神様の仰せのままに

幽零

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穢神戦争編

77話

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もう微かにしか思い出せない、遥か過去の記憶。


都というものとはえらく遠く、縁もない地で、私は戦神として存在していた。


信者の彼らは、略奪民族だった。戦で他の住民と戦い、雄叫びをあげ、亡くなった人間は味方も敵も同等に弔う。戦の後は、祝杯をあげる。そんな生活だった。


「ハッハッハ!今回も勝利だ!」

「あぁ、何せ、戦神フヌゥム様のご加護があるのだからな!」

「あいつらに負けぬのも道理よ!」

「ガッハッハ!飲め飲め!!」

「そうだな、其方達の経験の賜物だろう」



それからしばらく後、相手も略奪を行う民族を相手にした戦が起きた。



「おい!敵の神は目隠しをしているぞ!真っ先に狙え!!」

「うぉぉぉッッ!!」

「………ふむ…」

フヌゥムは信者達が拵えた大剣を振りかぶり、一薙ぎで向かってくる敵を蹴散らす。

「これは、手加減の部類だ。済まないな、騙すつもりは無かった。故に……」

大剣を握る手に力が込められる。

「謝意を込めて、本気でお相手しよう」


圧勝だった。なんせ略奪民族に信仰されている戦神なのだ。弱い訳がない。


そんな中、ほとんどの地域を制した民族は、都までその存在が知れ渡っていた。




「ガハハハ!!俺たちは最強なんじゃあないか!?」

「なんせフヌゥム様の加護があるからなぁ!!」

「滅ぼした村の連中も俺たちに加わっている!大きくなる一方だぜ!」

「皆、よく頑張ったな」

「フヌゥム様に乾杯!」


「「「乾杯ッ!!」」」



彼らはまだ知らない。都に名が知れ渡ったという事は、真の強者たちに目をつけられたという事だということを……











「ガッ……ハッ……」



視界に映る地面は、自分の口から出た鮮血で染まっている。身体に力が入らない。膝が震えている。ダメージが大きい……

「……」

知る限り、信者は全員殺されてしまったのだろうか……

霞む視界で捉えたのは、数柱の神。



それは、神々の脅威に対する神々の切り札と呼ばれる神であった。

それは、武器の名を冠し凄まじい戦闘能力を誇る神であった。

それは、武器への畏怖と信仰から産まれる神であった。




名を、武神と呼ぶ。




「アッハッハ!随分と過剰戦力じゃあない?」

「刀谷ゥ……品がないぞ……」

「固いこと言うなよ~阿剣ぃ~」

「撃ち漏らしはいねぇようだぜ?盾岩」

「我が言っているのは油断するなと言うことだ」

「やれやれ…こんな物ですか。略奪民族の神というから、もう少し期待していたのですが」

「まぁ、アタシらからしてみれば大半が雑魚だからねぇ?ただ、一人になっても食いしばり向かってくるその闘志……これはまさしく……」

「『浪漫だな』……とでも言うのでしょう?弓羅、貴女はそれ以外言葉を知らないのですか?」

「セリフを取るなよ利斧。浪漫に理解の無いやつだなぁ」

「暇にでもなれば理解しますよ」

「いや利斧、お前が弓羅の『浪漫』を理解できるとは思わねぇぞ?」

「そうですか。それで刀谷、いつになったらのです?」

「……あ?」




「………粛に」




自由奔放だった盤上を、たった一言で沈黙させる神。


数々の武神の最奥に立つ、圧倒的強者。

「……んで、どうするんだ刃紗羅。放っておくのか?」


『刃の武神』 刃紗羅バサラである。


「………」

刃紗羅は地に伏せるフヌゥムを見下すと、一瞥し他の武神に言葉を放つ。

「……放っておけ、信者は全員死んでいる。まだ姿が残っているようだが、放っておいても消えるだろう」

その言葉に少し不満そうに、利斧と呼ばれた武神が突っかかる。

「刃紗羅様、お言葉ですが、この神は数々の略奪を繰り返してきた民族の神です。放っておくのは危険では?」

利斧は戦斧を出すと、地に伏せるフヌゥムに向ける。

「……止めろ」

「しかし、信者が消えても残るこの強靭性。私の好奇し……もとい、正義が許しておけませんね。ここはやはりトドメを刺すべきで……」





まるで、刃物が乗ったような重圧な言葉であった。利斧は、息を飲み言葉が出なくなる。どうやら冷や汗をかいているようだ。

「我を不快にさせるのであれば、たとえ武神でも容赦はしない」

「……わ、かりました」

「ハッハー!利斧怒られてんの~」

「利斧のヤロー調子乗りすぎだっての。刃紗羅様に勝てる訳ないだろーに」

「……帰還するぞ皆の衆。が待っているだろうからな」

「しかし……ここまでやる必要あったのでしょうか」

「阿剣、セイメイの指示だ。彼奴の言葉には偽りもなければ外す事も無い。本当に人間なのか、疑いたくなるほどにな」

「まぁ、こいつはオイラとあったし~?しょうがないよね~」

武神たちが去っていく中、刃紗羅は振り返り、存在が消え始めたフヌゥムに言葉を残す。

「お前は強かった。だが、我々はその上をいった。それだけの話だ」

辺りには、誰もいなくなったのだろう。風が吹く音しか聞こえない。

「………ッッ……」

これが武神……これが……


目の前には、散らばるかつての信者たちの姿があった。


何故だ……何故此方は武神として生を受けられなかった………何故っ……



もっと強くあれば…彼らを守れたかもしれないのに……





何故……何故武神になれなかった!!!!






