神様の仰せのままに

幽零

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穢神戦争編

78話

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「……暗器か」

フヌゥムは知っているかのように呟く。

「流石、生き抜いてきた神ってところですかい」

血染めの形相になった四方は、悍ましい形状の武器を次々投擲すると同時に、懐からも暗器を取り出し仕掛ける。

「人間ができる動きではないな…」

フヌゥムは巨岩の大鉈で、暗器を薙ぎ払い、四方の攻撃を捌き続ける。

「…あまりこういう事は好みでは無いが」

フヌゥムは地面を思いっきり踏み付け、衝撃で地面を浮かばせて視界を塞ぐ。

(……目潰しのつもりか?)

視界で姿を確認できなくなった為、距離を取ろうと離れた瞬間、背後にフヌゥムが大鉈を構えていた。

「……ッ!!?」

「勝負あったな」


フヌゥムの鉈が振り抜かれる………



が、四方は予知していたかのように、体を捻ってかわす。



その反動を利用して、フヌゥムの体に有刺鉄線を大きくしたような暗器を刺し込む。


「ぬ……」

「残念ってなもんで」


四方は間髪入れずに再び投擲武器による攻撃を開始する。



「………人間業ではないな…」


あの顔になってから投げてくる武器も様子が変わった。一投一投に殺意がこもっている。ここで確実に殺すという意志、悪意すら感じる。

フヌゥムは真顔で体の奥まで刺さった有刺鉄線を引き抜くと、投げ捨てる。


(…人間であれば、苦しんで死ぬような作り……成程、つまり奴は……)




暗殺と拷問に慣れている。




「……此方と同じ、修羅の道を歩いてきたか」

「……さてねぇ、歩いてきたのは桃源郷かもってね」


「……は、修羅そのものだろう?」

フヌゥムの指さすとは、四方の周囲に渦巻く怨念のようなものである。

「先程理解した。それは其方の中にある怨念や呪念の塊。それを具現化して、感覚を拡張している。先程の此方の攻撃を避けたもの、それの恩恵だろう」

「べらべらと喧しいってね」



全て正解である。四方は自身に募っていった感情、取り分け暗殺と拷問に対しての思いを封じ込めていた。

表面にそれを放出し、感覚を拡張する。例えるなら、無数の夢を見ている感覚。


「良くもまぁ、正気を保っていられるものだ」

「お褒めに預かり恐悦至極ってなもんで。幕引きといきましょうか…」

四方は懐からギザギザと刃こぼれしたような日本刀を取り出す。

「知っていますかい?鈍が一番苦痛なんでさァ」

「………そうだな」


フヌゥムは両手で巨岩の大鉈を構える。



「良くぞ、奮闘した。賞賛の意を持って、八割で御相手しよう」


さらに一段階、フヌゥムのギアが上がるのを四方は体感した。


(……ちっ…まだ届かねえんですかい…)


嫌悪する自分の本性を出して尚、この神の首に届かない。


「……ま、手を抜く理由にはなりゃあせんわ」

四方は突きの構えを取る。


「……此方の八割の力を前に、未だ一歩も退かぬその姿勢。見事」

フヌゥムは大地を蹴り、八割の力を持って大鉈を振り下ろす。

「勝ち誇って、足元掬われねぇよう気を付けなさんなッ!」


衝撃の後、土埃が晴れる。




「………あ~~あ…」


大地に沈んだのは……





四方 桃源







「……白獅子あの人には絶対に見せたくなかった姿まで出して、結果がこれですかい…」


四方はもう指の力すらまともに入らない。


「……即死しないとは、流石だな」


目の前には、堂々とフヌゥムが立っていた。


「……彼岸でも誇ると良い。此方とここまで渡り合った人間は、其方が初めてだ」

「…………」

「せめてもの手向けだ。苦しませはしない」


「……ひとつ、訂正しなきゃいけねぇ事があるってね」

「……?」

四方の言葉にフヌゥムの動きが止まる。

「アンタと渡り合える奴ってのは……あっしゃだけじゃあ無くなる」

四方は、最後の力を振り絞り右手をあげると、ポツリと呟く。

「……って訳でバトンタッチですわ」

声は、虚空に響く。











「花車」








瞬間、大斧が弧を描いて飛来する。

「……む…」

フヌゥムはそれを難なく弾くと、距離を取った。


「四方~、珍しいにぃ~?まぁ寝てろって。たにとーに道を開ける。でしょ?」

「察しが良いのだけはホント助かりますわ」


しかし、どうやら彼女だけでは無いようだった。カツカツと2人分の足音が聞こえる。


「姉さん、あの四方が瀕死ですが」

「あら、助けたいのだけど…個人的に彼にはいい思いが無いのよね。谷透様との逢瀬を散々邪魔されましたし?」

「いや~…そんな事言ってる場合じゃねぇんですわ……」

「まぁ良いわ。意趣返しはこれくらいで。それで?あの目隠しを倒せば良いのね?」

「姉さん…僕ら満身創痍だから、そう簡単には行かないと思いますが?」


御影と真陽が合流する。



「貴方がここまでやられるとは……珍しいですね。四方さん」


さらに……



「遅くなりました。加勢致します」


最強の凡人、鳴神 風切が追い付く。


(……?あれは風切?出会った頃は僕の方が数段強かったですが……)

(あら?随分と雰囲気が変わったわね?)

(……ふーん、たにとーがゆーとーせーって言ってただけはあるってか~…)

「……何ですか?皆して私を見て」


「「「別にー?」」」


見ていたフヌゥムは唸る。

「ほう……」

強者が揃いつつあるこの状況、たしかに気持ちは昂っている。


「今日を記念とせずして何とするか」

巨岩の大鉈を構えながら、集う六武衆に向けて言い放つ。

「此方はフヌゥム。其方達の敵、四堕神の一柱」



「「「「……六武衆」」」」




お互いはお互いを見据える。知るべき事は全て知ったと言わんばかりに。



2回目の衝突が始まる。




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