギリギリ140センチあるかないか。比べて漸哉の身長は184センチある。


「……何の用だ」

重い刀のような言葉をぶっきらぼうに言い放つ。

「父殿が貴方に任務を言い渡すそうなので。まぁ修練場のアレの埋め合わせ的な感じだと思うので」

そういうと名無子は漸哉の言葉も待たずに手紙を開いてよみあげる。

「神宮の南支部付近に戦闘慣れした中妖怪が確認出来たようなので。その討伐に向かって欲しいんだそうで。一般人に被害が出ないように慎重に事に当たれとの事なのでー」

聞いた漸哉は苛立ちながら、名無子の持っていた手紙を取ってビリビリに破く。

「………チッ、追い出してぇならそう言えば良いだろうよ」

言いつつ、漸哉はそのまま任務へと向かう。

「……惑香マドカ小夜サヤ。行くぞ」

漸哉の低い声に反応するように、木陰から2人の女性が出てくる。

1人はダラしなく浴衣を着崩している女性で、もう1人は穏やかな笑顔を浮かべている女性だった。

「はぁい漸哉様。はやくいきましょ~?」

屈強な漸哉の腕にくっつくダラしない格好の女性はデレデレとした表情から一変、名無子の方を見るとギロリと無表情で睨みつける。

「……あぁ~……居たんですねぇ?」

「あなたの姉では無いのでー。惑香さん」

「……チッ」


背を向けて行こうとする漸哉と惑香、その後ろを行儀よくついて行こうとするもう1人の女性に名無子は話しかける。

「それじゃあお願いするので。小夜さん」

小夜と呼ばれた女性は穏やかに微笑むと、上品に言葉を紡ぐ。

「えぇ、あの方の狂気を収められるのはわたくしだけですもの。あぁ、とっても楽しみですわ。最早芸術的な暴力と技量の両立を完成させた漸哉様の武術。返り血を浴びるのが楽しみですの~」

ふふっと微笑むと、足早に漸哉を追いかけ始めた。

「……んー。濃いメンツなので。でも漸哉に心酔してる小夜さん以外を監視役に付けたらどうなるかも分からないので~」

ボソリボソリと呟きつつも、お使いは終わった!とドヤ顔(無表情)を浮かべる名無子はよっこいせと棺桶を背負うと歩き始める。



『穢祓い』

それは神宮の三組織と言われている『神社』『神守』『巫女』の、どの組織にも属さない稀有な立場である。

かつて白獅子がその立場に居たとされている階級で、『強力な故に固有名を着けられた異能力等を持つ人物』を、監視役をつけて管理する立ち位置でもある。また、例外的に自由行動が許可されており、どの組織にも属さない地下管理者の『墓守』と似た立ち位置でもある。


つまり、谷透 漸哉は神宮から要注意人物として監視役が着いている状態である。

その監視役だが、鬼のような強さと獰猛性を持ち合わせている漸哉の監視役に着こうと思う人物は当然皆無。その為、かつて漸哉に助けられ心酔している小夜が監視役に選ばれた。



(まぁ~あの弟の事なので。神宮側も『監視役』ではなく、『足枷』として小夜さんの監視役を認めている節もあるので)



そんな事を考えながら、名無子はシャベルを取り出して墓地作りをしようと地下へと向かった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン政治家・山下泉はコメントを控えたい

どっぐす
キャラ文芸
「コメントは控えさせていただきます」を言ってみたいがために政治家になった男・山下泉。 記者に追われ満を持してコメントを控えるも、事態は収拾がつかなくなっていく。 ◆登場人物 ・山下泉 若手イケメン政治家。コメントを控えるために政治家になった。 ・佐藤亀男 山下の部活の後輩。無職だし暇でしょ?と山下に言われ第一秘書に任命される。 ・女性記者 地元紙の若い記者。先頭に立って山下にコメントを求める。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

化想操術師の日常

茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。 化想操術師という仕事がある。 一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。 化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。 クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。 社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。 社員は自身を含めて四名。 九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。 常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。 他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。 その洋館に、新たな住人が加わった。 記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。 だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。 たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。 壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。 化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。 野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

処理中です...