胸を穿つは遥かな激情。己の弱さに怒り狂った。

突如、ごぽりと口から何かが溢れてくる。直感で理解した。得体の知れない何かに飲まれつつあるのだと。


「……此方を飲み込もうと言うのか……」

体に突如溢れる謎の力……

「……否…」

フヌゥムは力を込めて叫ぶ。


「此方が飲み込むッッ!!使われるのは貴様の方だ!!」


溢れてきた穢れの力を、一瞬で押さえ込むフヌゥム。



その後の方針は一つだった。武神を超える力を手に入れる。その為ならばできる限りのことをする。




「なぁ、知ってるか?とある神様の噂」

「あぁ、聴いた事がある」

「なんでも、巨岩を削ったような大鉈を担いだ神様らしいじゃないか」

「迫り来る大岩を素手で砕いたらしいぜ?」

「洪水が来た時、大地を割って水を流したらしい」

「火災を起こした大妖怪を退治したらしい」

「巨人を殺したとかなんだとか……」



どれも根も葉もない噂だろう。だが、一つだけ一貫している内容があった。



「無益な殺生はしないんだそうだ」






「………まだ遠いな…」

フヌゥムは巨岩の大鉈を地面に突き刺し、坐禅を組んでいる。

北の大地で、『ダイダラ』と呼ばれる巨人を殺し、南で洪水を相手に鍛え、西で迫る岩を砕きながら鍛え、東で火を操る大妖怪を殺した。


それでも、まだまだ足りないのだろう。



そんな中だった。寝ぐらとして使っていたボロボロの社に、一人の男がいた。

「おぅ…お前がここ最近暴れている神か?」

「……誰だ?」

「俺はゼシって言うんだが……まぁいい。端的にいうか」

ゼシと名乗ったその男は下卑た笑みを浮かべて言葉を続ける。

「神々の戦争に興味はないか?」


「………ふむ」




一つ、自分の意にそぐわ無いと感じれば直ぐに殺しにかかるという約束のもと、協力することになった。




それからはずっと、鍛え、殺す日々。




「なぁフヌゥム、お前神通力ねぇだろ?」

「……気安く呼ぶな、外来種が」

「もしかして…その帯で包んでる眼に関係してんのか?」

「詮索は嫌いだ。死にたいか?」

「はいはい、わかったわかった」









この力は使わない。これを使えば、此方の信念が霞む。




曰く、武神に成れずとも、武神の如く。





「……冗談御勘弁ってなもんなんですがね」

四方は笑いながら冷や汗を垂らす。


あれが7割………そう、7



フヌゥムが巨岩の大鉈を横薙ぎに払うと、一文字の真空波が弧を描いて飛んできた。


「……ッ!?」


四方は寸前で体を下げてかわす。当たった壁は抉れていた。


「………ッッ…」


四方がチラリと壁の威力を確認すると、ふと視界が陰る。

「何を休んでいる?」

「……んなッッ!!」


ゴッッと、大鉈が四方に命中する。




頭から血を流し、がくりと首が垂れる。

(……いってぇ~…)

額に手をやると、ぬちゃっと自分の血が付着する。


「………全くもって……やれやれですわ」



ゾンビのように力無くゆらゆらと立ち上がると、四方は自分の血で汚れた両手で顔を抑える。


「………?」


「あんまり……を出したくはねぇんですよ」

今まで四方からは想像できない低い声が発せられる。

「なんせ、あっしゃあ裏切った人間。ほったらかしていた人間。従順とはいえ、連中に合わせる顔がない」

血で濡れた顔は段々とその形を変えていき、最後にはまるで化け物のような形相になる。

まるで死人の怨念が混ぜこまれた表情。



枯葉里カレハザトの衆 隠密部隊筆頭……』



複数人の声が重複したような音が、空気を揺らす。


四方ヨモ 桃源トウゲン


ゆらぁ…と立ち上がり、脱力したポーズで双眸をフヌゥムに向ける。


周囲には、死者の怨念のようなものが渦巻いているように見える。

懐から今までとは様子の違う武器を取り出し構える。



「『《御命頂戴〉」】



複数の声が重複した音色が響く。





その様を見たフヌゥムは、にぃと笑うと巨岩の大鉈を構えて言い放つ。


「其方、本気では無かったのだな?」


「いいや、本気でしたぜ……」




指先にいくつもの暗器を浮かべて、血染めの面構えで持って答える。
















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